#19 Autres
「はぁ・・・・・」
何度目の溜め息になるだろう。
あのまま教室に留まっていても仕方がないので、一人自宅へと戻ってきた。
詩織が住んでいるのは、リオナ同様実家だ。
リオナの実家はEARTH/地球でいうところの"洋館"のような様式なのだが、詩織の実家は全くの逆と言える。
扉はすべて自動、家事はすべて家庭用雑務代行給仕仕様人型AIロボット――通称、"メイドロボ"が行っているし、随所に監視カメラや対人迎撃用小型兵器各種、区画ごとの完全隔絶壁などがあるし。
地下には、核にも耐えるシェルターときた。
そんな、モダンな家に向かって、詩織はてくてく、というよりはトボトボといった感じで歩いていた。
詩織の家があるのは、フローネ・ステーションから10分ほど歩いたところだ。
詩織は、歩きながら力なく空を見上げた。
変わり映えしない空は、夕日の赤と夜空の黒にうっすらと染まっており、一番星と思われる光が瞬いていた。
一人でいると、あれこれ考えてしまう。
今の詩織は、その例に漏れることなく、考えた所でどうしようもなく何かが変わるわけでもない、と分かりつつも思考を巡らしていた。
そのベクトルは、完全に下を向いている。
無力感。
詩織の心にあるのは、まさにそれだった。
友達が大変な時に、親友が戦っているときに、自分は何もできずにこうして歩いている。
電子世界に比べれば、あまりに安全なこの場所を。
同時に、電子世界よりも遥かに危険な場所を。
綾はああ言ったが、詩織は理解していた。
自分はまだ術師になったばかりで、ようやく自分の得意とする戦闘スタイルが見えてきたかというところで、だけどまともに使えるのはリオナに教わりながらやっとの思いで書き上げた初級魔術一つだ。
当然、綾について行ったところで足手まといにしかならないだろう。
それどころか、たいした実戦もしていないのだ、逆に綾たちを危険にさらすようなことにもなりかねない。
それが分かっているからこそ、無力感は募り、溜め息は空しさになって消える。
――復讐、か。
本当にそんなことできるのだろうか、今の自分を考えるとつくづくそう思う。
今でもはっきりと思い出せる。あの時のことを。
今でも胸の奥で燃え続けている。黒い炎が。
あの時も自分は無力だった。
何もできなかった。
「・・・・・・やめよう・・・・・・・・」
詩織は、頭を左右に振って思考を強制中断した。
それでも脳裏に浮かぶ、こびりついた映像。
詩織はいつの間にか、拳を握り、閉ざした口の中合わさる歯に力をこめていた。
苦い味がした。