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万食集ーインカコン

作者: ばーた

腹減ったー。

初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす。


ニュースでたびたび繰り替えられた万葉集の歌の一遍。


私はテレビにかじりつき、新元号である、"令和"を見届けた。


それから早2年過ぎたが、まさかコロナによるパンデミックが起こり外出禁止令が出るとは思わなんだ。


一寸先は闇とはよく言ったもので何が起こるかわからないが、普段からあまり外出をしない私としてはあまり変化しない生活であった。


旬のものを食べ満喫するだけ。


変化するものはあるがそれでも春はやってきて、夏になる。


ただそれだけだ。


毎年変わらないものがあり、そして訪れるものに歓喜しよう。


と、まな板の上に横たわる鮮度のいいアジがそう私に語り掛けていた。


こいつは死んだ魚の目なんかしちゃいねぇ。


死してなお私に語りかけてくる様は、きっとこいつは群れのヌシであったに違いない。


商店街の魚屋の大将がサービスしてくれたアジだ。


群れのヌシではないにせよ、少なくても大将おすすめのアジだ。


彼は今まで"アジ"と種族名でしか呼ばれていない。


が、この時私は彼に"大将"と命名した。


でっぷり太った彼はうまそうではあるが、まな板に乗ってもなお私に勇気を与える眼をしている。


"大将"にはこれから最後のお勤めをしていただこう。


まず、鱗とゼイゴ、ワタの処理をして頭を落とし背開きにする。


"大将"が武士道を志してたは知らないがここは背開きだ。


その後、肋骨あたりをそぎ落とし綺麗に洗った後、ペーパーで水気を取る。


塩胡椒小麦粉卵液パン粉をまぶし揚げれば、アジフライの完成だ。


"大将"の周りには千切りキャベツとトマトを添えてあげれば尚善し。


アツアツを口に放りこめばふわふわの身が至福の時を奏で始めること間違え無し。


私は揚げたてサクサクふわふわの"大将"の身にケチャップをぶっかけた。


一口かじれば至福が奏でるともに初夏の風とどこからかともなく聞こえるインカ帝国の調べも聞こえるように思える。


トマトは南米発祥なのできっとそんな曲だ。


インカ帝国ではやった曲はよくわからないがエクアドル辺りの曲ならたまに駅前で陽気なおっさんが披露している。


なんか縦にうにょーんとした麦藁帽とレインボーカラーのストールっぽいもの肩にかけながらギターっぽい何か引いている。


あれ、あの曲が聞こえるような気がする。


ついでにコンドルも飛ばしておこう。


そんなことを考えながら食していると食べ終わった。


ご馳走様。


初夏のアジにして、口すなわち幸福となり、蕃茄はインカの調べを奏で、コンドルは空を舞う。


そんなことをノートに書き記した。

米くいてー。

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