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最終話 蒐集家さんはコンプしたい!


「痛!?」


 私は爆風をモロに受け、投げ出される。背中から地面に落下し、勢いのまま転がっていく。


「ハ、ハハハ……無茶しすぎた、かな」


 全身ズタボロだ。指一本動かすのもきつくて、ポーションを飲む余裕もない。


「ジ・オルクは……」


 痙攣しながらも首を動かし、爆心地を見る。濛々と舞う黒煙の中から、両手を失い腹を抉られた奴が出てくる。

 おいおい、嘘だろ? まだ生きてるのか!? 


「グおォオオ……」


 奴はよろめきながらもこちらへ迫ってくる。私も向こうも丸腰だが、肉体差がありすぎる。足で踏み潰されるだけで殺されるだろう。


「ああ、どうすんだこれ」


 ここまでやっても勝てないならもうお手上げだ。

 参ったなぁ。強すぎるよこの個体。もしかして指揮官的な奴か? なら相打ちも本望かねぇ……。


「グガア……」


 一歩、二歩、と近づいてくる。

 しょうがない。相手の方が強かったんだ。なら潔く負けを認めよう。みっともない命乞いなんてしないぞ。


「どうせなら、もっと……楽しみたかったけどな」


 私がそう呟いた時だった。

 ドス、と奴の胸に矢が突き刺さる。


 更に、立て続けに何本も。


「ご、が……」


 流石に限界に達したのか。白目を剥いて仰向けに倒れ込む。

 誰か、来たのか?

 

 出所を探して目を動かして空を見ると……いつの間にか夜が明けていた。


 夜明け……あ。


 ――援軍。


 矢が飛んできた方を見ると、小高い丘の上に国旗を翻した騎馬の一団が堂々と並んでいた。




 

「――はぁ」


 チャプン、とお湯が音を立てて跳ねる。

 あの後、援軍の王国騎士団が到着し、残りのオークやジ・オルクは全て討伐された。


 私はドワイトさんと一緒に重傷者用の部屋に隔離され、丸三日間眠り続けたと教えられた。


 ……この戦いで多くの人が死んだ。顔見知りだった人も、そうでない人も。ドワイトさんも意識を取り戻したが、まだ絶対安静の面会謝絶状態だ。


 商人を救うために始めたこの戦い……彼らの命は守られたが、その代償は大きい。戦いを主導したドワイトさんへの批判の声も少なくない。


 でも私たちは自分の意志で戦いを選んだ。その選択に後悔はない。もしあそこで商人たちを見捨てたとしても、ジ・オルクの本隊はいずれオルディネールに到達していただろう。避けようのない戦いだったのだ。


 それに悪い事ばかりじゃない。

 私たちの救出劇に商人は感謝の意を示し、珍しいアイテムや素材をタダ同然で譲ってくれたのだ。


 お陰で欲しかった香料の他、お風呂に必要なモノが全て揃えられた。だから私は今――、こうして宿の一部を借りて作った露店お風呂を堪能している。


 身体をじんわりと温める湯舟、夜空に浮かぶ二つの月と異世界情緒溢れる景色……たまらない。湯船に浮かぶ桶からジョッキを掴み、ビールで一杯。本当は酒が良いのだが、ビールでも一際美味しく感じる。


 え? 未成年? 中身はオッサンですよ、私は。それにここは異世界。飲酒禁止の法律なんてありませんて。


「おーい先生、そろそろ出てくれよぉ。順番待ちの列が凄いんだ」

「ああ、はい。今上がりますね」


 先の活躍で、新入りから先生と呼ばれるようになってしまった。少しこそばゆいが、悪くない。私はタオルで身体を拭い、服を着る。


 露天風呂はすっかり村の名物だ。連日行列が出来てしまい、商人たちもすっかり虜になったようで村に長期滞在してしまっている。


「お待たせしました。今日も良いお湯ですよ」

「そいつは有難いねぇ! じゃ、お前らいくぞ!」


 ドワーフのブレンダンさんが仲のいい人たちを連れ立って、脱衣所に入っていく。


「先生、次はどんなものを作ってくれるんで?」

「期待してますよ先生!」

「……そうですね。今は冷蔵庫……ビールをキンキンに冷やせる道具を作ろうと思ってます。他にも色々候補があって悩んでます」

「おお! そいつは凄そうですね! いつか出来たら是非、一杯やりましょうや!」


 ……私はこの世界でアイテムを集め、作り出す。

 何故、ここに来たのか。何のためにいるのか。あの手紙の謎を解くために。


 さあ、次は何を作ろうか!


 まだまだ、私のアイテムコレクトは始まったばかりなのだから――!



 ―完―

ご愛読ありがとうございました。

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