表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
24/76

#19 Autres

 「はぁ・・・・・」

 何度目の溜め息になるだろう。

 あのまま教室に留まっていても仕方がないので、一人自宅へと戻ってきた。

 詩織が住んでいるのは、リオナ同様実家だ。

 リオナの実家はEARTH/地球でいうところの"洋館"のような様式なのだが、詩織の実家は全くの逆と言える。

 扉はすべて自動、家事はすべて家庭用雑務代行給仕仕様人型AIロボット――通称、"メイドロボ"が行っているし、随所に監視カメラや対人迎撃用小型兵器各種、区画ごとの完全隔絶壁などがあるし。

 地下には、核にも耐えるシェルターときた。

 そんな、モダン(・・・)な家に向かって、詩織はてくてく、というよりはトボトボといった感じで歩いていた。

 詩織の家があるのは、フローネ・ステーションから10分ほど歩いたところだ。

 詩織は、歩きながら力なく空を見上げた。

 変わり映えしない空は、夕日の赤と夜空の黒にうっすらと染まっており、一番星と思われる光が瞬いていた。

 一人でいると、あれこれ考えてしまう。

 今の詩織は、その例に漏れることなく、考えた所でどうしようもなく何かが変わるわけでもない、と分かりつつも思考を巡らしていた。

 そのベクトルは、完全に下を向いている。

 無力感。

 詩織の心にあるのは、まさにそれだった。

 友達が大変な時に、親友が戦っているときに、自分は何もできずにこうして歩いている。

 電子世界に比べれば、あまりに安全なこの場所を。

 同時に、電子世界よりも遥かに危険な場所を。

 綾はああ言ったが、詩織は理解していた。

 自分はまだ術師になったばかりで、ようやく自分の得意とする戦闘スタイルが見えてきたかというところで、だけどまともに使えるのはリオナに教わりながらやっとの思いで書き上げた初級魔術一つだ。

 当然、綾について行ったところで足手まといにしかならないだろう。

 それどころか、たいした実戦もしていないのだ、逆に綾たちを危険にさらすようなことにもなりかねない。

 それが分かっているからこそ、無力感は募り、溜め息は空しさになって消える。

 ――復讐、か。

 本当にそんなことできるのだろうか、今の自分を考えるとつくづくそう思う。

 今でもはっきりと思い出せる。あの時のことを。

 今でも胸の奥で燃え続けている。黒い炎が。

 あの時も自分は無力だった。

 何もできなかった。

 「・・・・・・やめよう・・・・・・・・」

 詩織は、頭を左右に振って思考を強制中断した。

 それでも脳裏に浮かぶ、こびりついた映像。

 詩織はいつの間にか、拳を握り、閉ざした口の中合わさる歯に力をこめていた。

 苦い味がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ