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一人芝居  作者: 志波 連
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 南門の前に並んだ数十人の領民たちが命がけで訴えています。


「殿様、お願いでございます。このままでは儂ら百姓は年貢を納めることもできず、町の者らも食う米がありません。水害にやられてしまい貯えももはやございません」


「殿様、この度の年貢を取られたら儂らはみな飢え死にです。殿様と神様におすがりするしかありません。どうかご慈悲を」


 泣き叫び口々に悲惨な現状を訴えますが、門番に阻まれてその声は城内には届きません。

 七緒は南門の櫓の上からその様子を見ておりました。

 ぼろ布のような着物を体に張り付けた子供が一人、精一杯の声で叫びます。


「おいらの父ちゃんも母ちゃんも、死んでしまいました。水害で食う物が無くなって……せめて今度の豊穣祭事に来てくれませんか。おいらたちの苦しみを知ってくれませんか」


 流した涙の跡でしょうか、泥だらけの顔には泥の筋がこびりついています。

 

「ええい、黙らんか!」


 門番は非常にもその子を六角房で打ち据えました。


「ひ、酷でぇ! 子供になんて惨いことを!」


 農民たちはその門番と、覆いかぶさるように建つ城を睨みつけます。

 七緒はたまらず駆けだし、今にも襲い掛かりそうな民たちの前で叫びました。


「みなの者、私は城主・神崎光成が娘、七緒である。そなたらの訴えは確かに聞いた。私が豊穣祭に参ると約束しよう。そして、拙くはあるが豊穣を願い、舞をささげると誓う。だからこの度は収めてはくれまいか? 父の耳には必ずこの七緒が届けよう」


 いきり立っていた農民たちは姫である七緒の言葉に落ち着きを取り戻します。


「姫様が……もったいないお言葉でございます。よくわかりました。豊穣祭での姫様の舞を心よりお待ちしております」


 そういうと領民たちはバラバラと解散していきました。


「領民達よ……明日は行けぬかもしれん。申し訳ないことじゃ……領主の娘たる私が大切な領民との約束を違えてしまうとは……情ない……情ないぞ」


 その時でした。

 光の無い天窓に格子が、揺らめくように赤く染まっています。

 何事かと凝視する七緒を包み込みように、四方から煙が入ってきました。


「これはなんじゃ! まさか、火事か」


 たちまち充満していく煙に咽返る七緒。


「誰か! 誰かある! ここから出せ!」


 苦しそうに声を上げても返事は返ってきません。

 牢の格子は叩いてもびくともせず、煙はますます濃くなって、とうとう息を吸うことも叶わない状態になってきました。


「だ……誰か……おらぬのか」


 そう言ったきり意識を手放してしまった七緒。

 あっという間に紅蓮の炎が東丸を飲み込みました。

 そして七緒は何が起きたのかさえ知らぬまま、炎に包まれてしまったのです。


 七緒の話を黙って聞いていた小春は、その悲惨な光景を浮かべて恐怖で座り込んでしまいました。


「そんな……そんなことがあるなんて。酷すぎるよ」


「ああ、理不尽この上ない話じゃ。じゃがな、今となっては何が起こったのか、私には知る由もない。私は何の咎で焼け死なねばならなかったのじゃろうな」


 七緒の問いに答えることなど、小春に出来るはずもありません。


「わからない……わからないけど酷すぎるよ。なんで誰も助けに来てくれなかったの」


「ああ、私もそこが不思議でならぬ。しかし閉じ込められたまま死んでしもうた私にもわからぬままじゃ。私は見捨てられたのか? 父上や城下の者たちはどうなったのか」


「私には……分かるわけ無いよ」


「ならば、解き明かせ! 私の代わりに事実を調べてくれ!」


 そう言うなり七緒は真っ赤な光になって小春の中に入っていきました。

 七緒が入った瞬間、胸のあたりがズシンと重くなります。

 そして頭の中に七緒の声が響きました。


「さあ、これでお前は私となった。さあ、参るぞ」


 小春は七緒に憑りつかれてしまったのです。


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