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最悪の出会い(勇者)

 俺の名は、剣英雄(つるぎひでお)

 名前は非常に立派だが中肉中背。

 顔や見た目どころか中身ですら、石を投げれば当たる程度の普通の大学生。

 趣味は幼い頃から一人旅だが、メジャーな観光地には一度も足を運んだことは一度も無く、ナビは使わず地図一枚を広げ、知らない道をバイクや自転車で何日も走り続けながら物珍しそうな場所を自分の目と足で探し求める()()()()が好きなだけの、友人曰く「少し変わった奴」らしい。


 しかし大学に入り、行動範囲や目や耳にする情報量が多くなったせいか? 経験豊富になるほど何処へ行ってもデジャヴ感があるため新鮮味を感じにくくなったのか?

 少しだけ、ぶらり旅にマンネリを感じ始めていた時、ふと目に付いた()()()()()


「そう言えば、ゲームなんて一度もやった事がなかったな」


 現実と見間違うかのようなリアルな世界。

 しかし、世界中どこを探しても絶対に存在しない空想の世界。


 行ってみたい。


 考えるよりも先にゲームに詳しそうな大学の友人と連絡を取り、サービス開始は一ヶ月以上先だと言われたのも忘れて翌日にはバイクや自転車を売り、友人が推奨してきた最も最適と思われる環境を整え今に至るのだが、いま目にしている景色は白一色で、何処を見渡しても地平線しか存在しない真っ平らな世界。


「凄い……」


 天国と見間違うかのような、誰一人として居ない静かで孤独な世界。

 しかし、今までにないほど感動していた心を台無しにする声が背後から聞こえる。


「操作は確か……念じるだけか。よし、パーティを組むぞ」


 振り返ると……()()()()()()()()()可能な限り情報を集めないようにしていたが、これは流石に分かる。

 背後から声をかけてきた者の服装は、確か魔法が得意な賢人だったかな。

 しかしその割には、自己紹介どころか1から9を飛ばして10の話を押し進めようとするのは賢い者の行動とは思えない。

 賢い者……そうだった、賢人ではなく賢者だった。


「ほら、申請を送ったから()()が来る前に早くしろ」


 正直、彼の考えが全く見えないため


「何故?」


 と、思わず答えてしまう。

 しかし彼の答えは予想外のもので


「早々に勇者、賢者が組んでしまえば勝ちが確定するからな」


 そうではない。

 俺が聞きたかったのは、自己紹介すらもしない初対面の人間の指示に()()従わなければならないのかって意味だったのだが。


「ん? まてよ。参加者が特別ルールを読み飛ばす筈ないから……もしかして、お前ドラクエ初心者か?」


 俺の方が年下っぽいから、ある意味その呼ばれ方をされるのも仕方がないのかもしれないが、自己紹介をしないから心象最悪な呼び方になり、自己評価をどんどん下げている事に彼は気付いてなさそうだ。

 しかし、この手のタイプにソレを指摘すると、逆に上から目線と勘違いされ更に面倒事が増えそうなので言葉を飲み込み下手に出る事にする。


「はい、自分の職業は勇者でヒデオって言います。ドラクエどころかゲーム初心者です」

「そ、そうか。そうだったのか」


 俺の言葉を聞いた彼は目を丸くすると、一度目を閉じ大きく息を吐きだしながら姿勢を正す。

 そうか、俺が運よく入り込めた今の状況は一位でクリアするのを競う場であるため、気が急く参加者が居るのも当然の事。

 気が急いていれば話の順序を間違えたり、口調が荒くなったり言葉足らずになる事もある。

 そうだ、その程度の事一つで簡単に初対面の人間を判断するのは浅はかだ。

 冷静さを取り戻した今からが、本当の彼の姿の……


「よし。だったら俺が勝利に導いてやる。まずゲームを進めるにあたって回復魔法が必要だ。特にベホマはクリアするのに必須の回復魔法。しかしベホマは勇者・賢者・僧侶しか使えない。これくらいは知ってるよな?」

「え?」

「そうか、それすらも知らないドラクエ初心者か。だったら話を続けよう。まず追加特典でベホマを禁止した場合、勇者・賢者・僧侶の居ないパーティは、回復魔法無しでの遅い進行に加えて、中盤で最低でも一人は僧侶か賢者に転職しなければならないロスが生じてしまう。しかしだ、もしも勇者と賢者が既にパーティを組んでた場合、他はどうなると思う?」

「……」


 現在、俺の脳味噌は停止中。

 言葉が出ない。

 ああ、そうか。

 彼は気が急いていたわけでも冷静さを取り戻したわけでもなく、賢い上司か教師にでもなったつもりで襟首を正しただけで、元からこの性格なのか。


「これでも初心者には難しいか。いいか、ロスの生じないパーティを作るには、賢者が率いる勇者パーティに入るか、僧侶を味方に付けるしかない」


 やれやれ。

 ()()()は、自分がリーダーだと言い切っちゃったよ。


「しかし僧侶にだって仲間を選ぶ権利はある。既に攻防兼ね備えている賢者パーティに対して、僧侶は仲間を集めて戦いを挑もうとするだろうか?」


 彼の中では、彼がリーダーで彼のパーティになる事は確定らしい。


「答えは否。僧侶は必ず賢者パーティに入る。賢者・勇者・僧侶が一ヶ所に集まりベホマを禁止すれば……ついでに遊び人も入れて『くちぶえ』も禁止してレベルを上がりにくくしてしまえば、他の奴等の勝ち目は完全にゼロになる。賢者と勇者が手を組んだ時点で始まる前から試合は終わる事が理解できたかな?」

「ああ。確かに、それなら絶対に勝てるな」


 ()()()の言ってる事は、基礎的な情報にか目を通さなかった俺ですら正しいと分かる。

 それが成せれば確実に圧勝できるだろう。


 だが……


「だったら」


 俺の答えは既に決まっている。


「だが断る」

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