一章:序説 第十四話 ピピンの子
ピピンの子
それは恐怖公という忌み名で呼ばれていた父から来ている。
ピピンとはなにか、それは悪魔である。
そしてピピンの子は悪魔の子である。―
人々はその悪魔を恐れた。
以前はそうは呼ばれていなかった。
昔の話だ。―
グラディウス
「父さま どうして父さまは悪魔と呼ばれるようになったのですか?」
父はこう言った。
「為すべきことを為したからさ」と
二言目も発した。
「人は為すべきことを為すと恐れ、
為さなくてもいいことを為さないと人は弾劾する。
だから人は皆、私を恐れたのだ。」
俺にはよく分からなかった。
だから戦場へ降り立った。
父の背中を追うかのように、
父を恐れた逸話に、戦場の一つにとある西の島国との争いがあったという。
その争いで、父は敵方の司令官含め完全包囲した。
そして父が行った方法は、完璧な殲滅戦。
2万の敵兵を一瞬にして2000へと減らした。
全滅というほかなかった。
敵方も含め、戦争では死者は多くとも捕虜を取るというのが一般的である。
戦争とは外交手段であり、外交的金銭交渉である。
国を守れても、報酬がなければ民が反乱を起こし、国は内側から瓦解する。
そのため、各国間では捕まえた捕虜を交換条件として、金銭や食料と交換するというもの。
負けたら土地を奪われ、勝ったら捕虜で金品の交換する。
"殺さず捕虜として捕らえる"
それが暗黙の了解となっていた。
父はそれを破ったのだ。
それは完全な脅しとし、西方の島国との交換条件としてこの学園の支援を提案したという話だ。
俺はそれに憧れたわけではない。
ただ父の背中を追っていただけだった。
ただ次代の公爵として、
"為すべきことを為す"ために、ただ父と同じ道に歩いていただけだった。
たとえその先に、荒れたモノであろうと―
戦場を幼少ながら歩いていると、
その場で泣いている自分と年が同じであろう少女が泣いていた。
俺は荒んだ目でそれを見ていたが、何も感じなかった。
同情もない、憐れみも、心配もなかった。
だが心底気になった。
なにをそんなに泣いているのだろうか?と
家族だろうか....親類だろうか....想い人か
だが人は死ぬ。確かにそれは悲しいものだ。
しかし、人は成長するものだ。
前を向いて歩くんだ。彼らに恥じぬ生き方をするんだ。
今は泣け、好きなだけ泣くんだ。
そして為すべきことを.....
スパッとリンゴに矢が刺さる。
そのリンゴはパタリと倒れる。
先ほどまで聞こえていたおおきく大きく泣き叫んでいた声は止んだ。
俺はその矢が飛ぶ方向を見た。
そこには喜ぶ兵士が居た。
その兵士たちは父が貴族とあってか、かなり横柄で勝手に気ままに仕事を休んでいた。
そしてクロスボウを人に向けたのだ。
弓で人を撃つというのも、そうだが、
クロスボウは狩りのためのもの。
それが一般的な考えだ。
だが彼らは人ではなく、獣としてリンゴに放ったのだ。
彼らは言う。
「よっしゃ 一匹目だ」
「ふふーん 俺は二匹目だ」
「バッカ俺が一位だよ 4匹だよ!」
彼らは競い合っていたのだ。
彼女らに弔いもせず、ただ狩りの対象として矢を放ったのだ。
「お もう一匹居るじゃん」
「おい見ろ 結構....身なりが」
「おい バカやめろ!!」
次は俺に矢を放った。
気がつくと俺は"為すべきことを為した"―
父が言っていたことがわかった。
為すべきとは、
人として守るべき矜持を果たすこと。
周囲になにを言われようが、
どうと言われようが矜持を果たすことが"騎士"としての義務だと感じた。
これを俺は 『ダモクレスの剣』の引句から
"大いなる力には大いなる責任が伴う"
と呼ぶことにした。
公爵家として生まれた者として、その剣を引き抜いた。
だが、 それはそうだとしても.....
力なき者は力あるものに嬲られる。
賢者たちは
"人も世も生き抜くために必要な手段だ"と言っていた。
同感だ。
生きるためなら、父の血も啜ろう、母の肉を齧ろう、そして公爵家として為すべきことを為して、大罪人となろう。
だがそれは俺が、"運"がよかっただけだった。
その"矜持"は、
俺が"たまたま"父の元で養った結果だということが明々とハッキリとした。
だからだからこそ
"持たざるモノ"をただの食わぬ、漁らず、貪らず娯楽として狩る"持っていると勘違いしているモノ"が心底嫌いになった。
そう俺は心底、貴族が嫌いになった。
俺は"持てるモノ"として生きよう。
彼らを喰らい、漁り、貪ろう。
それが "俺の為すべきことだ"
ピピンの子として、―。
いつしか民も人も貴族すら、
俺のことをピピンの子と呼ぶようになった。
―――――
書斎室。
両脇には書簡が保管した棚があり、奥には剣を隠したハミルトンが居た。
ハミルトンは左足を前に出し、出来る限り俺にその右手に携えた剣と肩の動きを見せなかった。
ハミルトンは左足を大きく踏み出し、上半身をかがめた。
かがんだ瞬間、に右に動かすとハミルトンが着ていたマントがその軌道に沿うように靡く。
グラディウスの目には、
書斎の本棚の間一面に靡いたマントのせいでハミルトンの上半身の正確な位置が分からなかった。
そしてハミルトンはマントに穴を開けず、下から撫で斬りするかのようにグラディウスに切り上げた。
グラディウスはその戦闘経験から、後ろ一歩に下がり、剣を横にし、その剣撃を防ぐ。
だがその剣撃は重く、後ろに浮き飛ばさるような衝撃が来る。
グラディウス
(強いっ!! 戦い慣れている)
ハミルトン
「どうした? たった一撃で怯んだか?」
グラディウス
「ほざけっ」
そしてハミルトンはもう一度同じ構えをする。
グラディウス
「同じ芸しか取り柄がないのか?」
そうにこやなかな顔で言う。
応答もしなかったハミルトンはもう一度同じやり方をする。
グラディウスは剣を構え、反撃の準備をする。
グラディウス
(この技はほぼ一度きりだ
一度動きが分かれば同じきdッ)
ミエラ
「グラディウス!!」
気付くとグラディウスの頬には左手拳が打ち込まれていた。
吹き飛んだ瞳に遅れた記憶と今の記憶の混濁を始めていた。
グラディウスは立ち上がる。
口に溜まった血を吐き出す。
だがハミルトンは態勢を立て直し、まっすぐ立っていた。
ミエラ
(これが....戦いなの?.....)
グラディウス
(ちっ....あいつ、隠しやがった)
だが焦点が合わない目は確かに記憶していた。
ハミルトンがマントで上半身を隠した瞬間、左脇が微かに動いた という記憶を。
視線誘導。
戦いや日常生活において、作業する際に注目する視線を移動させること。
つまりハミルトンの動きは、
右側に大きく靡いたマントに注目させて、暗所である狭い左手側から攻撃を仕掛けた。
だがおかしいのは、右手の剣撃より左手のほうが威力が高かった気がする。
ミエラ
「ハッ!! グラディウスさま ハミルトンは確か左利きです!」
ハミルトンは真顔で不服そうな声でちっと舌打ちする。
グラディウスは気付く。
「お前、本来 盾使いか?」
ハミルトンは言う。
「学園は狭いですからね 盾を持ってこないのですよ」
その短いショートソードもこの狭い書斎室や回廊では連撃性から絶大な威力を発揮する。
適材適所と言わざるおえなかった。
そして、盾使いは戦場では利き手を持つことが一般的である。
戦場では、利き手で防御をしていたほうが生存率に大きく関係している。
これは突然の行動に咄嗟に早く動けるのは利き手だからという理由だ。
利き手を武器にする場合は、
慣れた利き手を扱った攻撃性を高めるが、その防御性を下げる。
これが利き手で持つ盾を扱う戦い方だ。
そしてもっとも厄介なのは、左利きの盾使いだ。
基本的に人は右手を利き手とし、武器やモノを扱う際に、右手で扱う。
人の体は上から剣を振り下ろすと、
胸と腕の筋肉により、
その剣先、軌道は内側へ内側へとずれていく。
左手側に剣が落ちやすい。
その傾向上、
人との対面で対抗側にある手が一番反応しやすいのだ。
つまり俺の右利きは左利きの盾使いには攻撃が"見えやすい"のだ。
グラディウスは開幕早々に冷や汗をする。
だが、相手は盾がない。
そのために接近戦が有効だ。
グラディウスはハミルトンの元へと突っ込む。
ハミルトンは一振り、二振りと剣で薙ぎ払うがグラディウスはそれを防ぎ、回避する。
そしてその隙をついて腹に....
かぁああああああああああんと衝撃音が響く。
ハミルトンは言う。
「子供が大人に勝てるわけがないだろ?(真顔)」
グラディウスの右手を掴み、蹴りで吹き飛ばす。
がはっ!! だが吹き飛びそうな体だったがハミルトンに抑えられ、以前その場にいた。
はぁ...はぁ....
グラディウスの体には明らかにダメージが入っていた。
ハミルトン
「やっぱ子供の体は柔らかないな(真顔)」
ミエラ
「グラディウス、助けた!!!」
そう女性の声が聞こえる先にはミエラが先ほど倒れていた少年をおんぶしていた。
ハミルトン
「参戦しなかった理由はそれか 大層だねぇ(真顔)」
グラディウス
「それが"騎士の仕事だからな"」
グラディウスは精一杯の力を振り絞り、体を持ち上げた。
ハミルトンの首を足で挟んだ。
ハミルトン
「なんの真似だ(真顔)」
グラディウス
「戦場でやることと言ったら、首切りだろ」
そう首筋をつま先でなでる。
ハミルトンはハッとなり、咄嗟にグラディウスを投げ飛ばす。
一瞬で首筋をなでるが、血はなかった。
「.........」
ハミルトンは投げ飛ばした先に居るはずのグラディウスがいつの間にか消えていた。
グラディウスは書斎の外側に置いていた槍を回収し、ミエラとともに走っていた。
ミエラは苦し紛れに言った。
ミエラ
「ごめん...全然戦えなかった。」
グラディウス
「いやいい あれが最善だ」
ミエラ
「..........」
グラディウスはポンポンッとミエラの頭をなでる。
どこに向かおうか、逡巡させてはくれなかった。
後ろにはハミルトンが付いてきていた。
ミエラ
(来てるッ.....!?)
ハミルトン
(やはり 書斎の外に武器を隠していたか
妙に動きが外側へ向いていたから、怪しかった)
グラディウス
「あの群れに紛れるぞ!!」
その先いたのは放心している人たちの集まりだった。
ミエラ覚悟し、「わかった」とその一言で一行は突っ込む。
ハミルトンは突っ込んでいった一行についていかず、一瞬その場で考える。
(無策に追いかけて、ここの人に傷をつけたら団長に殺される。
かといってみすみすとピピンの子たちを追いかけないわけには行かない。
ピピンの子以外はリストにはなかっただが、
ここまで用意周到なんだ。
リストにある子を追いかけていたら、
自然と暗殺対象である『イリアスロンドール』と『クレス』に追いつく可能性がある。
なら追いかけるか....だが下手に追いかけて見失っても....)
ちょろちょろと動く先が細いなにかが見えた。
(槍だっ!!)
あれを目印に群れに突っ込んだハミルトン。
ハミルトンはその人の群れで十分に剣を振れなかったが、それは相手も同じと思い、その槍まで走っていく。
避け、どかし、避けるが意外にもその人混みは多かった。
ハミルトン
(くそっ 意外にも人が多い、槍...あれ?)
気付くと近くに見えていた槍はなく、気付くと人混みの隙間からその一突きがやってきた。
だが、 またかぁあんっと槍と何かがぶつかる音が響く。
グラディウス
(くそっ....槍はその精密性の高さと距離で強さを誇っている....だが)
グラディウスの突きは確かに正確だった。
一突きで心の臓へと突き刺していたはずだった。
鎧を着込んでいると言えば、聞こえはいいが衝撃かなにかで後ろで仰け反られてもいいものが彼には一切の揺れがなかった。
グラディウスは手慣れた手つきで槍を後ろに持っていく。そしてすぐさまに消えた。
ハミルトン
(..............見失った なんつう精度だ)
―――――――
はぁはぁと走る。 走る。 走る。
だけど、―
マルド
「まってくれよー」
そう優しそうな声で言うマルドだが、その顔は歪み、その手にはハンマー、距離もあってか思っているよりも全力疾走だった。
エスメ
()ッ!ダメ もう胸が!!!
走るのもつかの間、肺は出たり入ったりしていたが、ずっと膨らみ続けていたのか限界が来ていた。
心臓がずっとバクバクと鳴り響き、鼓膜に金属音が鳴りやまない。
吐きそうな気分を、"生きたい"その一心でやっていた。
それは横にいたサリィも同じだ。
サリィ王女に関しては特にそうだ。
必死すぎて"走ること"にしか集中していなかった。
エスメは戦いのため、兵士の訓練などを受けていたが、サリィは生粋のお姫様。
走るなど体力などないし等しい。
けどそれでも、 それでも サリィは必死に走っている。
せめて、―
彼女だけでも......
『お父さま!! せめてエスメだけは殺さないでください!!』
そう必死に懇願する彼女。
カストル国も含め、
『禍根は残すな 残すと奪われる』という格言がある。
これは知恵ある者たちが反乱や革命を起こしてきた歴史があって、生まれた言葉だからだ。
貧困、圧政、蹂躙、復讐、強欲、怠惰、軽視
その全ての苦渋をもって、盤面をひっくり返えされる。
そのために、王家は断絶したほうが10年後、30年後、50年後、100年後の国にとって安泰なんだ。
だけどサリィは"たった1人の友達"のために、
その運命に逆らった。
もちろんアディス中でもカストル中でも、
非難轟々だった。
私は なんのために.....
サリィ
「エスメ!! はぁはぁ」
声はデなかった。指先がその道を指ししめる。
その先は会堂だった。
私たちは会堂の中に走り込む。
マルド
「会堂にはいれらたー くやしいー」
そうふざけた口調でいうマルド。
だがそのまま走り続け、時間はかけたがその彼女たちが入った会堂に辿りつく。
かちゃりと金属音を鳴らし、入り込む。
サリィとエスメはもう限界だった。
心臓が高鳴り、体は震え上がり、なんとしてもなんとしても空気を吸いたくて仕方なかった。
だが吸ってしまえば、"見つかる"。
マルド
「見つけた!」
エスメとサリィはひぃっと本能からの悲鳴を上げる。
だが目の前には先ほど追っていた男は居なかった。
別の場所から叫び声が聞こえる。
いやぁああ、やめてやめてという嘆願の声が後ろから聞こえる。
マルド
「黙れよ」
そう一言言うと、捕まえた子供をなぐる。
う....っ、そう"黙らずにはおえなかった"が嗚咽が以前としてなっていた。
マルド
「あ? お前リストにねぇな」
捕まえた子供をよそに頭をかくマルド。
くそっ....そう呟く。
子供を地にふせたマルドは追い込むかのように覆いかぶさる。
子供はマルドの"笑顔"で恐怖する。
叫び声が耳につんざくのか、男はあることをする。
バンッ!!っと。
サリィとエスメは聞いたことないような音に困惑が走る。
見えない背景が余計な想像を掻き立てる。
子供はその音と衝撃を感じた所を見る。
自身の小さな手は、自身の小さな指がいとも容易く鉄槌によって、打ち砕かれた。
子供にとっては神経はまだ若く、ありとあらゆる感触が鋭く感じていた。
子供は悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうとしていた。
男はしぃいしぃいと声を出す。
「ガキ 死にたくなかったら答えろ」
子供は必死な様子で頷く。
「さっき2人組がここに入ってきた
お前は見たか?」
「わからない」
バンッ....
「ああああああああああああああああああ」
男はもう一度、しぃいと指を子供に口に添える。
悶える子供にとっては恐怖しかなく、ただ従うほかはなかった。
「んじゃ次だ さっき2人組がここに入ってきた お前は知っているか?」
「お、とうさん、おかあさ...」
おとこは鉄槌をふりかざそうとする。
「見ました 見ました 見ました見ました見まし.....」
「しいしい いい子だ」
以前としてその笑顔は酷く歪んでいた。
「んじゃそいつらはどこにいった?」
「わかんない」
「そっかニコリッ」
「あっ、....わかんない わかんないわかんないわかんないわk....」
バンっと音が鳴る。
「あああああああああ」
2度の悲鳴。
サリィとエスメには重責が来る。
今ここで傷ついてる子を助けるべきだろうかと、今助けないと悔恨がのこり、今助けにいったら命が消える。
それは完全に本能が囁いていた。
"見捨てて生きるか"と"助けて死ぬか"という二択を。
想い重いおもい恐怖と矜持と生欲が織り混ざる。
エスメとサリィは必死に悲鳴をおさえた。
恐怖をおさえた。 王家をおさえた。
『知恵あるものが民を導く』が運命であるなら、その本領を発揮するのは今なんだ。
い...ま....なんです。
ほとりと涙がこぼれ落ちる。
そして少女たちが選んだ選択肢は
"見捨てる"ことだった。
子供の息はもう絶えかけていた。
「なぁ? 分かるか? 俺がこんな笑顔なのは?」
子供は痛みと恐怖で動きもしなかった。
「俺がこんな笑顔なのはな 痛みがわかんねぇからだよ!!」
「貧困街のやつらはな!! つねに笑顔で居たら飯をくれるんだ 貴族もそうだ
憐れみっていうんか? へへ生きるためになら仕方ねぇってやつだ」
「だけど俺は人生一度でも笑ったことがねぇんだ そもそもの話笑っていたつもりもねぇ」
「だって笑顔には感覚があってできるもんだ」
「俺にはそれが感じ取れねぇ
わからねぇんだよ てめぇらの痛みが!!」
「だから殺した だから拷問した だから弄くった
痛みってどんなのかを知りたくて知りたくて知りたくて知りたくて知ってみたかったんだ」
「そうするとわかったことがあった」
「わかるか?」
子供は絶えたかけた力で首をふる。
男は笑顔で答える。
「わかんねぇだろ?」
「答えは"痛みを感じるとみんな笑顔になる"だ」
そうニッコリと笑う。
こどもにはりかいができなかった。
したくなかった。それはサリイもエスメもだった。
会堂中に響く声がまるで反響して自分に返るかのように孤独な答えだった。
そして、―
「それでよぉ...さっき前払いで魔法をもらえたんだ どんな魔法か知りたくて知りたくて知りたくて 試してみたんだが、がっかりだ
だから君にそのがっかり魔法をあげるね」
そう子供の顔に手をかざす。
子供は嫌そうな顔で首をふって、避けようとするが大人の大きな手には逃れられなかった。
「―、
ウィデオー
エゴオプティムス、―
ラクリマフロースクラルスメエリタラエティティア」
そう唱えると、子供の顔は徐々にひどく歪み、痛みが生じ、悲鳴と雄叫びをあげていた。
「ああああ嗚呼ああゝ猗aaa」
会堂中に反射してくる届かない悲鳴、涙が永遠に流れ続けた。
まるで自身に返ってくるように、―
マルド
「なんだよ お前結構素敵な笑顔をするじゃないか」
子供の顔は、マルドと同じように歪んだ笑顔で叫んでいた。
―――――
かちゃりとコップを渡す男。
「そういえば先ほど、ダンタリ騎士団と会っていたそうですがなにをしていたのですか?」
「え....?ああ魔法を渡していたんだ」
「魔法ですか? そんな簡単に明け渡していいものですか?」
「大丈夫だよ」
受け取ったカップをすする。
「彼らが扱う魔法は彼ら本人にしか扱えない代物です。」
はぁ...と答える男。
「魔法というのは聖典に記されているようにそのものの人生を詠唱にすることが多い」
「だから彼らに似合う魔法とその使い方を教えただけだよ」
「そうなのですか 何か面白いと感じた魔法などありました?」
そんな雑談をふる。
「面白い.....」
そう顎をさすり考える。
「いえ、なかったらなかったらで全然問題はありませんよ」
「いえあります」
「どんな魔法ですか?」
「"人を笑顔にする魔法"」
一瞬手をとめる。
「なんですかそれは....」
「彼はね、もともと痛みを感じないようなんだ」
「だけど痛みがわからないから、他の人にその痛みを聞くことが多いんだって、
だけどね
彼はね 痛みを感じたいんじゃなくて、
"自分の無痛を感じてほしい"のだよ」
「だから"人を笑顔にする魔法"」
「............」
「面白い....魔法だよね」
両手を握る。
「そうですね
彼にも、救いがあらんことを」
「ええ、そうですね 祈りましょう
救いがあらんことを」
――――――
あはははははあはは、そんな声が会堂中に響く。
そして、疲れ、壊れた子供は壊れた指で方角をさす。
その方角は確かにサリィたちが隠れている場所に繋がる方角だった。
だがサリィとエスメは"我慢"ならなかった。
一瞬でその場から離れて、マルドに見えるように姿を現すとシュパンっと首筋に何かが通る。
サリィとエスメは後ろに振り向くと、ナイフが大理石の壁を破り、突き刺さっていた。
「ちぃっと黙ってろ」
一瞬にして、状況を抑えられた。
もう....動けなかった。
マルドは拷問を続けようとしたが、
「おい」
一瞬の衝撃、足で頭を抑えられたようだった。
そこには団長が居た。
「あ、兄貴 今リストにいるやつを探していたんです! さっき見つけたんでその足を...」
リミカルド
「おい、俺なんつった?」
マルド
「え....」
リミカルド
「俺はなんつった? リストにいねぇやつは?」
マルド
「手を出すな でも俺ころし....」
リミカルド
「手を出すなってつったら、処女でも指突っ込んだら破けるだろうが!!
傷をつけるなって言ってんだよ!! このゴミがぁ!!
おめぇは童貞か!?」
リミカルドは足をつけたまま、唱える。
「アウクシリアオブリーウィオーコンキオリ、―
スビトーレスティンギルアゴー、―」
するとたちまちマルドの顔に痛みが生じる。
マルド
「いたいたいたいたいたいたい」
リミカルド
「それがてめぇの笑顔の痛みだよ ゴミがぁ」
ぶつうんっとスイカが潰れる。
「死んどけよ いっつもいっつも隊長命令聞けねぇ癖して、何が兄貴だよ この寄生虫が」
ダントル
「どうしやす?」
リミカルド
「とりあえず 子供の状態の確認だ」
リミカルドは子供を起き上がらせる。
「大丈夫か?」
子供の顔は壊れ、目に光はなく、ただ周囲に立っている人たちのような立ち振舞だった。
ダントル
「ダメっすね 使えないっす」
はぁ...とため息を出すリミカルドは苛つく。
潰れたスイカに対して、バンバンと蹴りを入れる。
その死体はひどく飛び上がり、くずれ、曲がっていった。
リミカルド
「はぁそうだな あそこのお嬢さん2人にも聞き込みするか」
サリィとエスメに目を向ける。
サリィとエスメは構える。
リミカルドは優しそうな声で言う。
「大丈夫だよーおじさん 悪くないからねー だからね
イリアス・ロンドールって子とクレスって子を知らないかなー?」
サリィ、エスメ
「「し、しらない」」
そう嘘をつくが、
リミカルド
「嘘はよくないなー だって君たちはリストに載ってたんだ 顔とか居場所はわかるはずだ」
ダントル
「ね、ねぇ 手を出していい?」
リミカルド
「"追っている最中"だけだ 我慢しろ」
ダントル
「はい」
そう近づいてリミカルド。
だがサリィとエスメは逃げれずに立ち止まっていた。
すると、―
クレス
「サリィ!!!」
会堂の入り口から声が響く。
ハク
「こいつらなんですね」
イリアスは状況を把握した。
「.........」
リミカルド
「おや坊っちゃん こちらからいらしたのですね」
イリアスはぼうぜんとする。
「り...み....カルド」
リミカルドは笑顔で言う。
「大きくなられましたね 坊っちゃん」
そこには、父のとなりで楽しく談笑していたリミカルドの記憶が浮かび上がる。
そしてイリアスは言う。
「なんで裏切った リミカルド・クライトス」
クレスたちとリミカルドたちは対抗する。
まるでもう戦いが始まってるかのような雰囲気が漂う。
クレスはサリィの方へと顔を向ける。
ほっとしたような顔で言う。
「サリィ 大丈夫か? 助けに来た
だから安心してくれ」
サリィとエスメは安心したのか足が震え、パタリと座ってしまう。
クレス
「なぁイリアス リミカルドは知り合いか?」
イリアス
「.....ああ、」
クレス
「そうか.....」
クレス
「ハク....イリアスについていけ」
ハク
「わかりました」
イリアス
「!?.....なんでだ」
クレス
「やれることをやれ イリアス」
「こいつは俺が対処する」
ダントル
「ふーん 犯しがいがありそう」
そう言うと自身の懐にあった半月状の剣を抜く。
リミカルド
「いいねぇ....坊っちゃん 2人で一人前ってか」
ハク
「一人前? 3人前ですよ 竜を舐めないでください」
イリアス
「今度こそ勝たせてもらいますよ 師匠」
ははっと笑うリミカルドはローブを後ろへと大きく開き、腰に携えた斧を出す。
フランキスカ、―
彼の斧には十字に作られている鉄製の手斧。
XXと重ねるように構える。
リミカルド
「さぁ楽しいころしあいの時間だぁ!!!」
そうして、両者相対す、―




