表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
17/76

番外編/新入生歓迎会――④

 「せ、先輩。ホントにこれ着なきゃいけないんですか?」

 「まぁ、ルールだし」

 私が運悪く(・・・)引き当てたのは――大胆に開いた背中、ふわりと軽い斜めにカットされたロングスカート(左側がかなり際どい)、ダイヤモンドなどがの宝石が散りばめられたティアラ、ルビーのペンダント、強化ガラス製の靴、etc。

 つまりは、純白のプリンセスドレスセット。

 用意された衣装の中でも、特に豪華で高価なものだった。

 私は、裏に控えていた衣裳係によって完全に無理やり着替えさせられ、ステージへと押し出されるように登場した。

 キャーーーーッ!!という、おいここはライブ会場か?という疑問を抱いてしまうような歓声があがる。

 後で詩織に聞いた話だと、"ホントにプリンセスみたいで綺麗だったよ。髪を解いていたのがさらによかった。それにしても、あれでメイクを一切していないって……殴っていい?"だそうだ。

 髪は最初からまとめていなかったし、実際私は護姫(プリンセス)なんだけど……というか、護姫なの詩織は知っているでしょ――とは、内心のみで。

 ステージへと出た後、音響係から、これまた高級感漂う高感度無線マイクを手渡される。

 「はぁ…………」

 私は仕方なく諦め、歌えそうな曲を脳内検索して探す。

 そうして、曲が決まったので音響係へと伝える。

 数秒後、曲のイントロが流れる。

 大人気5人組ガールズバンド"CHRONiCLE(クロニクル)"の数少ないバラード曲、『Never Say Last』――私が今、一番気に入っている曲だ。

 私は、この曲をネットでの先行配信で聴いた瞬間、まわりにあったすべての雑音が消えたように感じた。

 その時聴いたのは、サビの一部分だけだったのに、一気に引き込まれてしまった。

 音が心に浸み渡ってきて、歌詞が胸を打った。

 そして、何度か聴いているうちに分かった。

 曲がいいだけじゃないんだということが。

 ヴォーカルの声が、ギターやベースの音色が、ドラムのリズムが、上手く調和して――彼女たちだけのメロディがこの曲を奏でているから、こんなにも引き込まれる。

 だから私は、この曲を選んだ。

 今、目の前にいる生徒全員に届くかは分からないけれど、それでも極力届くように心掛けて歌った。











 歌い終わった後、会場内に静寂が満ちる。

 だけど、それはすぐに拍手の渦へと変わった。

 「綾」

 先輩が、私を呼ぶ。

 「次の人を指名して」

 「あ……そうですね………じゃあ――」











 私は、ステージから下がると、詩織のところへはいかず、外へと出た。

 この新入生歓迎会は、授業が終わったあとにあえて(・・・)開始したため、空はすでに夕日によって赤く染まっていた。

 清涼感を持った風が、講堂前を吹き抜ける。

 衣装は必ず持ち帰ることになっているらしく、そのため私はプリンセスドレスを着たままだ。右手には、もともと着ていた黒のパーティードレス。

 私は、講堂前にある、今時珍しいウッドチェアの一つに座った。

 「どうしたの?こんなところにいて」

 後ろから、声をかけられたので振り向くと、そこにはチャイナ服を着た先輩がいた。

 「先輩こそ、いいんですか?こんなところにいて」

 「私はいいの。任せてきちゃったから」

 「それって、よくないんじゃ――」

 「いいの。それより綾は?」

 「私は、歌って少し暑いから、涼みに来ただけです」

 そう、と先輩は言って、それきり喋ることはなかった。

 講堂の中とは別空間にいるかのように、ゆったりと時間が流れているように感じる。中の歓声も、ここまでは届かない。

 ほどよい風が、講堂前を凪いでいく。

 「ねぇ、綾」

 不意に先輩が口を開いた。

 「はい?」

 「生徒会に入る気は……やっぱりないの?」

 「何度も言ってるじゃないですか。中等部の頃から。私には――」

 「生徒会は務めきれない……か」

 「はい」

 私は、生徒会の仕事手伝うことが結構ある。

 だから、生徒会がいかに大変なのか、そしてどれだけの責任を背負っているのかを知っている。

 だから、先輩に限らず生徒会のみんなはすごいと思う。

 私なんかよりも、ずっとずっと、すごいと思う。

 「あ、綾、こんなところにいたんだ――と、生徒会長」

 「それじゃ、私はここで。まかせっきりは、やっぱりよくないし」

 先輩はそう言って、講堂へと戻っていった。

 「何話してたの?」

 「何も」

 「ふーん。……風、気持ちいいね」

 「うん」

 「綾。歌、上手かったよ」

 「――ありがと」

 新入生歓迎会――立食パーティーはほどなくして幕を下ろした。

 パーティーというにはいささか語弊のある、どこでもやっていそうなカラオケ大会。

 最高の気分で、終わることができた。

 『Never Say Last』――決して最後とは言わない。

 先輩とのパーティーは、これが最後じゃない。

 私たちはお嬢様で、それ以前に女子高生だから、どこでだっていつだってパーティーという名のバカ騒ぎを開催できる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ