あの帽子は似合わない
「お似合いですよ。」
え!?全然似合ってないよね?
店員さん困らせてるよね?
心の中で謝りつつ、
「ちょっと他も見てみますね。」
店員さんに帽子を返す。
憧れのシンガーソングライターが雑誌で被ってた帽子。
「やっぱり似合わなかったな。」
ため息をついて、お店を後にした。
ある日、気になるカフェに遠出した時のこと。
途中ショーウィンドウにまたあの帽子が飾ってあった。
いつも買わないテイストの服と合わせてある。
「この帽子素敵ですよね。」
店員さんに話しかけられうつむいてしまう。
似合わないくせに私なんかがすみません。
心の中は卑屈な思考でいっぱいだ。
「お似合いになると思いますよ。」
「!?」
この人は悪くない!でも、簡単に似合うと言ったこの店員さんにイラッとした。
「私の何がわかるんですか?似合うなんて簡単に言って!こないだ別の店で試着したら全然似合ってなくて、店員さんも困った顔してた。でも、この帽子がいいの!被りたい!でも似合わないの!」
せきを切ったように喋り出しうつむく私を、黙って見守っていた彼女はこう言った。
「その時も、そのお召し物でしたか?」
え?
「いつも同じテイストのお洋服を着ていますか?」
テイスト?
でも、この店員さんは、バカにした目をしていない。
「お時間がありましたら、私にお客様をコーディネートさせていただけませんか?」
「は、はい。」
勢いに負けて返事をすると、嬉しそうに店内を案内してくれた。
入り口でチラッと値札を見てほっとした。
いつも着ないテイストの洋服で新鮮だけど、こんな可愛い服のお店、私には場違いに思えてずっとうつむいていた。
「どうぞ。」
試着室に案内される。
あれ?私こんなに可愛かったっけ?
試着室から出るの、ちょっと恥ずかしい。
「このコーデは、最後にこの帽子を被って完成なのです。」
店員さんの手にはあの帽子……
このお店に入る前なら、断っていただろう。
でも今は……
私は目をつぶり、少し前かがみになる。
店員さんは、まるで女王様に王冠を讃えるように、私の頭に帽子をそっとのせた。
「お似合いですよ!」
店員さんの弾んだ声がする。
思わず目を開ける。
憧れのシンガーソングライターのようにはいかないけれど……
今の私を変えようとは思わなかった。変われるとも思わなかった。
1つのことにこだわって、決めつけて……
そのままいたら、今、目の前にいる自分には出会えなかっただろう。
鏡には、照れくさそうにうつむく私がいた。
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