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第2部 Tokyo Ophionids - 25

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 2040年10月4日、協定世界時(UTC)05時37分(現地時間14時37分)。

 日本国神奈川県横須賀市の沖合28kmに展開していた警戒態勢中の国連艦艇イニシエイト・ロコラが、予測されていた大規模竜星群のものと推定される流出点の発現を観測した。

 その忌むべき星災の篝火を世界の天文台に先駆けて捉えた同艦の天文班クルーは次のような第一声を発したと伝えられる。

「見えた、光った、来たぞ!」

 それに遅れること27秒、同日05時38分(UT)。

 アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島のハレアカラ山頂に設置されたATLAS望遠鏡が流出点を観測。05時39分迄には美星スペースガードセンターや石垣島天文台を始めとする日本国内各地の天文台や観測所が、流出点と落下を始めた複数の小天体を確認。

 更に05時41分頃には、大韓民国の普賢山天文台や、台湾の鹿林天文台が竜星群のフォローアップ観測を開始している。

 一方、竜星群の軌道計算を行った国立天文台から通知を受けた日本国政府は直ちに、落下予想地点となった東京都を中心とする周辺地域、すなわち首都圏一帯に対して緊急情報を発出した。しかし、この時には既に、少なくない現地住民が竜星群を目撃している。

 現地時間14時40分。

 東京都青ヶ島で土木工事に従事していた作業員数名が南東の空から北西の方角へ飛翔する「一つや二つではない」火球を見た、と証言する。

 これらは今日、その大部分が海上へ落着した竜星群の第一波であったと考えられている。

 現地時間14時41分。

 房総半島南端に位置する千葉県館山市の漁業関係者が同様に複数の火球を目撃。

 同時刻、伊豆半島を訪れていた多くの観光客が東の空のおよそ高度20km付近を、白い煙を吐きながら東京方面へと落下する「たくさんの流れ星」を目撃している。

 この頃になると、関東地方や東海地域でも大勢の人々が上空の異変に気付き、スマートフォンやカメラのレンズ、あるいはARグラス越しに空を見上げていた。

 だが、竜星群の襲来に伴い、東日本の広範囲にわたって発生した電子機器の障害によって、撮影された画像や動画の大部分はひどく粗い、乱れたものとなり、SNSにはしばらくの間、真偽不明とされるメディアが数多く出回ることになった。

 そして、現地時間14時43分。

 東京都港区の湾岸に程近い都立高校の校庭に、一個の竜星が落着した。

 この直径10m前後と推定される小天体が太陽よりも激しい光を発しながら、都市部の上空を通過した数分後に、雷のような轟音と強烈な衝撃波が到達し、建物や高架、道路に留まらず、通行中の人々や車両にも多大な被害を与えていく様が、雑居ビルの屋上に設置されたカメラによって偶然、撮影されている。

 それが周囲に与えた影響を考えれば不自然な程、竜星の落着は相対的に穏やかなものであった。校庭に小さなクレーターが生まれ、爆風や焦熱が高校の校舎や隣接するビルを損壊させたが、その破壊の程度は、後年行われたシミュレーション結果による被害想定を下回るものでしかなく、竜子場の作用によるものとして大きな議論を呼んだ。

 多くのメディアにおいて、この竜星が後に続く一連の竜星群トーキョー・オピオニズの第一"弾"として扱われていたが、後年に行われた調査によって、千葉県犬吠埼の沖合17kmの海中へ落下した竜星が遅くとも14時42分迄には地表面へ到達していたことが明らかとなっている。


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