1 回想
気づいた時、私は四十を過ぎていた。仲の良かった連中はいつの間にか身を固め、子供を授かっていた。最後に遊んだのは何年前だろうか。もう気軽に会えるような関係ではないのが、少し寂しい。
気付けば一年を通して一人で過ごす日々が続いていた。両親は早くに亡くし、兄弟親戚とも疎遠。ほぼ天涯孤独の身、と言えるだろう。お前も早く貰えよ、と言われたが妻と子を養える甲斐性など私にはない。残念だが、これが私の人生なのだ。
ワンルームの格安賃貸マンションなのに部屋がやけに大きく感じる。そりゃそうだ。家具は必要最低限。衣服は会社用のスーツと、数着の普段着だけ。カネも女も賭け事にも興味はなく、出世コースからはとっくに外れてるので接待ゴルフを嗜む必要も無し。
仕事が終われば直帰し、チューハイ片手にバラエティ番組を垂れ流してコンビニ弁当をモソモソと食べるだけだ。貴重な休日はただひたすら眠るに限る。
仮令、年金暮らしになってもこの生活パターンは変わらないだろう。
そりゃ虚しさはある。だが、今更もう変えようが無いのだ。
二十代は光陰の如く過ぎ去り、三十代すら遠い過去のものだ。完璧にオッサンと呼ばれる世代に入る。もう若くはない。始めたところで手遅れだった。
いつからこうなってしまったのだろう。
子供の頃はもっと情熱に溢れていたのに。
毎日が楽しくて輝いていた。宝物だった。
しかし自覚した時には、漲っていた熱はとうに消え失せ、全てが冷たく固まっていた。
手にマメが出来る程繰り返して練習した逆上がりも、この凝り固まった肉体では二度と出来ないだろう。野原を駆けずり回り、川底まで潜った記憶もセピア色に染まっていた。
今の私を、昔の私が見たら何て言うのだろうか。
昔の私のキラキラした目を見る事が出来るだろうか。
この空っぽの部屋で生きている私を、どう思うのだろうか。
テレビでは青年がインタビューを受けている。自慢のコレクションと言って、とあるカードゲームのレアカードを見せて自慢げに語っていた。
……そうだ。昔の私も両親の影響でよくカードやミニカー、特撮人形を集めていた。インターネットなどない時代、期間限定やイベント限定の物を私は両親の助けを借り、ゲットしていた。
友達からは羨ましがられ、街の人気者だったな。まあ、代償としてゲーム機の類は絶対に買ってもらえなかったが……。
あれだけ集めた奴、今は何処にやってしまったのか思い出せない。邪魔だから捨てたのかもしれない。勿体ない事をしたものだ。
……ああ、今日は何故か昔の事ばかり考えてしまう。
悪酔いしたんだ。もう寝てしまおう。寝て忘れよう。
あの日々は二度と帰らないのだから。
でも……もし叶うのなら……もう一度……もう一度だけ、あの頃のような輝いていた時間に帰りたい。
失くしてしまったものを――取り戻しに行きたい。