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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大森林の真ん中で孤独を感じていたら邪神になった

作者: 火水

寂しい。そんな感覚にはとうに慣れきっていた。

この森に迷いこんでからもうどれだけの時間が経っただろう。

五年か、十年か。もしかしたら百年経っているかもしれない。


俺は死とは無縁だ。


俺はあの日、不老不死の力を手にいれた。


それはもう嬉しかった。ずっと追い求めて来た力だ。喜ばないわけがない。


これからは何でも出来る。そんな全能感に酔いしれていた。


だけど、違った。


不老不死になったからと言って、良いことはなかった。


俺は当時、勇者と呼ばれていた。元々は日本に居たのだが、身勝手な連中に召喚された。


だがその時に神に力を与えられた。その力が余りに強力だったために調子に乗り、更に色んな事が上手く行くようになってますます増長した。だが、強大な力を持っているため大した問題も起こらなかった。


そして遂に魔王を倒し、美しい姫と結婚し、あの時はおそらく幸せの絶頂にいたと思う。


それからも自分の欲求を満たすために色々な事をした。不老不死もその一環だ。


あらゆる研究を重ね、やっとの思いで完成させた。だがそれからが悲劇の始まりだった。


ある日、勇者として戦っていた時の仲間と魔物を狩りに行った。


フレアドラゴンと言う強力なモンスターだったが、そんなもの魔王と比べると全く脅威を感じなかった。


だがその油断がいけなかったのか、なんとドラゴンは戦闘中に進化したのだ。


あり得ない確率だった。戦闘中に進化するなど、聞いたこともない。だがそれによって死亡してしまった。


しかし不老不死となっていた俺は生き残った。


その場に残っていたのは焼き焦げた大地と戦友の死体だった。


それからしばらく経ち、姫との間に娘が産まれた。


とても可愛くて、思わず顔を綻ばせてしまった。


だが時が経つにつれて不安が芽生えてきた。


娘は成長し、姫に似て美しくなっていった。


姫は歳をとり、それでも美しさを失っていない。


王も代替りし、共に魔王と戦った王子が王となった。


だが自分は何も変わっていない。不老不死となり、歳をとらなくなり、周りが変わり行く様をただ見ていることしかできなかった。


姫...セリアが死んだ。


長年寄り添ってくれた彼女はもう居ない。


悲しかった。自分も後を追いたいと思った。でも死ぬことは出来なかった。


そしてようやく気づいた。この不老不死の力は、手を出してはいけない呪いの力だったと。


だが今更気づいてももう遅い。何故なら一度こうなってしまえば元には戻れないのだから。


娘が結婚した。もう見た目だけなら自分と変わらない。


孫が産まれた。娘は俺より歳をとっていた。


娘が死んだ。やはり孫は俺より歳をとっていた。


もう、耐えられなかった。俺は逃げ出した。


ただ我武者羅に歩き続け、気がつくと森の中に立っていた。


周りには木以外何もなく、動物や虫等も見当たらなかった。


この何もない空間が、自分には相応しいような気がした。


寂しい。そんな感覚にはとうに慣れきっていた。

この森に迷いこんでからもうどれだけの時間が経っただろう。

五年か、十年か。もしかしたら百年経っているかもしれない。


今の俺にあるのは、強烈な孤独感だけ。


その時、頭の中に声が響いた。


『スキル[孤独]のレベルが最大になりました。スキル[孤独な世界(ひとりぼっち)]を獲得しました。神格を得たため、種族が【邪神】になりました。』


この声を聞くのは久しぶりだ。勇者として戦っていた頃は頻繁に聞いていたが、スキルを使わなくなってから聞くことは無くなっていた。


俺は震える声で呟く。


「ステ...タス」



名前:天川 誠也 Lv99/99

種族:邪神 【孤独】Lv1/9999

能力値

攻撃力:640

防御力:510

魔法攻撃力:550

魔法防御力:490

攻撃速度:610

移動速度:540


スキル

剣術Lv10/10 魔法剣Lv10/10 炎魔法Lv10/10 光魔法Lv10/10 筋力強化Lv10/10 魔力増加Lv10/10 不老不死Lv- 孤独な世界Lv-


称号

勇者 剣聖 英雄 愚か者 邪神



孤独な世界

この世界に存在する自分以外の全ての生物を死滅させる。



今の俺は、恐らくまともじゃない。それは分かっている。それでも止められない。俺は孤独だ。なら他の奴等が死んでも変わらないんじゃないか?いやむしろ他の奴等が死んだらここまで孤独を感じないんじゃないか?この世界に、自分だけしか居なくなるなら...


「スキル[孤独な世界(ひとりぼっち)]」


『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』


・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・


『天川誠也、聞こえますか?』


ふと、声が聞こえた。


『お久しぶりですね、天川誠也。』


それはあらゆる生物がひれ伏してしまいそうなほどの威厳のある、しかしどこか優しさを感じさせる声だった。


「女神...さま?」


そして、ずっと昔、この世界に来たときに聞いた声だった。


『今回私は、新たな邪神が誕生し、一つの世界が滅んだと聞いてやって来ました。それがまさか貴方だったとは...』


「女神様、お願いです。俺を、俺を殺してください。」


女神様なら、きっと俺を殺せるだろう。これで、解放され...


『はぁ、なんと愚かなのでしょう。自分のやったことの後始末も出来ないとは。残念ながら、貴方を殺すことは出来ません。貴方のやったことはとても許されることではありません。』


え?


『貴方を監獄の最奥へと封印します。そこで永遠の時を過ごし、死ぬことも狂うことも出来ない苦しみを味わいなさい。』


そんな...もう、いやだ。終わらせてくれ...


『この件に関しては身に余る力を与えてしまったこちらにも非はあるかもしれませんが...これも決まりなのです。悪く思わないでください。』


やめてくれ、殺してくれ...


...ああ、セリア。君の言うことを聞いていたらこんなことにはならなかったのだろうか?


『残念です。私は貴方の事が気に入っていたのですが...まぁ、仕方ないでしょう。それでは、言い残すことはありますか?』


「...」


『そうですか。それでは、もう会うことも無いでしょう。さようなら。[送還]』



・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



暗い。何処までも暗く、何もない。これが監獄か。


「...」


俺は、どうするべきだったのだろう。不老不死なんて手を出さなければ良かったのか?結婚なんてしなければ良かったのか?そもそも、勇者になどならなければ良かったのか?


わからない。だが、俺は何処かで失敗したのだろう。そして今ここにいる。


出来ることなら、やり直したい。だが、それは叶わないだろう。だって俺は、ここから出ることすら叶わない。


ここでひたすら孤独を感じ、苦しみながら永遠の時を過ごすのだ。


いつも考える。あの時、不老不死などにならず、セリア達と一生を過ごし共に死ぬ事ができれば、どれだけ幸せだっただろう。


その答えは恐らく永遠に分からないだろう。もう、セリアとは会えない。



・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



この暗い世界で、ただ時間だけが過ぎていく。いや、時間が進んでいるのかもわからない。


邪神となった今でも眠ることはあるらしく、俺は久しぶりに夢を見た。


なんてことのない、普通の夢だ。懐かしい、日本での生活。しかしそこには何故かセリアがいた。俺たちが結婚したての頃の若いセリアが、俺の母と楽しそうに話している。


それは俺が本当に求めていた光景なのかもしれない。


日本での大切なものと、あの世界の大切なもの。その二つが同時に存在している、とても我が儘な夢。そしてそれは俺が手放してしまったもの。


もしあの時、不老不死ではなく帰宅の方法を探していたら、日本に帰ることが出来たかもしれない。


母さんにただいまって言って、セリアのことを自慢して、一緒に暮らして...


ああ、俺はバカだ。何てことをしてしまったんだ。そっちの方が、何倍も幸せじゃないか。


セリアにも、悪いことをしたな。俺のしょうもない研究に付き合って、辛かっただろうにいつも笑って。


出来ないって分かっていても、やっぱり、やり直したいなぁ。


その時、闇しかなかった空間に一筋の光が射した。


俺は吸い込まれるようにその光へ向かっていった。

なんとなく続きがありそうな終わりですけど何も考えて無いんですよね。

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