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第2部 Tokyo Ophionids - 36

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 竜星災害からの復興に、東京含む首都圏一帯は多大な時間と労力、費用を要した。

 政府系シンクタンクは星災のショックも冷めやらぬ比較的早期に、各方面の議論に資する検討材料として、被害総額を約一千兆円超えと概算する報告書を取りまとめた。

 また、複数の総合証券会社は、竜星群による被害が日本国のGDPを15~20%程度押し下げるだろう、とそれぞれ試算している。

 これは、直接的な資産の毀損に限定せず、日本国内には、工作機械や精密部品の生産拠点を擁する企業が多数あることから、星災の影響でこうした中間財の出荷が停滞することで、企業間で連鎖する生産体制全体が打撃を受けることを加味した上での推計であった。

 この国際的なサプライチェーンへの波及という観点で、経済協力開発機構《OECD》は、十五年以上前に発生した世界大竜星群(グレート・オピオニズ)以降、低調ではあるものの着実に回復の兆しを見せていた世界経済に対して東京竜星群トーキョー・オピオニズが与える負の影響にいちはやく懸念を表明した。

 声明では、サプライチェーンの再編を喫緊の検討事項に挙げるとともに、日本国の早期経済回復を下支えするため、必要な支援や措置を国際社会へ呼びかけている。

 周辺国のみならず世界各国が、東アジア有数の大都市で起こった痛ましい出来事を目の当たりにし、義捐金や応援の人員、支援物資の提供を発表した。

 海外の一般の人々からも、SNSでシェアされた被災状況にお見舞いのメッセージが寄せられ、更には募金活動の呼びかけもあり、被災した多くの人々が励まされた。

 その一方、国内外で一部の人々が東京一帯で起きた惨劇を称賛し、歓喜するような意味合いの動画を公開し、即座に大量の非難を浴びて、アカウント閉鎖に追い込まれるという一幕もあった。

 SNSには常に感動的なエピソードが満ち溢れているわけではない。

 竜星群を利害が対立する他国からの攻撃であり、人工災害とするデマゴーグは根強く投稿された。行政機関の広報はそのような偽情報の拡散を打ち消そうとしたが、悲しいことに、どちらもあまり多くのインプレッションを稼いではいなかった。

 これより現実的なプレビュー数を獲得していたのは、政治的信条や思想を強く抱え込んだクラスターの主張であった。

 曰く、日本国とアメリカ合衆国の両政府は竜星群の落下と脅威を事前に察知していながら迎撃対応をわざと行わなかった、あるいは対応を行ったにせよ遅すぎる、不十分である、怠慢であるといったもので、真に受けた人々が、政府当局や国内の天文台に嫌がらせの連絡を多数行った結果、当該機関は業務を平常に遂行できない状態となった。

 国連竜星群機関《UNOO》は、機能不全に陥った国立天文台に代わり、世界各地の観測所や研究機関のサーベイを突き合わせ、東京方面に落下した竜星群の規模をいち早く検証した上で、今回、多国籍艦隊や陸上の対星アセットによって行われたような効果的な対応が為されなかった場合、被害は実際に起きた件数の3倍以上に達していたという見解を示した上で、今後も国際協力に基づく竜星群対応体制の構築が必要であると改めて強調したが、そのような考え方が人口に膾炙することはなかった。

 とかく、わかりやすく攻撃的で派手な言葉は目を引くものだが、実直な調査結果に耳を貸す者は少ない。それに何より、現実に発生してしまった悲劇を前にして、仮定の話などあまりにも虚しいだけだった。

 タイムラインやトレンドに、真偽不明のセンセーショナルな流言が飛び交っていた。

 「都内では既に竜星から孵化したデンゲイが現れて竜子場を放っている」、「国連から派遣された複数のデンゲイが東京で極秘裏に活動している」「政府はデンゲイを使っておく民の頭上に竜子場を撒いているが、全てを隠蔽している」などといった噂話がそれこそ魔物のように人々の(メディア)で跋扈していた。

 これらの疑惑を基に、市民団体が「デンゲイの受け入れに断固反対」「デンゲイは日本に要らない」とシュプレヒコールを上げて、政府に対するデモ活動を行った。

 悪質なフェイクニュースがより深刻な情報災害として被災者を脅かしたのは、竜星群によってもたらされた高密度の竜子場が人体に有害な作用を及ぼし、発がん性を誘引し、畸形を生む等とする、出所不明のグロテスクな映像がシェアされる場合だった。

 首都圏一帯ひいては日本国全体がまもなく人の住めない場所となる、といった類の学術的根拠を一切持たない風説が流布されたことは、不安感に苛まされる被災者を更に追い詰め、遠隔地へ避難しようとする人の流れをパニック的に加速させた。

 事態を鑑みて、誰も見ていない公式発表を続ける行政機関を尻目に、学識経験者たちが職業倫理として、またその分野に明るい民間人までも善意から加わって、ボランタリーでSNS上に広がる陰謀論を払拭する作業に奔走し、状況は認知戦の様相を呈した。

 そのような状態なら、一度、情報の渦からは離れた方が良い。

 オールドメディアが発信する確度の高い情報を信頼するべきか。

 だが、果たしてスマートフォンを覗き込むことを止めたところで、そのような情報禍から逃れられるものだろうか。必ずしもそうではないだろう。

 テレビのニュース番組では現地からの生中継として、落着した竜星を目撃したという港区の高校関係者にレポーターがマイクを向けて回っていた。

 この時、インタビューに応じたのは一人の男性教員だったが、顔の周りに大きな怪我を負ったのか包帯だらけで見るも痛々しい姿の中年男性が、竜星群は天体兵器であるという独自の説を声高に主張し、鬼気迫る表情で「日本が」「アメリカが」「NATOが」と絶叫する映像は、心ないSNSユーザーから「放送事故」と扱われ、後年に至るまでインターネットミームとして消費され続けた。

 他、竜星群は意外な形で、東京の夏を象徴する風物詩にも影響を与えている。

 風切り音と、火薬が弾けて炎と光が飛散する様子が、この星災を連想させるとして、江戸時代から伝統的に続けられてきた河川敷の花火大会が翌年の開催を中止とし、以降も長きにわたって自粛されることとなった。


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