8 夜襲
夜の闇に紛れ、私たちはオークの拠点近くまで進撃する。森の中の開けた空間に粗雑に木を組んで築かれた砦があった。松明やかがり火が焚かれ、見張りと思われるオークが巡回している。
分厚い筋肉、文字通り真っ黒な肌、乱暴に組まれただけの鎧、錆びた剣や槍、斧を引っ提げる。その姿は緑色の肌でお馴染みのオークのイメージとは大きく異なる。姫騎士の相方としてしばしば出てくるような性欲など微塵も感じさせない。
文字通り、女子供も容赦なく皆殺しにする破壊者。そんな風貌だ。
……私で勝てるのか?
今になって尻込みしてくるが、もうここまで来たらやるしかない。
「魔法使いの連中が一斉攻撃で見張りと、入り口を破る。そしたら吶喊だ。準備は良いか?」
私たちは頷く。あちこちの茂みに潜んだ魔法使いたちが詠唱を始め――、火炎弾を四方八方から撃ち込んだ。
火だるまになって転げまわるオーク。入り口は着弾の衝撃で吹き飛び、角笛の号令と共に私たちは森から飛び出す。
「行けェ!!」
先陣を切った冒険者が燃え盛るオークにトドメを刺し、入り口の残骸を蹴破って中に突入していく。
「ガッ!?」
その途端、身体に無数の矢を受けて倒れてしまう。
「新入り、反撃しろ! 奥だ、奥!!」
「ッッ!」
眼前の光景にイモりかける私に怒号が飛んだ。咄嗟にゴブリンシューターを構え、エンチャント効果により燃え盛る弾を弾き飛ばした。
「グワ!?」
「ギャッ!」
弾はゴブリンの牙だ。厳選したお陰か、鉄板のような鎧を貫いて弓オークを二匹、打ち倒す。
「やるじゃねぇか! 大戦果だぞ! だが、生きて帰らなきゃ意味がねえ! 死ぬなよ!」
私の頭をクシャクシャと撫でて、恰幅の良いオッサンは私に迫っていた別のオークを斬り倒した。
「砦の中に商人たちはいるはずだ! 探せ!!」
オークを二匹倒した余韻に浸る間なんてなく、私は後衛として前線に向かう人たちを援護する。ゴブリンシューターのパワーは文句なし、命中精度も安定していた。
防具があっても関係なく貫通し、武器で防ごうとすれば凄まじい威力で叩き落とす。これならやれるんじゃないか? 少しだけ自信が湧いてくる。
内部に突入した私たちは、片っ端からドアを開けて商人たちを探す。しかしどの部屋も空室だ。オークも全然いない。
私はここで違和感を覚える。砦の大きさの割にオークが少なすぎるのだ。いや、斥候は最低でも四十名と言っていたし、もしかしたら何匹かは出払っているのかもしれない。
「こっちだ、手伝ってくれ!」
砦内を突き進んでいき、先行していた人たちと合流する。案内され、向かうと既に救出が始まっていた。男たちが商人たちを担いでいく中、私は隣の保管庫に並べられた略奪品を回収していく。この何でも入るカバンの出番だ。どれが商人たちのものかは分からないので、片っ端から放り込んでいった。
「全員回収したぞ! 重いケガ人はいない!」
「新入り、そっちはどうだ!?」
「保管庫のものは全部回収しました!」
「よし、引き上げだ!」
そして再び角笛の号令で退却を開始する。
僅か十数分の戦闘。嵐の如くの戦いだった。