#14 未奈(前編)
TN.007430――登録TN.000――そこは、未奈にとって、とても意味のある場所だった。
幼馴染である坂井祐太と、現実世界で最後に会ったのは、未奈が小学6年の最後の日、すなわち卒業式の日だった。
そして、その日以降、未奈は祐太とだんだんと疎遠になった。
理由は二つある。
それぞれ別の中学に行ったこと。
そして、祐太が、親の転勤の都合で地元から離れた中学に行ったことだ。
世界が、世界以上の規模で拡大した現代において、転勤や転校は、他世界が発見される前以上に珍しくないものになっていた。
だから、祐太のそれも、特に驚くようなことではなかった。
中学進学後、未奈は、平凡と言えば聞こえのいい、あまりに地味でつまらない日常を送った。
親友と呼べる友達なんてできなかったし、そもそも未奈ことが友達として記憶に残っているかもあやしい。
それくらいの、薄い人間関係だった。
部活にも参加していなかったし、委員会も参加こそしていたものの、積極的に顔を出す方ではなかった。
学級委員長や生徒会などは、言わずもがな。
そんな、中学生活2年目のある日、未奈は電子世界、そして術師のことを知った。
正確には、知っていたが、その日興味を持った、といったところだ。
中学からの帰り道、なぜだか知らないが、その日は普段は通らない、ショップストリートの方を歩いていた。
飲食店から服飾店など、さまざまな店が立ち並ぶその道の一角で、案の定未奈は絡まれた。
時代を激しく誤解しているとしか思えない、バカみたいにチャラチャラした高校生3人組だった。
その、あまりにアレなファッションセンスに文句を言いたくもなったが、その一方でこの状況どうしようかと、未奈が思考を巡らしている時だった。
「・・・・・・・ダサッ」
未奈にも、当然3人組にも聞こえる声でそう言ったのは、一人の少年だった。
どうやら未奈と同年代らしきその少年は、じとっとした視線を3人組に向けていた。
「あぁん!」
「てめぇ、今なんつった?」
「ぶっ殺されてぇのか?あぁっ!」
絶滅したと思われていた超不良口調で挑発する3人組。
今をいつだと思っているんだろう。今は2152年、5月。120年ほど眠っていたなら話は別だけど、それにしてもまだいたんだ、こういう人。
そんなことを考えながら、未奈はその様子を眺めていた。
「聞こえてんじゃん。時代錯誤もいいとこだけど、相手ぐらいにはなってあげるよ」
「「「上等だぁッ!」」」
3人組のうち、未奈から見て右側のツンツン金髪が、右ストレートを放つ。
その速度はたいしたものだったが、少年にとってはそんなでもなかったらしい。
少年は軽くかわし、流れるように右アッパーは放つ。
それは、見事ツンツン金髪の顎をとらえ、僅かに宙に浮かせた。ツンツン金髪は、そのまま倒れて動かなくなる。KO。
次に少年を襲ったのは、左のガラ声巨重が、その容姿から容易に想像できる速度で、腹部をめがけて渾身の拳を振るう。
少年はそれを、ステップでかわし、ガラ空きのガラ声巨重の見事な腹に蹴りを放つ。
ぼんっ、という独特の音とともに、ガラ声巨重は倒れた。KO。
残った、見るからにアホだと分かるロン毛は、少年を一瞥した後、「す、すいませんでした~」とこれまた称賛に値する逃げ足で、転がっている二人を引きずりながら逃走。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう・・・ございます」
「ん、いいよ」
「あの・・・・・失礼を承知で聞いていいですか?」
「? いいけど」
「あの、滝浦秀さんですか?」
滝浦秀――最近、密かに話題になっている術師で、騎士。
クラスメイトがぎゃあぎゃあ騒いでる上に、未奈にまでこの話題でだけでは絡んでくるので、その容姿に見覚えがあった。
「あぁ、そうだよ」
少年――滝浦秀は、隠すそぶりも見せず、そう答えた。
少年の後ろの方で、女子高生や女子中学生がキャーキャー騒いでいた。
これが、未奈と秀の最初の出会いであり、未奈が術師になるきっかけでもあった。