表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハラス・メメント 〜嫌がらせ記念日〜  作者: 三軒長屋 与太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/27

ブラックコーヒーはいかが? 〜コーヒーショップ・ハラスメント〜 その2

【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。


 ——そうと決まればと、ジェームズは慌ただしくパソコンを脇に抱え、コーヒーと鞄を持ってカウンターの方向へ顎を振った。


ジェームズ「ゲームには正解を判断する審判が必要だ。爺さんにやってもらうから、カウンターへ移動しようじゃないか!」


イシマツ「なるほど! 分かりました!」


そうして二人はカウンターへと移動し、店主に事の顛末を説明した。店主は‟二人ともが不正解の時には、自分が奢ってもらう”というルールを付け加えることで、これを承諾した。


店主「うちに来るのは大体が常連さ。公正公平に見てあげよう。だが、うちの常連は中々に癖が強い連中が多いから、しっかりと見極めるんだな」


ジェームズ「良いね! おっ! 噂をすればだ。まずはアイツだな」


 この時、カフェの入口の外には、1人の青年が立っていた。

青年は爽やかなスポーツスタイルに、彫りの深い顔立ち、スラッと背が高く、小さめのリュックを手にぶら下げている。陰気なカフェに似つかわしくない健康的な笑顔と、シトラスの香りを振りまきながら、店の入り口のドアに付けられた鈴を軽快に鳴らした。


ジェームズ「これは簡単だ。私はガールフレンドとの待ち合わせに、一票入れさせてもらうよ。中々にハンサムだしな」


イシマツ「僕は大学の生徒と推測します。席に座ったら、リュックからパソコンを取り出して、課題に取り組むんじゃないですかね」


二人は各々の推理を身勝手にも青年に向け、そんな二人の視線を身に受けながら、青年は窓際の席へと座った。


青年「お爺さん、いつものセットをお願いします」


店主「ホットコーヒーとアップルパイだね」


そう言うと、店主はまたマイペースに珈琲を淹れ始めた。


ジェームズ「彼はよく来るのかい?」


店主「あぁ、毎週金曜日に来るよ。いつもこのセットさ」


イシマツ「どうやらジェームズさんは外れですね」


ジェームズ「何でだい?」


イシマツ「だって、この後ガールフレンドが来るのなら、自分の分だけのアップルパイを頼みますか?」


ジェームズ「(いじらしく口角を上げる)甘いねイシマツ君。君はこの店のアップルパイを見た事が無いだろ? もとい『fluffy』のアップルパイなんだが」


店主「何処で作られたのかなんて関係ないさ。事実、このアップルパイをより美味しく食べられるのは、向かいの店ではなく、わたしの店だと思っているよ」


そんな話しをしながら、店主はカウンターの上にアップルパイを取り出した。そして、イシマツは、自分の読みが外れた事を確信した。用意されたアップルパイは、小ぶりではあったが‟ホール型”だったのだ。


イシマツ「これはやられましたね。まさか丸ごととは……」


ジェームズ「そう言う事だよイシマツ。この後ガールフレンドが来て分け合う……第1試合は私の勝ちだね」


店主「それもどうかな……」


 店主がホットコーヒーとアップルパイを青年に運ぶと、青年は窓の外に向けて満面の笑みで手を振った。すると、青年の爽やかさとは似つかわしくない、ケバケバしいマダムが3人、続々と『liberation』へと入って来た。入口の鈴もけばけばしく鳴り響く。


青年「やぁ皆さん。調子はどうですか?」


マダムA「調子も何も、貴方のお陰で私たちの人生は見違えたようよ! 皆もそうでしょ?」


1人のマダムが他の2人に感想を振ると、鼻につく香水の匂いを漂わせながら、そうね、そうよ、と身振り手振りを付けて応えていた。

ジェームズはあからさまに顔を顰めていた。


ジェームズ「おいおい、ありゃ何だい? 一体全体、あの席はどうなってるんだ?」


マダムたちに紅茶を出し終えて帰って来た店主は、ジェームズの質問に笑みを含ませながら答えた。


店主「君も不正解って事だよ、先生さん。ありゃどう見ても、ガールフレンドじゃないだろ?」


ジェームズ「ガールフレンドであってたまるか。あの青年は、これから売れゆく期待の新人アイドルか何かかい?」


店主「まさか。見てみな、あのマダムたちはハリボテだよ」


イシマツ「マスターは、彼がこのカフェで何をしているのか、知っているのですか?」


店主「勿論だとも。さっきも言ったが、彼は毎週金曜日に来る。ねずみ講の勧誘員。“マダム狙いの詐欺師”さ」


ジェームズ「コイツはやられた……とんだカフェでの過ごし方だ」


イシマツ「詐欺師と分かっているのなら止めなくちゃ!」


店主「おいおい、日本人の坊や。このゲームの主題を忘れてはいないかい? わたしはこの店で『詐欺行為禁止』なんて掲げていない。彼にはここで人を騙す自由があるし、マダムたちには騙される自由がある。店主のわたしはそれを咎めていない。君がしようとしているそれは、『カフェ・ハラ』じゃないのかい?」


イシマツ「なるほど……危うく僕がハラスメントをする所だったと言うわけですね」


店主「とりあえず今回は、わたしが君たちから珈琲を頂けるって事で良いのかい?」


ジェームズ「あぁ、良いぜ爺さん。直ぐに奢らせてやるさ」


 そう言うと、ジェームズはカフェの入口を睨んだ。

イシマツもそれに続いて入口を見た。

すると今度は、何とも見窄らしい格好をした老人が入って来ようとしていた。白髪の混ざった髪や髭は伸び放題、羽織っているジャケットはヨレヨレで、襟元は何色か形容し難い変色の色彩をしていた。しかし、老人はどことなく強い眼を持っていた。


ジェームズ「おいおい、まさかアレも常連って言うんじゃないだろうな?」


店主「まさかも何も常連さ。君たちがさっきまで座っていた席の、二つ隣に座るよ」


マダムたちの嫌味な視線を集めながらも、老人は確かに、店主が言った通りの席へと座った。店主はオーダーも聞かず、一杯のビールを老人のテーブルに置き、そのまま少しの間、なにやら会話をしていた。


イシマツ「何者でしょうか、あの老人。僕はてっきりホームレスの方かと思ってしまいました」


ジェームズ「私もだよイシマツ。だが、確かに常連ではあるらしい。さて、どうしたものか……」


 店主「推理は終わったかい?」


そう言って店主は、カウンターへと戻って来た。


ジェームズ「口裏合わせをしたんじゃ無いだろうな?」


店主「おいおい、わたしは実に公正だよ。彼とは歳も近くてね。店主の仕事として、ただ‟とある確認”をしただけさ」


イシマツ「僕はさっきの青年の件もあるし、ちょっと深読みしてみます。そうですね……実は、彼は昔に名を馳せたミュージシャンで、古き良き時代のヒッピー文化を受け継いでいる。そして、今日はこの後、同年代のミュージシャン仲間が集まってくる……ってのはどうでしょう?」


ジェームズ「それは大博打に出たなイシマツ君。では、私も賭けに出るとしよう。……あの老人を呼んだのは実は店主で、スバリ、奴は“スリ”さ。狙いは、毎週金曜日に青年が連れて来る、あのマダムの財布ってのはどうだい?」


イシマツ「それは面白い推理ですね! マスター! 嘘は駄目ですからね!」


他愛もない憶測を飛び交わさせながら、目をキラキラと輝かせる大人2人に向けて、店主は呆れた様に言った。


店主「言っただろう? わたしは実に公正さ。彼を呼んでなどいないし、答えも直に分かるさ」


 そう言うと、店主はおもむろに時計を見やり、二人には分からない注文を作り始めた。ジェームズとイシマツは、正直正解したいなどとは思っておらず、ただ謎めく正体にワクワクを募らせながら、店の奥でビールを進める老人をチラチラと見ていた。


——答えはまたしても、鈴の音と共に入って来た。先ほどとは違い、高貴で可憐な音が鳴る。それは二人にとって、予期せぬ女性の登場だった。


店主「やぁ、アニー。今日も素晴らしかったね。君は、カリフォルニアで今1番輝いているよ。確実にね」


アニー「とても素敵なお世辞をありがとう。ジェイコブ居るわよね?」


店主「いつもの席だよ」


そして、女性は先程の老人の席へと向かって行った。


このカフェにあまりにも似つかわしくない容姿端麗な女性。地味な服装で繕っていたが、溢れ出るものを全く隠せていなかった。詐欺師の青年の前に座るマダムたちを、店主が“ハリボテ”と表現したのも納得出来たし、そもそも二人はこの女性を良く知っていた。


ジェームズ「アン・ミッチェル?」


イシマツ「まさか! だってついさっきまで、壁のテレビでニュースを読み上げてましたよ?」


店主「そのまさかだ。今回の正解は“ガールフレンドとの待ち合わせ”だよ」


ジェームズとイシマツ「ガールフレンドだって!?」


 アン・ミッチェル(通称:アニー)は、地方テレビ局のイブニングニュースを担当する、人気アナウンサーである。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ