出会いの交差点
その交差点には、通った人の数だけ逸話がある。
ある人曰く、その交差点を通れば幸せになれる。
そして、別の人曰く、その交差点で立ち止まれば願いが叶う。
そんな逸話だらけの交差点が、僕の通学路だ。
「あ〜、今日も疲れたな〜」
ある日の部活終わりの帰り道。
冬の訪れを告げるような少し肌寒い風を感じて、思わず体を縮こまらせつつ、薄暗くなったいつもの通学路を通る。
そして、いつも通る交差点に差し掛かった時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「おーい! 待ってよ〜」
「ん? あぁ、お前か」
後ろを振り返ると、ショートヘアの快活な女の子が元気よく手を振って、こちらに走ってきた。
彼女は、小さい頃からの知り合い……つまりは幼馴染だ。
母親同士が中学からの同級生らしく、その縁で彼女と知り合ったのだが、小さい頃から太陽のように明るくて、いつも僕のことを振り回していた。
「お前、今日は早く帰るんじゃなかったのか?」
交差点の横断歩道から少し離れて立ち止まり待っていると、元気いっぱいの彼女が息せき切ってやってきた。
「ハァハァ、その予定だったんだけど……あんたにどうしても渡したい物があって」
「僕に?」
思い当たる節が無く首を傾げると、彼女が慌てた様子で自分のカバンを開けて、ガザゴソを中身を引っ掻き回すと、カバンから薄っぺらい長方形の白い封筒を取り出した。
そして、頬を真っ赤に染めて俯くと、勢いよく僕に差し出した。
「はい! これ! 今すぐ読んで!」
「いっ、今すぐ!? 家に帰ってからでも……」
「ダメ! 今すぐここで読んで!」
「はっ、はい!」
彼女の勢いに押されて、封筒を受け取り中身を開けると、2つ折りにされた紙が出てきた。
その中を開けると、短い文章が綴られていた。
『好きです。付き合って下さい』
「……本当に僕で良いの?」
突然の告白に驚きつつ確認すると、コクリと彼女が頷いた。
そんな彼女に小さく笑みを零すと、彼女の右手を取って歩き始めた。
そして、彼女の耳元に小さく囁いた。
「これから、よろしく」
その交差点には、通った人の数だけ逸話がある。
しかし、その数多ある逸話の中でも、特に有名なものが存在する。
それは……【その交差点は、良縁と出会える交差点である】と。