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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
序章
3/76

#3 転校生と親友と新術師――②

 そこは、EARTH/地球の中世と呼ばれていた時代の英国――今となっては、中世すら“古代”なのだが――のような、石造りの街だった。

 「さてと。それじゃあ、目的地に向かう前に、この世界のことを少し教えるわね。もちろん、歩きながらだけど」

 そして、今綾たちがいるのはその街の入り口、形だけの門の近くだった。

 「まず、ここ『電子世界』を除いて、世界が4つあるのは知ってるわね?」

 「いや、綾さん、小学生じゃないんだから」

 その門から続く通り、巨大な橋となっているその道を三人は歩いていく。

 「それもそうか。えーと、ここはその4つの世界、つまりRekalta(リカルタ)EARTH(アース)Alca(アルカ)NAVIA(ナビア)を繋いでいる巨大ネットワーク、インターネットの最深層にあるのよ」

 その石橋の先には、中央広場がある。

 「それで、その『電子世界』に入るには、アカウントかアカウントを持った人が必要なのよ」

 中央広場でまず目につくのが、巨大な噴水だ。噴き上げる水には一切の濁りがなく、飲むことができる。

 「そして、そのアカウントをとれば『電子世界』に入れるようになるのと同時に術師にもなれる。ここまではいい?」

 「うん。というか、復習だよね、この範囲は」

 「まあね」

 その中央広場の向こう、北端にあるのが今回の目的地だ。

 「アカウントを取得した時点でのライセンスは0(ゼロ)。術師ではあるけど、魔術が使えない状態。本当に魔術が使いたかったら、1stを取得する必要があるのよ」

 このサーバー――SN.0000、“中央サーバー”や“始街”と呼ばれている――は、上空から見るとちょうど十字の形をしている。

 「1stを取得するのに必要なのは、ちょっとした手続きと基礎楽譜のインストールだけ」

 街の東には、各種商店が軒を連ねている。ここで得た利益は、『現実世界』でも利用できる。そのため、『電子世界』ができたおかげで職種が増え、就職率が格段に伸びた。

 「魔術はすべて、楽譜と音をもとにしているのよ」

 街の西には、公共施設がいくつか並んでいる。

 ここにくれば、情報や物品などたいていのものが揃う。故に、一番賑わうサーバーと言ってもいいだろう。

 「その基礎をインストールして、同時にその人にとって最適な基盤プログラムを脳に認識(インストール)させて魔術が使えるようにするの。だから、知ってるだろうけど、魔術が使えるのは『電子世界』だけ」

 三人の歩みがそこで止まる。目の前には、石造りの巨大な建造物。

 「そして、そのライセンス取得と手続きをするのが、ここ――電子魔術公館」





 「それじゃあ、先に手続きを済ませてきちゃうから、二人はここで待ってて」

 綾は二人にそう言うと、受付の方に向かって歩いて行く。

 「ようこそいらっしゃいました。今回はどのようなご用件でしょうか?」

 綾が、左から3番目の受付へと行くと、受付用完全自立型ヒューマノイドロボットであるクラリス――正式な型番を綾は知らない――が、丁寧な口調で応じる。

 「アカウント及びライセンスの新規取得をしたいんだけど」

 「では、こちらの以下の項目に入力をお願いします」

 綾の手元にウィンドウが展開する。

 綾はそれに、必要事項を手際よく入力していく。

 そして、数分後には諸々の手続きを終えていた。

 「承りました。では、3階の術師管理局に向かってください」

 綾はそれを聞くと踵を返し、二人への元へと戻る。

 「手続き終わり。じゃあ、3階に行きますか」

 「3階?」

 「えと、術師管理局があるんです。そこで、ライセンスの取得を行うんですよ」

 「へぇ~」

 三人は、内部まで石造りのくせになぜかある『電子世界』における最新型のエレベーターへと乗り込み、3階にある術師管理局に向かった。





 術師管理局――そこは、ライセンスの取得や術師支援、違法術師・違法ギルドのリスト化、ネットワークウイルスのリスト化及び術師への情報提供などを行う、電子魔術公館の中でも一際大きな部署だ。

 故に、術師なら必ず一度はお世話になるところでもある。

 「こんにちは」

 綾は、管理局の受付をしているユイナ・クランツベルグに声をかけた。

 「ん?あぁ、今度は妹か」

 すると、そんな返事が返ってきた。

 綾はその返答から、すぐに状況を理解した。

 「……てことは――」

 「そう。私がいたってわけ」

 突如、両肩に腕一本分の重みが加わる。ついでに勢いの分も。

 案の定、綾が右を向くと、そこには綾の姉である栗原沙希(さき)がいた。

 「それで、今日は何の用で来たんだ?可愛い女の子を連れて・・・って、詩織じゃないか」

 「うん。久しぶり」

 詩織は、綾の時と同じような口調で応える。

 「今日は、その・・・・・ライセンスが取りたくて、それで綾と未奈に付き合ってもらってるの」

 「なるほど。それで、そっちの娘、未奈ちゃん・・・だっけ?初めまして、私の名前は栗原沙希。綾の姉。よろしく」

 沙希は、未奈のやや後ろに立つ未奈に自己紹介をする。

 一方の未奈はというと、

 「は、初め、まして・・・・・。九重未奈です。こちらこそ・・・・・よろしくお願いします」

 ガチガチに緊張していた。

 栗原沙希――言わずと知れた、護姫(プリンセス)第二格位(ツヴァイ)。護姫・第三格位である綾の3つ上の姉にして、最強の《風槍エアグリフ》。通称、サイクロン。要は、綾と同じ有名人である。

 「それで、姉さんこそなんでここにいるの?」

 固まった未奈によって途絶しかかる会話を、綾が切り替える。

 「私か?いや、特にたいした用事じゃない。それに、もう済んだしな。それにしても・・・私好みの、実に可愛い娘じゃないか。綾、姉さんは今とっても嬉しいぞ!」

 文字通り、沙希の目の色――否、輝きが変わった、というより増した。ヤバい方向に。

 「姉さん、私の友達をあんまりそういう目(・・・・・)で見ないでほしいんだけど――って、聞いてる?」

 完全にそっちモードになってしまった姉を見て、綾は文句を言うが、いつものことながら完全スルーだ。

 「綾・・・・・もう、遅いって」

 そんな綾の肩にぽんっ、と手を置きながら、詩織は諦めた者のそれと同じ視線を、沙希と未奈に送っていた。

 「はぁ・・・・・。仕方ない、か。行こ」

 二人は背を向け、目的の部屋へと向かった。

 心中でエールを送りながら。

 ――がんばれっ!





 受付から東にのびる廊下を進んでいくと、突き当りに目的の部屋がある。

 左右に開く自動扉の上には、その部屋を示す電子プレートがあり、そこにはこう書かれていた。



 魔術基盤構築室。



 基礎楽譜と音、基盤プログラムなどを構築・インストールしているこの部屋に、綾と詩織は入っていく。

 中を一言で表すなら、研究室。

 いくつかの細かい部屋に分かれている魔術基盤構築室の最奥に、一際目を引く機械が設置されている。諸々のインストールを行うための装置だ。

 「すいませーん」

 綾は、近くにいた局員に声をかける。

 「ん?あぁ、君かアオアゲハ。ということは、君がライセンス取得希望者だね?」

 局員は、綾から詩織に視線を移しながら問いかける。

 「あ、はい」

 「うむ。私は、ここ魔術基盤構築室の室長を務めるリチャードだ。よろしく。それでは早速インストールを始めるとしよう。こちらに来てくれるかな」

 「はい、お願いします」

 「じゃあ、私は外で待ってるから」

 綾は詩織にそう声をかけると、再び廊下に出る。そして、部屋の前にある長椅子に腰を下ろした。

 一方詩織は、リチャードの説明を聞きながら、インストールを開始するための準備を進めていく。

 装置の中央には椅子が据えられており、そこに座った詩織の両腕、両足は固定されていた。これは、万が一のための措置だ。基本的に、基礎楽譜等のインストールで後遺症や拒否反応などがあらわれることはない。だが、物事に完璧は存在しない。万が一そういった症状があらわれた場合を考え、こういう措置を取っているということだ。

 装置の開いていた部分が完全に閉まり、詩織の視界に入るものは装置の内部のみとなった。

 その後、装置は詩織の各部と接続する。といっても、体にケーブルを刺したりするわけではないので、痛みは皆無だ。

 そして、すべての前準備が終了し、インストールが開始される。

 詩織の脳内に、膨大な量の情報が流れ込む。

 それは、頭痛を伴って認識されていく。

 詩織の顔が歪む。

 そのまま数分が過ぎたころ、すべてのインストールが終了した。

 「お疲れ様。少しの間、頭痛がすると思うけど、すぐに回復するだろうから心配はいらない。コードの取得・登録は隣の部屋だが・・・・・まぁ、アオアゲハに任せるとしよう」

 リチャードの言葉は、詩織にはほとんど聞こえてなかった。

 とにもかくにも終わったらしいことが分かった詩織は、痛む頭を押さえながら部屋を出た。

 「おつかれ。・・・と、ちょっといい?」

 そう言った綾は、詩織のおでこに指先を当てた。

 ばちっ。

 冬場の静電気と変わらないくらいの、電流が走る音が一瞬響く。

 「どう?」

 「・・・・・・・・あれ?さっきまで頭ガンガンいってたのに。なにしたの?」

 「ん、ちょっとね。混乱している脳に、少しは落ち着けって刺激を与えた、って感じかな」

 実際のところは、表現として間違ってはいないものの、そんな簡単なものではない。

 「ふ~ん・・・・・」

 詩織はそう答えたものの、完全に理解はしていなかった。

 「それじゃあ、次行くわよ」

 「うん」

 二人は、隣の部屋へと入っていく。




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