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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
28/76

#23 <華焔> vs ベルガッセ――⑦

 「ラグゼ・ニア・シエラ」

 綾の足元に円環術譜が展開し、背中から美しくも力に満ちる青きアゲハ蝶の翅が生まれる。

 術の余波によって、長くさらさらとしていて、思わず見惚れてしまいそうな、あるいは嫉妬感すら抱く二つにまとめられていた髪は解け、吹いた風によって静かに揺れる。

 地上から磁力を使って僅かに浮いていることも相まって、その姿はさながら妖精のようだ。

 唯一不似合いなのが、綾の魂から響く、エレキギターの音色、彼女の奏曲だ。

 だが、場の緊迫感を最も表現している音色とも言える。

 「やっと本気を出す気になったか」

 「なんであんなことを敵である私に言ったのか、その意図が理解できないけど、本気だやらなきゃ倒せそうにない。それだけ」

 「まぁ、なんだっていいさ。おもしろくなってきた、それで十分だ!」

 動いたのは、ほぼ同時だった。

 「ストルザディア」

 綾に向かって、無数の風撃が飛来する。

 綾は、それらを機動力をフルに活かしてかいくぐり、一気に間合いを詰める。

 そして、タイミングを計りながら、ステイルの背後へとまわり、隙をつくように魔術を放つ――放とうとした。

 綾が起電術音を唱えようとした瞬間、自分の体勢と平行するように突如出現した円環術譜から放たれた風撃をモロにくらい、宙へと舞った。

 「・・・・・・・!」

 さらに、背中に追撃を受け、地に叩きつけられる。

 「ぐっ・・・・・・!」

 口から、逆流してきた胃液とともに血が零れる。

 肋骨の何本かにヒビが入ったようで、胸のあたりがひどく痛かった。

 「かはっ・・・・・・!・・・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・」

 個人を形成するプログラムデータは、完全に分解されない限り修復・再構成が行われることはない。

 すなわち、ケガが急速に治癒することはありえず、現実世界と同様にダメージは蓄積するし、血だってケガによっては大量に流れるということだ。

 ――さっきのは"遠隔"・・・・・

 綾は、肩で息をしながらも、ステイルから目を逸らさず、頭の隅で思考を巡らす。

 「アテノリア・フェルザディア」

 ステイルの、冷たい起動術音を唱える声が聞こえた直後、綾を巨大な圧力が襲った。

 それは、到底人が立っていられるものではなく、それどころか確実に人を潰すことのできる圧力だった。

 「・・・・・・っ!」

 局所的気圧増幅魔術。

 それを説明するならば、この一言で事足りる。

 要は、局所的に真上からの気圧を一気に増幅させる魔術、というわけだ。

 《風槍》が扱うのは風だが、正確に言えば気体である。

 風というのは、《風槍》にとっては攻撃手段の一つでしかなく、それでしか攻撃できないというわけではない。

 故に、気圧の操作もできるし、肺や血液の中にある気体を膨張させることもできる。

 対人戦において、最も冷酷かつ強力な魔術といっても過言ではない。

 綾は、今のままじゃ勝つどころか生き残ることさえ困難だと判断し、気圧を磁力で反発させながら――形状固定があるからこそ可能なのだ――、文字通り力を振り絞って作戦を施行した。

 「テア・・・・・ベリアレイザ」

 綾は、全方位雷撃を放った。

 これが、施行の合図。同時に、周りの建物をまとめて崩壊させ視界を確保するためのものでもある。

 唯一、このターミナルにいながら戦場にその姿がない、彼女の視界を確保するための。

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