番外編/新入生歓迎会――②
ガコン――。
無駄に豪奢な扉が開かれた時、私と先輩は客観的に考えたら割とマズイ体勢だったりする。
「………………何をやっているんですか」
入ってきたのは、高等部生徒会会計の来栖実、その人だった。
「見てわからないかなぁ」
先輩は、ヒョイと仰向けに倒れている私の上からどいて、その顔に笑みを張り付けながら軽い調子で言った。
ちなみに、私たちは何もしていない。先輩のことを無性に殴りたくなったのは――内緒だ。
「そういう意味ではなくてですね――」
来栖先輩は、その細いメガネをくいっと上げつつ、僅かに血管を浮かせる。
私は起き上がって、ぽんぽんと若干乱れた制服を直す。
先輩は相変わらず笑みを浮かべたまま、だがその実汗をダラダラ流す。もちろん、内心でだけど。
「本来ならば昨日終わっていなくてはならないあの仕事、いつになったら終わるのでしょうか?」
だんだんと怒りのボルテージが上がっていくのが、その声の調子から誰でも分かる。
ちなみに、この光景は別段珍しいわけじゃない。
というのも、私は中等部にいたころから先輩に手伝わされていて、その生徒会メンバーがほとんど変わっていないためだ。
さらに言えば、この二人は初等部から一緒だという。つまり、二人にとってこの状態は、私以上に"いつも通り"なわけで、たぶんこれからも変わることはないのだろう。
「あと3時間くらいあれば――」
「20分あれば終わりますから、すぐに片づけてください!あぁ、栗原さんは帰ってもいいですよ。これは生徒会の仕事ですから。手伝っていただき、ありがとうございました」
「あ、いえ。ぜんぜん大変じゃなかったし。でも、友達が待ってるかもしれないんで、今日はお言葉に甘えて失礼します」
「え?帰っちゃうの?この見目麗しい先輩を置いて?」
「はいはい。見目麗しいのはよくわかりましたから、さっさと仕事をしてください。でないと、紗弥佳だけ参加させませんよ?」
「あー、それは困るかな」
「だったら、すぐに片づけてください。他にも仕事溜まっているんですから」
来栖先輩のその姿はまるで、勉強しない子供を言いくるめて自意識的に勉強させる母親のようだ。
そういえば、久しく両親とは会ってないなぁ、などとぼんやり考えてみる。
「それじゃ、お疲れ様です」
「お疲れ様」
「おつかれー。また手伝ってね」
私は、生徒会室を後にし、メールアプリケーションを開く。
と、つい5分前に一件、着信があったようだ。サイレントにしていたから、気が付かなかった。
開いてみると、こんな文面が書かれていた。
"仕事終わったー?校門のところにいるから"
"今終わったよ"――私はそう返信して、アプリケーションを閉じる。
そして私は、急いで校門のところへと向かった。