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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
19/76

#14 未奈(前編)

 TN.007430――登録TN.000――そこは、未奈にとって、とても意味のある場所だった。

 幼馴染である坂井祐太と、現実世界で最後に会ったのは、未奈が小学6年の最後の日、すなわち卒業式の日だった。

 そして、その日以降、未奈は祐太とだんだんと疎遠になった。

 理由は二つある。

 それぞれ別の中学に行ったこと。

 そして、祐太が、親の転勤の都合で地元から離れた中学に行ったことだ。

 世界が、世界以上の規模で拡大した現代において、転勤や転校は、他世界が発見される前以上に珍しくないものになっていた。

 だから、祐太のそれも、特に驚くようなことではなかった。

 中学進学後、未奈は、平凡と言えば聞こえのいい、あまりに地味でつまらない日常を送った。

 親友と呼べる友達なんてできなかったし、そもそも未奈ことが友達として記憶に残っているかもあやしい。

 それくらいの、薄い人間関係だった。

 部活にも参加していなかったし、委員会も参加こそしていたものの、積極的に顔を出す方ではなかった。

 学級委員長や生徒会などは、言わずもがな。

 そんな、中学生活2年目のある日、未奈は電子世界、そして術師のことを知った。

 正確には、知っていたが、その日興味を持った、といったところだ。

 中学からの帰り道、なぜだか知らないが、その日は普段は通らない、ショップストリートの方を歩いていた。

 飲食店から服飾店など、さまざまな店が立ち並ぶその道の一角で、案の定未奈は絡まれた。

 時代を激しく誤解しているとしか思えない、バカみたいにチャラチャラした高校生3人組だった。

 その、あまりにアレなファッションセンスに文句を言いたくもなったが、その一方でこの状況どうしようかと、未奈が思考を巡らしている時だった。

 「・・・・・・・ダサッ」

 未奈にも、当然3人組にも聞こえる声でそう言ったのは、一人の少年だった。

 どうやら未奈と同年代らしきその少年は、じとっとした視線を3人組に向けていた。

 「あぁん!」

 「てめぇ、今なんつった?」

 「ぶっ殺されてぇのか?あぁっ!」

 絶滅したと思われていた超不良口調で挑発する3人組。

 今をいつだと思っているんだろう。今は2152年、5月。120年ほど眠っていたなら話は別だけど、それにしてもまだいたんだ、こういう人。

 そんなことを考えながら、未奈はその様子を眺めていた。

 「聞こえてんじゃん。時代錯誤もいいとこだけど、相手ぐらいにはなってあげるよ」

 「「「上等だぁッ!」」」

 3人組のうち、未奈から見て右側のツンツン金髪が、右ストレートを放つ。

 その速度はたいしたものだったが、少年にとってはそんなでもなかったらしい。

 少年は軽くかわし、流れるように右アッパーは放つ。

 それは、見事ツンツン金髪の顎をとらえ、僅かに宙に浮かせた。ツンツン金髪は、そのまま倒れて動かなくなる。KO。

 次に少年を襲ったのは、左のガラ声巨重が、その容姿から容易に想像できる速度で、腹部をめがけて渾身の拳を振るう。

 少年はそれを、ステップでかわし、ガラ空きのガラ声巨重の見事な腹に蹴りを放つ。

 ぼんっ、という独特の音とともに、ガラ声巨重は倒れた。KO。

 残った、見るからにアホだと分かるロン毛は、少年を一瞥した後、「す、すいませんでした~」とこれまた称賛に値する逃げ足で、転がっている二人を引きずりながら逃走。

 「大丈夫?」

 「あ、ありがとう・・・ございます」

 「ん、いいよ」

 「あの・・・・・失礼を承知で聞いていいですか?」

 「? いいけど」

 「あの、滝浦秀さんですか?」

 滝浦秀――最近、密かに話題になっている術師で、騎士。

 クラスメイトがぎゃあぎゃあ騒いでる上に、未奈にまでこの話題でだけでは絡んでくるので、その容姿に見覚えがあった。

 「あぁ、そうだよ」

 少年――滝浦秀は、隠すそぶりも見せず、そう答えた。

 少年の後ろの方で、女子高生や女子中学生がキャーキャー騒いでいた。

 これが、未奈と秀の最初の出会いであり、未奈が術師になるきっかけでもあった。

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