悪魔を召喚してみよう
「確か血晶玉は高位の魔力媒体として使うことが出来ましたね。それを使えばコアを作ることができるはずですよね。」
部屋の隅には机がありその上には何やら色々と置かれているようです。
近づいて見てみると、見た限りおかれているのはホムンクルスのコアとして必要な素材が色々と揃っているようです。
「こちらは龍の血ですね。・・こちらはユニコーンの角のカケラ・・こちらは世界樹の葉ですね。他にも高位の魔力媒体以外は全て揃っていますね。」
先程読んだホムンクルスについて書かれている本には、ホムンクルスの作り方や素材などについても書かれていたのでここにおかれている素材がコアに必要な物だとすぐにわかりました。几帳面にそれぞれの素材が入った容器には名称が書かれていたのですぐにわかりました。
「あとは魔力媒体だけですが、私が今持っている血晶玉はクレイジーハイボアのものでレアリティは8で品質はA+・・充分では有りそうですがここは万全を期したいですね。」
しばらく考え、そういえば自分は吸血種の中でも最高位の始祖だと言うことを思い出しました。
「私の血を使って作り出した血晶玉でコアを作れば問題なさそうですよね。」
私はそう考えると腰からジーヴィルを抜き細い針の形に変形させます。そして少し躊躇するものの指先に軽く刺します。そのまま数秒もするとジーヴィルは血のように赤くなり、それを確認すると元の形状に戻し早速血晶玉を生成するよう意識します。するとクレイジーハイボアの時よりも多い魔力がジーヴィルに吸収されていくのがわかりました。
「もしかして媒体とする血が上位のものになるとより多くの魔力を消費するんでしょうか?まあそれもまた今度確かめましょうか。」
独り言を呟いている間にもジーヴィルの穴には血晶玉が生成されていきました。
血晶玉が出来上がったので部屋の天井に設置されている照明の魔道具に照らしてみると、私の血で作った血晶玉はクレイジーハイボアの物よりも透き通っていて色合いも綺麗です。そしてクレイジーハイボアの時にはこの血晶玉からはいい匂いがしたのですが、自分の血から作られたためかそういうものは感じられません。
「色々と違うみたいですね。一応鑑定で見いましょうか。」
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【血晶玉】
Class: Material〔素材〕
Rarity: 10[Ancient〔エンシェント〕]
Quality:A+
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「おおなかなか高いですね。レアリティ10ということはアンノーンを抜いて上から三番目ですね。これなら問題ないでしょう。」
コアの作成に必要な素材は全て整ったのでジーヴィルをしまい、早速実施してみようと思います。
先ずは机の端に引かれている錬金術用の魔法陣が描かれ紙の上に素材を順番に置いていきます。どうやら錬金術は最大で五つのものを同時に合成できるようで何回か繰り返すようです。さらに高位の魔力媒体=血晶玉は最後に合成するようで、この手順は間違えないようにしないといけません。
準備が整ったので最初の合成を行います。魔法陣に手を当て魔力を流します。すると魔法陣が光り出していき、次の瞬間には魔法陣の上には綺麗な水晶玉ができていました。
慎重に素材を合成していき、最後に少し白くなった水晶玉と血晶玉を魔法陣の上に置き合成を行います。そして光が治った後には野球ボールほどの大きさの綺麗な赤い水晶玉ができていました。
鑑定を使って確認してみると・・・
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【魔導力コア】•••高位の魔力媒体を中心に様々な稀少素材を使って作られた魔導具。魔法を発動するための魔力を空気中から補給することができるため、魔法を恒常的に発動し続けることができる。
Class: MagicTool〔魔道具〕
Rarity: 11[Legend〔レジェンド〕]
Quality:S
Durability:S
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「しっかりとできているようですね。後はこれを彼女に与えて適合すればホムンクルスの完成ですね。でも・・・」
感情がないままのホムンクルスでは人形と変わり有りません。なので、できれば心を与えたいのですが、禁呪を使って心を与えるか踏み切りがつきません。
「あっでも・・そういえば転生する時アストルティア様が、種族を選ぶ際に候補の中に悪魔種を挙げていましたね。」
転生する際確かに候補の中に悪魔種がありました。でも似合わないと最初に候補から外したので深くは分からないですが。候補に挙げてくださっていたからには、アストルティア様は別にそこは否定的では無かったという事なのでしょう。
「・・行いましょう。もしアストルティア様の心持ちが良くないのであれば、明日お祈りする際に謝りましょう。」
そうと決まれば、次に私は【悪魔召喚】の使用方法が書かれた資料を探します。
ちょっと探せばすぐに見付かりました。資料は机の上に束になって置かれていた紙束の一番上に置かれていました。恐らく日記の主人もこの悪魔召喚を行なって娘さんを生き返らせようとしたんでしょう。
私は悪魔召喚に関する資料を読むと、どうやらこの召喚は至って単純なようです。先ずは悪魔召喚用の魔法陣を描き、そこに十分な魔力を流し込んで悪魔が現れれば召喚成功という事らしいです。そのあとは悪魔から取引を持ちかけられて、条件を満たせば契約を結んで願いが叶えられるようです。
「さて、交渉とはどうすればいいんでしょうか?うぅ〜ん・・・まあ実際に聞いてみればいいでしょう。」
この時の私は楽観視していました。まさかあんなのもを召喚してしまうなんて思いもよりませんでした。
私はまず魔法陣を不備がないか調べてみました。すると魔法陣の一部が霞んでいて心許なかったので、私の血で補強しておきました。
「一応この資料には魔法陣を描くための媒体として血でも問題ないと書かれているので大丈夫でしょう。」
魔法陣のチェックが終わったら次は素体となる彼女の心臓のあたりに魔導力コアを置き、彼女の手で固定します。後は魔法陣に魔力を流せば問題無く召喚されるでしょう。
私は資料に書かれた通りに魔法陣の外に出て、外側から魔法陣に触れて限界まで魔力を流し込みます。
魔力を流し込め始めると、魔法陣は赤く光りだします。光はだんだんと強くなり、魔力が完全に限界まで溜まると、次の瞬間黒いもやの様な物が空中に現れました。
「汝が私を召喚した召喚主か。」
それは男とも女とも取れる酷く中性的な声で私に問いかけ来ました。とても大きな魔力を内包した存在で、とても危険な存在だと本能が訴えかけ心臓がバクバクと早鐘を打ちます。
でもそれ以上に私の心は期待が支配して、とてもワクワクと興奮しています。
「はい、私があなたを召喚しました。私は先日生まれた吸血種の始祖、グレイシア・アル・ネヴィカーレと言います。失礼ですがあなたのお名前を教えていただけませんか?」
緊張して声が震えていないか心配ですが、しっかりと自己紹介することができて少しホッとします。
(先日この世界に生まれたことを緊張してついつい言ってしまいましたが、大丈夫でしょうか?)
少し心配しながら目の前の悪魔の言葉を待ちます。
「ほう・・・失礼、私は第二階級悪魔の一人ロシエル。汝の呼びかけに応じて来た。汝の願いはなんだ?」
「先ずは呼びかけに応じていただきありがとうございます。私の願いは・・一生の相棒が欲しいのです。」
「一生の相棒か。それはどんな物だ?具体的に教えてもらいたい。」
「具体的に言うとあなたの目の前に寝ている彼女、ホムンクルスの素体なのですが彼女に心を感情を与えて欲しいのです。」
「なるほど・・では少々その素体を見せてもらうぞ?」
「ええ何か悪さをしないのであれば、ご自由にどうぞ」
私はそう答えると悪魔ロシエルは日記の主人が作った素体の周りを漂い始めました。恐らく観察しているのだと思われます。何分ロシエルは黒いもやで構成されているので何をどうやっているのか全くわかりません。
「・・ふむ・・・なるほど・・素晴らしい・・」
ロシエルはしばらく感心した様に空中を漂い続けて満足したのか、彼女から離れてもう一度私の目の前にくる様に漂いました。
「どうですか?」
「どうやら素晴らしい素体の様だ。外から見ただけでも完全に人の肉体と変わらない様に感じられる。さらにこの魔導力コア。とても良い品質の素材で作られている様だ。・・・素晴らしい。」
ロシエルは素体に関しては絶賛している様に感じられます。
「ありがとうございます。それでは、私の願いはについては、叶えていただけますか?」
私は意を決して尋ねてみるとロシエルは考え始めた様に感じられました。
「・・・ではこう言うのはどうだろうか?」
ロシエルが提案してきたことは驚くべきことでした。
「私がその素体を依代に汝に仕えると言うのはどうだろう?これであれば取引の対価として私はこの素体を依代として手に入れることができる。汝は私と言う存在を召使として手に入れることができる。」
「それは・・・あなたは私を裏切らないのですか?この様な悪魔の取引では大抵散々利用した上で裏切るのがテンプレだと思うのですが。」
私は前世で見たアニメの中で悪魔が契約者を裏切るシーンがいくつかありました。
するとロシエルは心外そうに答えました。
「それは間違った認識だ。我々悪魔は契約には絶対遵守しなければならない物だ。もし契約したことを反故することがあれば、たとえ第一階級悪魔であろうと存在が消滅してしまう。逆に汝ら契約者が契約を反故すれば契約者の全てを持って対価を払わなければならない。悪魔の契約とはこの様な仕組みだ。」
「なるほどそうなんですね。でもそうなるとあなたの対価が依代だけだと私の願いと釣り合わないんじゃないですか?私は始祖の吸血種、寿命はほぼ永遠ですよ?」
特に私は〔不死の回復〕があるので、寿命以外の死であってもなかなか死ぬことがないです。
「問題ない。それに私も汝に仕えることも下界で生活することも興味がある。いざとなれば契約内容を変更すれば良い。」
「途中で契約が変更できるんですか?」
「双方の同意があれば可能だ。」
「・・・わかりました。この条件で契約します。」
私にとって不利益になる様なことは何も無いと思うので一度試してみましょう。
「では契約書にサインしてもらおう。」
ロシエルがそう言うと黒いもやから羊皮紙とペンが空中に現れ私の元に飛んできます。
羊皮紙には先程ロシエルが言った条件が細かく書かれてその対価に私が何をするのかもしっかりと書かれていました。
悪魔の契約書にしては普通だなと感じましたが、前世では悪いイメージしか無かったから思考が偏っているんだと思い頭の隅に追いやります。
「契約書の最後の欄に汝の名を。すでに私の名は書いてある。」
ロシエルに言われ、最後の欄を見ると確かにロシエルの名前と空欄がありました。
私は言われた通り空欄にフルネームで名前を書くと、書き終わった瞬間羊皮紙が燃え上がりました。目の前で燃えたのにもかかわらず不思議と熱さは感じませんでした。
燃え上がった後には小さな炎が空中に漂い、次の瞬間には炎は二つに分かれ一つは私の胸にもう一つはロシエルの方へ飛んでいき体の中に吸い込まれていきました。
「これで契約成立だ。」
ロシエルはそう言うと黒いもやが寝台で眠っている彼女の中に吸い込まれていき、彼女の手に持っていた魔導力コアも体の中に吸い込まれていきました。
私は急いで彼女に近づくと、そこで彼女、ロシエルは目を覚ましました。そして彼女は体を起こすと私の顔を見て・・
「おはようございます。これからよろしくお願いします、マスター。」
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