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とある冒険者の邂逅2


 「「ヘンリさん(君)ッ!」」



 誰かが俺の名前を叫んだ気がするが、俺はそれが誰の呼びかけか理解することが出来なかった。何故なら、その時俺はすでに空中へと吹き飛ばされていたのだから。


 突如強烈な衝撃によって空中に投げ出された俺は、宙を舞いながら時が止まったかのような時間の中で、何が起こったのか理解するために周囲へと視線を巡らせた。


 視線の端ではイリーナがカイを治療しながら俺へと視線を向けている。恐らく先ほどの悲鳴の一つは彼女だろう。もう一つは、レオナは魔法の詠唱を続けているので違う。だとすれば、ここからでは見えないが、恐らくもう一つの悲鳴はラティナさんのものだろう。


 彼女達のとても心配した声には申し訳ないが、俺はそのままさらに視線を巡らせる。


 そして、俺は先ほどまで立っていた場所で、ジェネラルが振り出した足を引き寄せているのを見た。


 そこから、一体何が起こったのかだいたい予想ができた。


 千載一遇のチャンスを逃すまいと繰り出した最高の一撃を、スキルで防がれたことで、思わず呆然としてしまった俺に対して、ジェネラルがお返しとばかりに俺に向かって蹴りを食らわせたのだ。


 空中で舞いながら俺は、自分のうかつさを呪った。


 (ランクCの冒険者にもなって、こんな失敗を犯すとは、冒険者としても、パーティーのリーダーとしても失格だな、俺は・・・)



 「グハァッ!?」



 そして、何十秒にも感じた浮遊感も、ドゴンッと言う背中を強く地面に打ち付ける衝撃で終わりを告げた。



「クゥソッ・・・ヘマ・・し・たか・・・すまない・」



「ヘンリさんッ、それ以上しゃべらないでくだいっ!すぐに治療しに行きますからッ!」



 カイの治療をしていたイリーナが、俺に向かってそう呼びかけてくる。


 かろうじて視界の端に映る二人を見れば、未だに治療が終わる様子はなく、俺の治療に来るにはさらに時間がかかるだろうことは容易に察することができる。


 しかし、そんなことよりも俺を蹴り飛ばしたジェネラルは、俺という盾を失ったレオナへと再び接近し始めていた。


 肝心のレオナは魔法がまだ完成していないため、その場から動こうとしない。



 「レオ・ナ・・逃げろ・・」



 俺がそう指示するも、彼女はジッとその場で杖を構えている。



 ジェネラルは障害が無くなったことで、獲物であるレオナへと、ゴブリン特有のその醜悪な顔で、好色な目を送っている。


 そしてついに、ジェネラルが彼女へ向かってその手を伸ばそうとした時、声が聞こえてきた。



 「『ーーー捧げしは我が魔力・・・』」



 それは彼女の詠唱(こえ)だった。




 「『ーーー求めしは虚像の太陽・・・』」



 ここに来て、彼女の魔法が完成しようとしている。



 「『ーーー我が意に従い・・・』」



 彼女はもともと、共和国にある魔法都市『マギロドス』の魔法学校の卒業生で成績も優秀だったと、彼女の幼馴染みであるイリーナが言っていたのを聞いたことがある。


 俺は魔法を使えないので、魔法学校というのがどれくらい凄い所なのかわからないが。彼女たちと出会ってから今まで、彼女の魔法には何度も助けられた。


 そんな彼女が放つ魔法は、ジェネラル程度の魔物なんて、容易く消し済みにすることができるだろうと、確信している。



 「『ーーー我が敵を焼き尽くせッ・・・!』」



 しかし、ジェネラルもただ魔法が完成するのを黙って見ている訳ではない。


 レオナの魔法が放たれる前にジェネラルは、その手に持つ両手斧で、彼女を叩き潰そうと斧を振り上げる。


 そして、ジェネラルの両手斧が、彼女の魔法よりも一歩早く振り下ろされる



 「ーーークッ・・・!」



 魔法は・・・




 間に合わない。




 しかし、その時・・・


 レオナの魔法よりも早く、ジェネラルの攻撃よりも早く、動き出す者がいた。



 「ーー『インパクトアロー』ッ!」



 それは、彼女が今の今まで機会を伺っていた一瞬の隙。


 彼女が放ったその矢は、レオナに振り下ろされているジェネラルの持つ両手斧へと、真っ直ぐに銀線を引きながら飛んでいった。


 そして、その矢が狙い違わず、今まさにレオナに振り下ろされた、ジェネラルの両手斧に当たった瞬間・・・




 ジェネラルの斧はジェネラルの体ごと強い衝撃と共に一歩、たった一歩後ろに弾き飛ばした。




 たった一歩、されど一歩。




 その小さくも、大きな瞬間を彼女は逃さない。




 「ーーー『ソル・ファイヤ』ッ!!」




 彼女が叫んだ瞬間、俺の視界は赤い光に包まれた。そして、一瞬の後に肌を焼く熱気を感じた。



 「ギッギギャアアアアアァァーーーーーッ!!!」



 恐る恐る目を開ければ、彼女、レオナの前に、火に包まれたジェネラルが悲鳴を上げているのが見える。


 ジェネラルはレオナの魔法を至近距離から受けて、避けることもできずに魔法を受けたことで、全身を太陽の火で焼かれている。


 レオナは魔法を放った後、火に包まれるジェネラルから素早く距離を取り、様子を伺っている。


 俺はそれを確認した後、先ほど矢が放たれた方向を確認してみる。


 そこには想像していた通り、弓を構えたままジッと火に包まれるジェネラルを油断なく観察しているラティナさんの姿が見える。


 やはり彼女が武技を使ってレオナの援護したのだろう。


 ラティナさんがジェネラルを直接攻撃するのでは無く、レオナへと振り下ろされた斧を狙ったのは、レオナを助けるためと、恐らく彼女にジェネラルを倒すことを託したのだろうと俺は思う。


 何はともあれ、これで長いような短いような戦いも終わった・・・



 「ーーー『アクアヴェール』」



 ・・・かのように思われたが、突如どこからとも無く男の声がしたと思ったら、その後すぐにその男が何らかの魔法を放ったことを理解した。


 その正体不明の魔法は、レオナの魔法に焼かれているゴブリン・ジェネラルの全身を水の膜で覆い尽くし、『ソル・ファイヤ』の火を消してしまった。



 「えっ、なんでっ!?」



 「何者ッ!?」



 突然のことに、レオナは声を上げ、ジェネラルを注意深く観察していたラティナさんは素早く周囲を見渡し、ジェネラルの火を消した者を探した。


 俺も木にもたれ掛かりながら、周囲の林に視線を向け、警戒する。


 そして、ゴブリン・ジェネラルの後方の林の影に、黒い外套で全身を隠した、見るからに怪しい男が立っていた。


 その後他の皆なもその姿を見つけたようで、すぐに臨戦態勢を取る。



 「まさか、このゴブリン・ジェネラルを倒す冒険者があの街に残っていたとは思わなかった。もう少し弱い冒険者を使って、コイツのレベルを上げたかったんだが、失敗したな。」



 男の言葉から、少なくとも俺たちの味方と言う訳ではないと言うことが分かった。


 しかも、どうやらこの男はこのゴブリン・ジェネラルの主人であり、俺たちのように依頼を受けてやって来た冒険者を襲わせて、経験値としようとしていることが推察できる。



 「何者だッ!何故、冒険者を襲わせているんだッ!?」



 俺は、そう簡単に教えてはくれないだろうと思いつつも、聞かずにはいられなかった。


 そもそもこの依頼の発端は、一ヶ月前、サルトレアの森の異変が発覚したことから始まっている。


 当初、この森の浅い場所では普段は見られないはずの魔物が見られるようになり、間を置かずしてビックボアや、ベアウルフなどの凶暴な魔物が出現し始めた。


 さらに数日後には、それらの魔物によって冒険者に多数の被害が出たことでギルドが「森に異変が生じた」として、立ち入りを制限した。


 その後高ランクの冒険者によって調査が行われたが、詳しいことは分からなかった。


 そして、そのまま何事もなく一ヶ月立ったことで、森の制限が解除された。


 しかし数日前、この森でゴブリン・ジェネラルを見かけたと言う冒険者が数人現れ、俺たちがギルド長に直接討伐の依頼をされてここまで来た。


 ジェネラルを見たと言う冒険者たちの話では、何やらゴブリンにしては上質な装備を着ていると言う情報があり、何か違和感を覚えたが・・・まさか何者かが関与していたとは。



 「フンッ、お前たちには知る由も無いことだ。ジェネラル、退け。」



 男は、吐き捨てるようにそう言うと、ジェネラルに撤退するよう命令し、そのまま背を向けた。


 男が背を向けた瞬間、ラティナさんが男を逃すまいと、素早く矢を番え撃ち放った。


 しかし、ラティナさんが放った矢は、魔法で全身を焼かれ、それを男に助けられた後、動かず命令を待っていたジェネラルが、素早く男と矢の間に入り右手に持ち続けていた両手斧で、矢を打ち払った。


 男はジェネラルが矢を防いでいる間に、すでに姿を消していた。



 「チッ、逃げられたわ。」



 男が最早いないことに、ラティナさんが軽く舌打ちをし、標的をジェネラルへと移した。


 ジェネラルは何か仕掛けてくるつもりなのか、両手斧でを上段へと構える。



 「何の・・・つもりだッ?」



 皆なジェネラルが何をするつもり何か、注意深く観察する。そして、そのことにいち早く気づいたのは魔法使いであるレオナだった。



 「・・・ッ!?みんな気をつけてッ!アイツ、自分の斧に魔力を流し始めたッ!」



 「なにッ!?じゃ・・あ、まさか・・・アイツのッ・・持ってる斧は、マジックウェポン・・・だって言うのかッ!」



 俺は体の痛みに耐えながら、誰にでもなく叫んだ。



 「たぶんッ!でも何の魔法が宿ってるか分からないッ!」



 流石に魔法学校で魔法関連の知識を修めたレオナでも、数メートル離れた距離から斧にかけられた魔法の効果は分からないようだ。


 そして皆が警戒している中、ジェネラルは魔力が溜まったのか、両手斧を地面に向かって叩きつけたッ!


 何が起こるのか皆がジェネラルの一挙一動に注視していると、突然ジェネラルの姿がスッと消えた。



 「何ッ!?」



 俺はたまらず驚きの声を上げるが、他の皆も気配から俺と同じように驚いたことはわかった。


 そして今回、先に気づいたのは、木の枝の上で見ていたラティナさんだった。


 「皆なッ、騙されないでッ!今のは自分の前に地面から壁を作って身を隠したのよッ!」



 ラティナさん以外の俺たちは、言われて気がついた。確かに改めて見ると、今の今までジェネラルが立っていた数センチ先に、地面から迫り上がってきた土の壁が、ジェネラルの姿をスッポリ覆い隠して、こちらから見えないようにしているようだ。


 そして、またも突如ジェネラルが作った土の壁が、まるで内側から爆発させたかのように粉々に吹き飛んだ。


 俺たちは、土壁が吹き飛んだことで壁であった細かい破片が俺たちの方へと飛んできた。


 俺たちはひとたまりも無く、飛んできた破片を身を捻ったり、手で防いだりする。


 唯一木の枝の上で一部始終を見ていたラティナさんが、状況を教えてくれる。



 「アイツ、自分で作った壁を内側から斧で吹き飛ばして、私たちの目潰しにしたんだわッ!ーーーッ!アイツッ、逃げたわッ!」



 どうやら、ジェネラルは主人の命令だからか、はたまた自分が不利だと判断したのか、俺たちを足止めして逃げることを選択したようだ。



 「クッ!このままじゃあアイツに逃げられるッ!ラティナさんッ!俺たちのことはいいのでッ、アイツのことを追ってくださいッ!」



 俺は、この中で唯一すぐに行動できるラティナさんに、ジェネラルの追撃を頼んだ。



 「でもっ!あなた達がッ!」



 「今アイツを逃したらッ、後で大変なことになりますッ!それに、今のアイツは全身火傷で瀕死ですッ!今がチャンスですッ!」



 「ーーーっ!?分かったわっ。」



 ラティナさんも俺が伝えたことが分かっているようで、木の上から飛び降り、すぐにジェネラルが逃げたであろう方向へと駆け出していった。



 「頼みました。ラティナさん・・・」



 俺はラティナさんがアイツのトドメをさしてくれると信じて、祈った。


 そして俺はこの数分後、思いもよらない出会いが待っていることを知った。



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