所詮D級
今回は会話が多めです
まったく。昨日は地獄を見たぞ。辛くないとか言うから食べてみたけど、あんなに辛いとは思わないじゃん。
「おはようシェラ」
「おはようセイン。早速クエスト受けるの?」
「まだお腹痛いんだ。流石にそんな気分じゃないよ」
昨日、シェラと別れた後。ずっとお腹が痛くてしばらく口の中も痛かったからなあ。あんなもの提供するなんて、なかなかクレイジーな店主だよな。
「そう、じゃあおやすみかしら?」
「逆になんでシェラはピンピンなんだよ。あんなの兵器だろ」
少なくとも俺は、あれ以上辛いものは食べたことがない。
「辛いものが好きだから、かしら」
「だとしてもおかしいだろ。ギルドに来て早々だけど、帰りたい。流石にコンディションが悪くてな」
「そう、じゃあ帰っても良いわよ」
え? マジで!? 帰って良いのか? 優しいなこいつ。
「ただし、ひとつする事があるわよ」
うん。だと思った。簡単に返してくれるわけねえよな。
「それで、やる事ってなんだ。何かお願いか?」
「そうね。お願いみたいなものかしら。私が行くところに着いて来て欲しいのよ」
「つまり、それってデートって事」
あ、めちゃくちゃ睨まれてる。絶対怒られるやつだ。
「そんな訳ないじゃない。仕事みたいなものよ。次そんなこと言ったら••••••分かってるわね?」
「承知しております。そんなことより、早く行こう。早く家に帰りたいんだ」
これふざけたら本気で怒られるやつだ。やめとこう。
「よろしい。じゃあ行きましょう。近くだから、詳しい話は歩きながらするわね」
「それで、仕事みたいなものって言っても、何をするんだ?」
「そうね、指名依頼よ」
それって普通にギルドで受けられる依頼と違うのかな。俺がまだ知らない話だ。
「それってギルドで受けるやつとは違うのか?」
「違うわ。冒険者は、ボードに貼られてるクエストを受注するいつものパターンと、依頼者が冒険者を指名して依頼する、指名依頼があるのよ。今回は私への指名依頼ね」
「指名依頼? そんなもの聞いたことないんだけど、俺の知識不足か?」
「いや、知らなくても仕方ないわよ。個人依頼は高ランク冒険者が指名されることが多いから、下のランクの人は知らない人が多いわ」
なるほどな。やっぱり依頼者は安心して仕事を任せられる人に頼みたいもんな。
「でも、指名依頼なんだろ? 俺ら2人パーティでやるけど、大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫よ。パーティ組んでるのは相手も知ってる。パーティで来ても良いとは言われてるわ」
へえ、ちゃんと依頼する人間のことを把握して、事前に伝えとくなんてな、割と真面目な人なのかな。
「その依頼主ってどういう人? 話を聞く限りすごく真面目な人っていう印象を受けるんだが」
「どうかしら、私もこの依頼主から頼まれるのは初めてなのよ」
ふむ、初めましてか。てか依頼主ってやつが誰かまだ聞いてないよな。
「初めましてなのか。それで、依頼主ってやつは、誰なんだ?」
「依頼主はキースって人よ。結構悪い噂を耳にするわね。指名依頼する人なんて、大体権力者や金持ちばっかりだから、一度は耳にした事ある名前もあるわよ」
真面目そうってのは、前言撤回だな。でも、そこそこ有名人で悪い噂ばっかり。で、金持ちか権力者ってなるとやっぱり裏で何かやってるのかな。
「なるほど、叩けばボロが出そうな人だな。あんまり信用出来なそうだし、この依頼以外で関わりたくねえな」
「大丈夫よ。私たちなら何かあってもなんとかなるし。あ、着いた」
「あれ、思ったより近かったな。ここの建物にキースってやつが?」
見た目は木の素材を使った普通の建物だけど、本当に権力者が居るのか? ここに。
コンコン
「依頼を受けたシェラよ。居るかしら」
「鍵は開いてる。入って良いよ」
ガチャ
「やあ。こうやって会うのは初めてだよね。僕はキース。よろしくね」
なんか想像した通りって感じの奴出てきたな。金髪で無駄にイケメン。チャラそうな典型的な、偉そうな若い金持ちって感じ。
「俺はセイン。よろしく」
「君の噂は聞いてるよ。E級冒険者でありながら、S級冒険者のシェラと組んだ不釣り合い君。だっけ?」
E級じゃなくてD級だこの野郎。
まったく。不釣り合いとは失礼な。俺の方が多分強いのに。
「おいおい、俺はD級だ。勘違いするなよ」
「ああ、そうだった。D級に昇格したんだっけ? でも所詮はD級だね。期待はしてないさ」
お、なんだこいつ。喧嘩売ってるのか? 依頼者じゃなければ殺してたところだ。
「ちょっと、私はセインが悪く言われる為にパーティを組んだわけでも、依頼に連れて来たわけでも無いのだけれど?」
「悪い悪い、僕もビックリしたんだ。D級程度の冒険者がまさか、君のようなS級冒険者とパーティを組むなんて、信じられないだろ?」
「あー、はいはい。そういうの良いから、早く依頼ってのを教えてくれねえか。俺は何も聞かされてないんだ」
マジでこいつ依頼者じゃなかったら殴ってる。
「そうだね、依頼内容は護衛だ」
護衛ってまた面倒そうな。早く帰れるって聞いたんだけど嘘だったのか。
「護衛と言っても、誰を護衛すれば良いのかしら?」
「それは、もちろん僕さ。僕はこれから大事な商談があってね。ただ僕は金持ちだ。賊に襲われる可能性もある。モンスターとか、色々な非常事態もあり得るからね」
商談って、こいつ何か店を経営してるのか。やっぱり金持ちは自分の店を持ってるものなんだろうか。
「確か、キース商会だったかしら? ずいぶん稼いでるって有名な」
「商会で自分の名前つけるのか。安直だなこいつ」
「失礼だな君は! 自分の名前をつけるのは普通だろ!」
「うるさいわね、早く商談に行く準備をしなさい。そんなに時間をかけたくないの」
「酷い! 分かったよ全く。すぐ支度するから外で待っててくれ」
ガチャ
「それにしてもうざいやつだったな、手が出かけたぞ」
「仕方ないわよ。そういう人間もいるって事にして受け入れなさい。どうせあんなやつ、依頼が終わったら関わりがなくなるんだし」
そりゃ確かに。なら、いちいち気にする必要もないか。うん、そうしよう。無視だ無視。
ガチャ
「君達、ドアの外で話してても聴こえてるよ。酷い言われようだな全く」
「あら、それは失礼。じゃあ早く行きましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こいつ、馬車で深く腰をかけて偉そうにしやがって。俺らはそれについて歩いてるってのに。うざい。
「なあ、これ本当に賊とかモンスター出るのか? 全然気配がないぞ」
「バカなのか君は、まだ出発して3分だろう。そんなに頻繁に出られたら困るよ。まあ? 出た時の為に君たちを雇ったんだけどね」
「そんな会話してるとこ悪いけど、前に武装した集団が普通にいるわよ。多分賊じゃないかしら」
あ、ほんとだ。ひーふーみー••••••大体20人くらい? たかが馬車を襲う程度で、こんな大所帯で。
「ひぃぃぃ!! なんとかしてくれ!」
なんてダサい。馬車の中で恐怖でうずくまる奴がいるとは。
「シェラ、どうする? なんかウザいからこいつごと賊を始末するか?」
「今回は依頼よ。依頼主を殺す訳にはいかない。私が一掃するから、キースを守ってて」
「あいよ、じゃあよろしく」
「水銃弾」
バシャバシャ!
「おーおー、威力も範囲もデカいね〜。半分くらい倒れたぞ」
流石。それにしても、昨日トカゲを倒した時も水魔法使ってたし、こいつ水魔法が得意なのか? 後で聞いてみよ。
「残った奴らもみんな逃げたわね。もう大丈夫よ。早く行くわよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「結局、道中に出会った奴は最初の賊だけだったな。俺にも見せ場欲しかった。暇だし帰って良いか?」
結局、あの賊以来、モンスターや賊が出る訳でもなく、安全に目的地に着いたんだが。ずっと暇だったな。
「ダメよ。まだ商談中でしょ。私たちが先に帰ると、帰りの護衛は誰がやるのよ」
「仕方ない。だとしても商談長くねえか? こんなかかるものなのか?」
現在商談開始から数分。どれくらいかかるかはわからん。
「まだ数分程度でしょ。私は商談した事ないから、どれくらいかかるかなんて知らないわよ」
「おっと、来客だ。なんか大男1人来たけど、用事かな」
「おい、キースって奴を出してくれねえか」
「残念だけど、無理ね。今は取り込み中なの」
おっと? こいつ殺意出しすぎじゃねえか? 敵意が丸出しじゃねえか。バカだろこいつ。
「ちょいと失礼するよ」
「何をっ!?」
ドカッ!
「ちょっと気絶しといてくれよ」
「ちょっと、セイン。来客に何をしてるの?」
あれが本当に来客ならな。あんなもん金で雇われた殺し屋だろ。だとしても、真正面から殺意むき出しで来るとはどういう了見だ。
「多分、こいつ殺し屋か、恨みがあるやつだよ。殺意を垂れ流しだ」
「じゃあ、キースは誰かに狙われていると。仕方ないけど、これも護衛の仕事ね。他に来そうね」
ザッザッザッザッ
「おいおい、10人は居る大所帯の武装集団様が何の用ですか?」
「何の用か。は言わなくても分かるだろ? キースを出してくれねえか」
「って言って素直に出すようじゃ護衛失格だろ?」
こいつがリーダーか? それにしても、こんなに人が来るくらいあいつは恨まれてんのかよ。他のやつじゃ対処できなかっただろうな。
「知ってるぜ、お前E級だろ。S級冒険者様も、聞いた話によると、魔法使いらしいじゃないか」
「何が言いたい」
「S級とはいえ魔法使いとE級の雑魚2人で勝てるのか••••••よ!」
カーン!
危ねえ。こいつ、一瞬で剣を抜いて詰めて来やがった。そこそこ手練れだな。
「うるせえ。俺はEじゃなくてD級だよバカが!」
ドカッ!
「ゴハッ!? くっ、お前の蹴り、なかなか痛いじゃねえか」
「セイン、大丈夫? やるわよ」
「俺がこの雑魚程度に負ける訳ないのは、シェラがよく知ってるだろ?」
っとは言ったものの、この数だとシェラが心配だが。
「それもそうね」
「俺を目の前にして呑気に喋ってんじゃねえよ!!」
スッ
「そんな遅い攻撃当たるかよ」
グシャッ!
「あ••••••グ、ガ••••••」
バタッ
「おっとっと。お仲間のモブ君が1匹死んじゃったな。どうした? ビビってないで、お前らもこいよ」