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第三十五話 ライバ・ルートヴィヒ・アインホルン④

ライバが強引に研究所へ押し入ってきた翌日、ライバによって決闘場のスケジュールを押さえられ、さらにその翌日に決闘が行われることとなった。


毎度どこから噂というものが始まるのかは定かではないが、決闘の話はすぐに学園中に広まった。


四年生の中で魔法の成績トップを誇るライバと、五年生トップのキングーノを倒したというアルジーノの決闘は、当然のことながら注目を集めた。


つい三日前に行われたクレイーノ・ローゼンベルグ対エリック・テンダーの決闘の時よりも、決闘場には多くの学生が観客として訪れていた。


今回も立ち合いを担当する騎士科教員のウィリアムズから舞台の脇で『自動治癒機(オートヒーラー)』をもらうと、ライバとアルジーノはそれぞれの腰に装着する。


「尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだぞ? アルジーノ・ローゼンベルグ」


決闘開始の位置に着こうとアルジーノが移動し始めた時、ライバが語り掛けてくる。


「もし決闘が始まってしまえば、君に勝ち目はない」


「大した自身だな。逃げないから安心しろよ」


「ふふ……。それはありがたい。これでようやく、ミアの隣から君のような人間を排除できる……。彼女の隣には、優秀な、選ばれし人間こそが相応しい」


――ふん、とアルジーノは鼻を鳴らす。


「まさか、優秀な自分こそが相応しいって言いたいのか? 自惚れもいいところだな」


「さぁ……? 少なくとも、そうあろうと努力はしているつもりだ」


「なんか勘違いしているみたいだが、自分の隣に誰がいてほしいかを選ぶのはあいつ自身だ。俺を排除するためにこんなことをするお前の行動に、あいつが納得するはずがない」


今度はライバが嘲ったように笑う。


「貴様と一緒に過ごせなくなることをミアが嫌がっていると? それこそ自惚れじゃないか」


「俺はただ、俺にとって快適な空間を壊されるのが面倒なだけだ」


――そう……あいつはもう、あの場所に必要な存在になっている


もしミアがいなくなってしまったら、博士やジョンは悲しむだろう。こんなくだらない決闘で決められたことで、あの場所をそんな空気で満たしたくはなかった。


「それに、お前が大事なのはあいつじゃない――お前自身だ」


「なに?」


「お前は、お前自身が理想とするあいつを壊されるのが嫌なだけだ。それは、あいつの個性を否定していることと何ら変わらない……あいつのことを本当に想っていれば、そんな考えになんか至らない。結局お前は、自分の実力に溺れ、あいつを自分にふさわしいと生意気にも決めつけ、強引に突き通そうとするただのエゴイストだ――あんまり妄想を拗らせんなよ。お前今、結構イタい奴だぞ?」


――ふふ、とライバは呆れたように笑う。


「たとえそうだったとしても、それがこの決闘の勝敗を左右するわけじゃない……。自分の居場所が壊されるのが嫌なら、力で示すことだ。せいぜいあがけ――アルジーノ・ローゼンベルグ」


そう言い捨てて、ライバはアルジーノに背を向けて開始位置へと向かう。


この決闘の勝敗に関わらず、こいつと分かり合うことはなさそうだと考えながらアルジーノも位置に着く。


二人が位置につくと、ウィリアムズが声を張り上げる。


「よし! 今回の決闘の報酬をそれぞれ確認する! まず、ライバ・ルートヴィヒ・アインホルン――勝利した際には、アルジーノ・ローゼンベルグに対し、『ミア・ワトソンに関わることを一切禁ずる』ことを要求する。ローゼンベルグ、これに異論はないか?」


「はい」


ライバの目をまっすぐ見て答える。


「次、アルジーノ・ローゼンベルグ――勝利した際には、ライバ・ルートヴィヒ・アインホルンに対し、『ミア・ワトソンに関わることを一切禁ずる』ことを要求する。アインホルン、異論はないか?」


「えぇ」


アルジーノの向こう側に座っているミアの目を見て、ライバは答えた。


ミアはウィリアムズの言葉を聞いて小さくなっており、会場はどよめきに包まれる。


「おいおい、ワトソンの取り合いじゃねぇかよ。決闘で女を取り合おうってのか?」


「これに負けた方がワトソンとの関係を諦める……分かりやすいけど、これってワトソンの気持ちはどうなるんだ?」


会場のどよめきをかき消すかのように、ウィリアムズが再び声を張る。


「ミア・ワトソン! いるか?」


突然名前を呼ばれ驚きながらも、ミアは小さく返事をして立ち上がる。


「二人の報酬は、お前の今後の生活に深く関わるものになる。お前がこの条件を承諾しないのであれば、この決闘は無効となるが?」


会場にいる全員の視線がミアに集中する。


全開の決闘もそうだったが、どうしてここで最終確認を行うのだろうか。


ここで承諾しないとなって決闘が中止になれば、ここまでの時間が無駄になる。


事前に承諾を取って、互いの了承を得た状態で決闘を始めるのが効率的なやり方だ、と誰もが考えていた。


しかし、これも決闘の演出の一つなのかもしれないとアルジーノは呆れたようにため息を吐く。


回答に困っているミアであったが、彼女にとっても、これを承諾しないわけにはいかなかった。


ライバはこの決闘が行われなかった場合、おそらく研究室のこと、博士のことを学園なり騎士団なりに報告するだろう。


そうすれば、みんなの憩いの場となっている研究室は失われてしまう。


そのことを、関係者たちは全員が理解していた。


「はい……異論ありません」


――おおおお、と会場が再びどよめきに包まれる。


「まじかよ……! 勝った方とワトソンは付き合うってことか? それってどっちでもいいってこと?」


「バカ……! 本人に聞こえたらどうすんだよ。でも確かに、ワトソンがそういうタイプだとは……」


会場の生徒たちの声に、恥ずかしさはとうに通り越し、ミアは怒りを覚えていた。


――なんで私が巻き込まれた上に、決闘で交際相手を決めさせるような女だと思われなくちゃいけないのよ! あの二人……終わったら一発ずつ殴ってやらないと……!


「ははは! こりゃまた、とんでもないキャラだと思われちゃったな、ミア!」


「まぁ、詳しい事情を知ってるのは、僕らだけですから……」


隣に座っているジョンはどよめく会場の様子に大声で笑っているし、その隣に座っているエリックも言葉ではミアに気を遣っているが、薄ら笑いを浮かべている。


学年でも人気のあるミアを取り合ったライバとアルジーノの決闘――学年でも名の知れた三人の関係性は話題性十分で、野次馬がこれだけ集まるのも頷ける。


「あんたらも……終わったら覚えときなさいよ……?」


ミアが今にも杖を追ってしまいそうなほど強く握りしめ二人を睨むので、途端に二人は苦笑いをして茶を濁す。


「それでは双方……構え!」


ミアから承諾を得たことで決闘の開始が決まり、ウィリアムズの言葉で二人は杖を構える。


エリックの時のように魔道具を持ち込むことも可能だったが、二人のプライドがそれを許さなかった。


クレイーノとエリックの決闘のように明らかに実力が離れている場合とは訳が違う――この決闘の目的は、互いの力を相手に証明すること。


そのためには、道具を使った小細工など無粋なことをしないというのは、互いの暗黙の了解だった。


「決闘……開始――!」


ウィリアムズの掛け声が、決闘場にこだまする。


しかし――


「……おい、何してんだ?」


会場は静かなどよめきに包まれ始め、次第にそれは大きくなっていく。


舞台に上がった二人は、開始の合図があったにも関わらず、互いに杖を構えたまま魔法を一切放とうとしなかったのだ。


開始と同時に、強力な魔法の打ち合いが始まるのではないかと胸を躍らせていた観客たちは、二人の態度に次第に苛立ちを募らせていく。


「おい! さっさと始めろ!」


「何してんだ!」


会場からは次第にそう言った叫び声が響き始める。


二人はそれでも、互いに構えたまま、それを崩そうとはしない――ミアは、舞台の上にいる彼らから放たれる空気、その集中力に、思わす唾を飲んでしまう。


――どうした、ローゼンベルグ? 早く魔法を放て


――お前こそ、さっさと打ってこいよ。何であろうと、受けきってやるよ


ふう、とため息を吐いたのは、立ち合いをしているウィリアムズだった。


「このまま始めないようであれば、この決闘は無効とするが?」


怒号が飛び交っている会場の生徒達には彼の声は聞こえない。


ウィリアムズの言葉に、ライバはにやりと口角を上げた。


――くそが……


アルジーノは心の中で舌打ちをした――この勝負、無効になって困るのは俺だ。こいつはそれを分かってる……。研究室の秘密をバラされたら困るだろって、そう言いたいんだろ、お前は……!


仕方がないと気だるそうにアルジーノは杖を小さく振りかぶり詠唱する――しかし、その態度とは裏腹に、放たれたのは会場にいる誰もが想像もしないほど強力な魔法だった。


「――『大乱炎塊グランドマルチフレイム』」


杖がごく小さく振られると、アルジーノの周囲で爆発が起こり、巨大な炎の塊が六つ生成される――爆風によって会場の中には突風が吹き荒れ、先ほどまで怒鳴っていた生徒たちの声が悲鳴へと変わる。


「あっちー!」


アルジーノ側の観客席の最前列で見ていたジョンたちは、目の前に出現した自分たちよりも巨大な炎の塊の熱にやけどしそうになり、慌てて後方へと退散する。


決闘場内の気温がたちまちに上昇していくのが分かる。


――この魔法だけで、終わらせてやる!


もう一度杖を小さく振りかぶると、アルジーノの生成した炎の塊が一斉にライバへ向かい飛んでいく――


ドゴオオオオン――


「うわああああ!」


舞台上で起きた大爆発によって、会場にいる野次馬たちも、魔法によって自分の身を守らなければならなかった。


決闘場内にものは少なかったが、観客の生徒たちが持ち込んだ荷物や衣服が決闘場内を激しく舞う。


障壁(バリア)』を生成し縮こまっていなければ、自分の体も荷物と同じように決闘場の虚空を舞うことになりそうなほど、爆発の威力は凄まじいものだった。


少ししてようやく爆風がやむと、観客たちはゆっくりと顔を上げる。


舞台の中央からは爆発によって黒煙が上がっており、その上に立つ二人の様子が確認できない。


舞台の脇に立っていたウィリアムズも、防御魔法を詠唱しその身を守ったようだ――あれだけの爆発があったにも関わらず、決闘開始の合図をした時と全く同じ位置、同じ姿勢、同じ表情でそこに立っていた。


やがて黒煙が晴れてくると、舞台上に二つの光源があることが分かる――ライバとアルジーノも、互いに『障壁(バリア)』を生成し、六角形の光の壁が二人を囲っている。


「ちっ……無傷かよ」


全く動じる様子の無いライバを目の当たりにして、アルジーノは舌打ちをする。


「取るに足らないな。魔法の威力は確かに驚くべきものだが、使い方が荒すぎる。どれだけ大きく頑丈な剣でも、刃を研がなければ切れやしない――」


今度はライバが小さく杖を振りかぶる――その所作だけで、彼が只者でないことが分かる。


「……そんな薄い『障壁(バリア)』で大丈夫か?」


ライバの言葉でアルジーノはハッとする。


黒煙で隠れてよく見えていなかったが、自分の周りを何かが取り囲んでいる。


爆発の直後に、既に準備は整えられていたのだ。


「――『夥光槍(ヴァストライトランス)』!」


――これは……光魔法――!


自身を囲む無数の光の槍が、アルジーノに向かって勢いよく迫り来る。

お読みいただき、ありがとうございます!


今後の展開が気になるなど、興味を持ってくださいましたら、


是非とも画面下の☆☆☆☆☆にて評価いただければ幸いです!


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