#22 <華焔> vs ベルガッセ――⑥
祐太は、自身が持つ能力"瞬転"を使い、一気に上空へと舞いあがった。
瞬転――いわゆる瞬間移動。視界内なら一瞬で自由な場所への移動を可能にするその能力は、竜系の術師の弱点である機動力を飛躍的に引き上げる。
「エゼンブル・デリオベルト」
祐太は、口腔内に火球を形成、同時に円環術譜を展開する。
そして、その火球を円環術譜にぶつけた。
直後、火球が十数倍にまで膨れ上がった。
向かう先は、地上の術師群、その中心地だ。
流星の如き火球は、着弾すると同時に巨大な火柱を上げた。
炎に飲み込まれ、爆風によって吹き飛ばされた術師たちが、次々と消失していく。
プログラムの耐久限界値を超えたことで、アカウントを剥奪され、強制ログアウトさせられたのだ。
術師の一掃が完了した、祐太がそう思った時だった。
上空からの攻撃によって、祐太は撃ち落とされた。なんとか姿勢を制御し、墜落だけは免れる。
そして、同時に理解した。
先の攻撃は雷撃だった。
そして、そんなものを高高度から放てる者など、この戦場には一人しかいない。
「アゼリア・スティーゲン・・・・・・!」
祐太は、低く重みのある声で、その名を呼ぶ。
祐太の視線の先にいたのは、藍色をした一体の《電竜》だった。
「派手にやってくれたねぇ・・・・・祐太!ギルドを裏切ったアンタなんかに、空は飛ばせない。アタシが文字通り地に墜としてやる!」
「100年くらい前に廃れた戦隊モノの敵キャラみたいなごたくはいい。未奈にとって危険な奴は、誰だろうと潰すまでだ」
いろいろとツッコミを入れたくなるような、しかも結構長い言い回しで祐太は返した。
♪
すごい。未奈は単純にそう思った。
《炎竜》は、魔術の中でもトップクラスの火力を誇るが、それ故制御が難しい魔術でもある。
特に今回のような集団戦における火力制御は難しい。
強すぎれば仲間を巻き込み、弱すぎれば味方全体に隙を与えることになるからだ。
いずれにせよ、《炎竜》に限らず竜系の術師は、戦況を一変させるほどの力を持っているということだ。
そして、祐太はその力を完璧に制御していた。
それは、何よりも結果が物語っている。
先の攻撃で消失した術師群と未奈の距離は、そう離れていなかった。
さらに、祐太は瞬転で移動したため、未奈は祐太を見失い、退避もままらなっかった。
にも関わらず、未奈はケガを負うどころか、爆風で吹き飛ぶこともなかった。
さすがに髪が乱れたりはしたが、それは些細なことでしかない。
ここまで精密な制御ができる術師は、探してすぐ見つかるようなものでもないだろう。
改めてすごい、未奈がそう思った時だった。
空にいたはずの祐太が降ってきた。
瞬間的に不安がよぎったが、平気そうなのでほっと胸をなでおろす。
だが、それもつかの間。未奈は、半ば本能的に後ろへと跳び退った。
未奈を掠めるように、何かが横切る。
数瞬後、建物がいくつか崩壊した。
息をつく暇もなく、再び未奈のすぐ横を何かが飛翔、建物を直撃したやすく粉塵と瓦礫に変える。
今度は、しっかりとそれを見れた。
野球ボールくらいの黒い球だった。
「重力球・・・・・・」
未奈は、飛んできた方向へと視線を向ける。
そこにいたのは、黒のパーカーに黒のジーンズと全身を黒で覆った少年と思われる術師だった。
曖昧なのは、フードを目深にかぶっていて、顔の半分くらいが隠れているためだ。
「・・・・・・・・・」
その術師は、言葉を一切口にすることもなく、ただ未奈の方に歩を進めてきている。
「電子魔術、起動」
未奈は、薄気味悪さとともに背中に嫌な汗を感じながら、魔術を起動する。