#13 mail
綾とともに<華焔>にとって初となる依頼をこなした日から数日後。
朝の日課となっているメール確認をするためラーゼリッタを起動し、E-メール用のアプリケーションを展開すると、一件の着信があった。
件名はない。
メールの送り主は、未奈に衝撃を走らせる人物だった。
♪
その日の放課後、未奈は一人、メールによって指定された場所に来ていた。
TN.007430――そこは、廃屋が並ぶ小さな街だった。
すべて石造りで、それが古風な雰囲気を醸し出していた。
このターミナルは、管理が放棄されて久しいようだ。
管理人が健在ならば、そう設定しない限り、ここまで荒れたりはしない。
だが、管理放棄がされた公式ターミナル(ターミナルナンバーがついているターミナル)は少なくない。
というのも、ターミナルとは個人で複数構築できるものであり、人間は飽きやすい動物だからだ。
そんな廃れたターミナルの中心に、一人の少年がいた。
未奈にとって、決して忘れることのない顔。
それは、幼馴染の顔であり、違法ターミナルに所属する違法術師の顔でもあった。
未奈は、少年――坂井祐太の顔を見据えた。
「罠だってことはすぐに分かったはずだ。何で来たんだ?」
「説得するため。なんで違法ターミナルになんているの?」
祐太と未奈を、雲によって欠けた夕日の朱色の光が照らす。
「それは何度も言ったはずだ。それに、そんな話をするために呼びだしたんじゃない。・・・・・・後悔するなよ」
祐太は、未奈に辛さに必死に耐えるような表情で告げる。そして、呟く。
「"縛"」
その瞬間、未奈は拘束された。
<華焔>を、正確には護姫である綾を呼び出すための人質として。
♪
脳内に、メール着信を知らせる音が響く。
今は放課後なので、サイレントを切ってあるのだ。
綾は、アプリケーションを開き、メールを確認する。
件名はなかったが、添付画像が一つあった。
そこには――
「未奈・・・・・・ッ!」
内容はこうだ。
九重未奈を助けたければ、"シュカズ"を持って、TN.007430に来い
時代錯誤をしているとしか思えないような脅迫文だったが、今の綾にとってはそこはどうでもよかった。
問題は、未奈が人質として拘束されている(これ自体時代錯誤なのだが)、これだけだ。
交渉材料のことは犯人に訊かなければ分からない。
綾は、すぐさま隣を歩く詩織に声をかけた。
そして、急いで事情説明、ここに残るようを言った。
「なんで!?」
詩織は、当然のように聞き返した。
「相手が個人とは限らない。最悪ギルド(ターミナルと同義だが、複数の意味を持つターミナルは紛らわしいので、集団を指す場合はギルドが一般的)を相手にするかもしれない戦闘に、詩織が参加するのは危険すぎる」
「でも・・・・・・!」
「全部終わったらちゃんと説明するから」
「そうじゃなくてッ!」
そう叫んだ詩織の瞳は憂いを帯びていた。
それで理解した。だから、綾は笑顔で返す。
「私なら、大丈夫。だって、もう一人じゃないから」
綾は、急いでエルカに連絡をとった。そして、メールの内容を伝え、現地合流するよう指示する。
「それじゃ、行ってくるね。必ず助けて帰ってくるから」
綾は、電子世界にログイン、目的のターミナルへと跳んだ。