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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
序章
13/76

#12 闇色の鎖

栗原沙希-Saki kurihara-


コード:《壊絶の風槍デストレイク・エアグリフ


ライセンス:4th


音色:チェロ 


格位:護姫(プリンセス) 第二格位(ツヴァイ)


私立クラウスルズ工業大学1年 情報工学科所属


通称:サイクロン


能力:同化、被神

 綾と違い、実家で暮らしているリオナの家は、豪邸と呼ぶにふさわしい様相をしていた。

 南側にある門から一望すると東西に長いその邸宅の、二階の西の端、そこがリオナの自室だった。

 部屋は当然の如く広く、ベッドも特注品だ。

 もっとも、この程度はアンジエスタ学園の生徒なら普通だ。

 綾の場合、一人暮らしをしているためあの規模なのであって、実家はリオナの家と負けず劣らず豪奢だ。

 そんな、一般人が見たら声も出ないであろう部屋にあるベッドの上に、リオナは横になっていた。

 部屋の照明は落とされており、明かりと言えば窓から差し込む月のそれだけだ。

 そんな静寂満ちる部屋の中で、リオナは一人ぐるぐると思考をただ繰り返していた。

 復讐――。

 その言葉が全身に重く響き、のしかかり、嫌でも過去を引きずり起こす。

 かつて囚われた鎖を絡ませる。

 リオナを頭痛が襲う。

 脳裏を封印したはずの映像が何度も掠める。

 全身から冷たく気持ち悪い嫌な汗が吹き出す。

 ――私は未だ、その過去から抜け出せずにいる。

 リオナは、必死に思考を振り払おうと足掻く。

 二度と理性を失わないために。

 闇の中で、光を見失わないために。

 だが、リオナを縛る鎖は、簡単には砕けてはくれない。










 今から14年と半年くらい前、両親が離婚した。

 原因は、母が抱えていた多額の借金。

 しかも、以前付き合っていた男から押し付けられたものだ。

 両親が離婚する際、最ももめたのが生まれて半年にも満たないリオナをどちらが引き取るかだった。

 詳しいことを、当然リオナは知らない。

 すべて聞かされた話だからだ。

 結局、リオナは母親に引き取られた。

 だが、当然生活は厳しいものになった。

 父からの、多少なりの援助で生活をし、リオナが家に一人でもなんとかいられる3歳くらいまでは、取り立て屋に頭を下げ返済を先延ばしにしてくれるよう頼み続ける日々。

 今の時代、この国の情勢を考えれば、あまりに情けなく、そしてほとんどあり得ない生活。

 そんな生活に斜線が引かれたのが、リオナが5歳の時だった。

 結局、笑えるくらいの借金を返済しきることなどできなくて、リオナの目の前で母は殺された。

 だが、リオナは殺されなかった。借金を押し付けられなかった。

 母が殺されるのと同時に、父が借金を一括で完済したのだ。

 当時のリオナには、もはや意味がわからなった。

 その意味を理解したのは、母が死んでからずいぶん経ってからのことだ。

 父が、母が殺される前に返さなかったのは、それではリオナが母と一緒に暮らし続けることになるからだ。

 要するに父は、自分のところに娘であるリオナを連れてきたかったのだ。

 だから、母を殺させ、同時に借金を負わせることはしなかった。

 リオナは、自分を呪った。底知れない怒りがわいた。

 そして、後を追うように父が病気で急死した。

 両親を振り回し、その結果自分だけが生き残ってしまった。罪悪感。

 なんでこんなことになってしまったのか。怒り。

 それらを(はら)んだ矛の先をリオナが向けたのは、母を殺した殺し屋だった。

 何かにぶつけなければ、自己を保てなくなっていた。

 そうして、その殺し屋が電子世界にいることを知った。

 だからリオナは、術師になった。

 殺すために力をつけ、殺すために腕を磨き、殺すための楽譜を書いた。

 そして、管理側の目につかない、廃れたターミナルに呼びだし、一方的に殺した。

 下級魔術をこれでもかってくらい撃ち込み、トドメにその時のリオナの最大の魔術を連続で叩きつけた。

 そして皮肉にも、その殺し屋は違法術師だったらしく、それを単独で撃破したことが認められ、次期護姫第四格位候補に選ばれ、その時の現役護姫に指導を受け、そのまま護姫になった。

 だが、この流れが順調だったわけでは決してない。

 そもそも、候補に選ばれる前から狂っていたのだ。

 殺し屋を殺した直後、リオナの中の何かが欠落した。

 それを人は"心"という。

 心を失ったリオナは、音も失くし、魔術にバグが生じ、暴走した。

 ターミナルの内部を、破壊できうる限り破壊した。

 そんなに大きなターミナルではなかったので、あっという間に構築データは削られていき、崩壊していった。

 そんなリオナを止めたのが、綾だった。

 「私には、その鎖を砕くことはできない。だから、私が鎖との隙間になってあげる」

 その時綾は、そう言った。その言葉は、なぜか暴走状態にあったリオナの、失ったはずの心に深く刻まれた。

 その言葉をかけられたのを機に、リオナは意識を失った。

 そう、意識だけはあったのだ。だから、やっていることへの自覚もあった。記憶もあった。

 だが、止まれなかった。苦しくて、辛くて、止まったら潰れそうで。

 その潰そうとしていたものを、半分受け止めてくれたのが綾だった。

 だから、リオナは今こうして"普通"でいられる。

 隣に立てる。

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