7 オーク襲来
心なしかソワソワして落ち着かない。
今日は商人たちの隊商がやって来る日だ。オルディネールは辺鄙な村だが、エルフの泉の湧水を始め、豊かな土地で育った農作物や鉱山資源と言う特産品がある。それは大きな町でも人気で、こうして定期的に訪れるのだという。
「しかし……今日はやけに遅いな。いつもは昼前に来るはずなんだが」
宿の食堂で昼食を取っていると、恰幅の良い男が首を捻っている。
「何かあったのかねぇ。こんな事は初めてだよ。数少ない楽しみなのに」
「いっそこっちから迎えに行くか?」
なんて話し合っている。
確かにどうしたんだろう? せっかく香料を買えると思ったのに。
午後は近場のダンジョンでスライムソードとゴブリンシューターの扱いの練習。まだまだ武器に振り回されているが、前よりは良くなったような……気もした。
最後はスライムとゴブリンと戦い、一日の〆とする。
今日もいい汗かいたけど、早く風呂に入りたいなぁと考えつつ宿に戻る。
「おい、装備の準備は怠るなよ!」
「ポーションが足りない、もう在庫は無いのか!?」
「出られるやつは全員呼んで来い! 総力戦になるぞ!」
ドアを開けると……何やら物々しい雰囲気に包まれていた。
「あ、新入り! お前も少しは戦えるよな?」
いつも私の隣で飯を食ってる恰幅の良いオッサンが、私を見つけるとドスドス足音立てて近づいてくる。その迫力にビビッて少し引いてしまう。
「え? い、一応は……」
「ならお前も戦え!」
そう言って鉄の剣を押し付けられる。
「い、一体何があったんですか?」
「オークだ! オークの野郎どもが隊商を襲ったんだよ! やってくれるぜ、あのクソ野郎!」
そう言えば前にもオークが迷い込んだとか言ってたけど、それだろうか。
「命からがら逃げてきた商人が教えてくれたんだ。あいつらは山賊や盗賊が可愛く見えるくらい容赦がねえ! 急がねえと積み荷どころかみんな殺されちまう!」
「わ、分かりました。手伝います」
こんな女になった自分に戦えるのだろうか? なんて泣き言は通じない。私より小さくて非力な子供たちは、怪我人の受け入れに備えて忙しなく動いている。それよりも小さな赤子は別の年長の子たちが面倒を見ており、何も出来ないからとジッとしている人は誰もいなかった。
「よし、防具はブランドンが配っている。しっかりと身に着けておけよ、オークのパワーはスライムやゴブリンとは比較にならんぞ!」
「は、はい!」
指示通り、ドワーフ族のブランドンから防具を受け取る。しかし一番小さいサイズでもブカブカで、申し訳程度に兜を被るだけに留めた(それすら歩くたびにズレてくるが)。
そしてポーションといくつかの道具類を支給された後、外に出る。松明を持ち、武装した男女が広場に集結していた。
「斥候からの報告によると、オーク共はここから4リグス離れた場所に拠点を構築したようだ! 商人たちもここに囚われているのを確認済みだ。我々は徒歩で向かい、夜襲を仕掛ける! 何か質問はあるか!?」
騎士風の男が手を上げる。
「オークの数は何匹だ? あまりにも多いようなら、騎士団に応援要請を送るべきだぞ」
「既に早馬を向かわせた。遅くとも夜明けには援軍が来るはずだ。オークの総数は不明だが、少なく見積もっても四十匹はいる!」
四十だと!? とどよめきが上がる。
「ちょっと無謀なんじゃないのかい!? 下手に手を出して怒らせるより、騎士団の援軍を待つべきだ」
「奴らはここからたった4リグスの距離に拠点を作ったんだぞ。次はこの村が襲われる可能性の方が高い! 先手を打って攻め込もう!」
「そうだ! それに商人の連中には世話になってんだぜ、すぐに助けに行かなきゃ名が廃るぞ!」
他にも戦うべきとの意見が多数上がり、この場にいる士気が最高潮に達しようとしていた。
私も正直、足が震えているがこの世界では逃げる事は許されない。戦う力を持つなら、戦場に出る。それが当たり前。日本での常識を持ち出したって通じない。
……とは言っても、私はただのオッサンだ。やっとスライムとゴブリンを倒せるようになっただけ。それがいきなり格上と思われるオーク……勝ち目なんてありそうにもないが、それを可能にしてくれそうなのがスライムソードとゴブリンシューターだろう。
「やってやる」
自分の頬を強く張り、弱気を追い出す。頑張れ、私。
「では、出陣だ! オーク共の首を積み上げてやろうぞ!」
「オォ――――ッ!!」