お風呂を掃除しよう
異世界に転生して2日目。その日も私は初日同様強い太陽の日差しに体を焼かれながら目を覚ました。
「うぅんっ・・・うっ・うんっ・・ふぁ〜わぁ〜あぁ・・・ここはぁ・・そうかぁ、私転生したんだっけぇ・・」
私は自分の声とは思えないほど可愛い寝ぼけ声を発しながら起き上がりました。
「今日は2日目ですねぇ〜。・・先ずはぁ、顔ぉを洗わないとぉ〜。」
私はこの時、自分の一人称が『私』となっている事には、まだ気付いていなかった。寝ぼけた頭でベットから起き上がり、扉の方へ寝ぼけて覚束ない足取りで近づき部屋を出ました。
その後私は廊下に出てすぐ右の手洗い部屋の扉を開けて中に入りますと、中には男女別々のトイレの扉があり、その前の壁には洗面台が取り付けられていました。私は洗面台に近づき水を出すために蛇口を捻りましたが、一行に水が出てこない事を不思議に思って見つめていました。しかし、そこでまだ寝ぼけていた私は何を思ったのか、無意識に水氷魔法を発動し水を目の前に生成し、その水で顔を洗っていました。そのまま顔を洗い終わると、まだはっきりと意識が覚醒していない私は、顔を洗った水を洗面台の排水口へと流し、蛇口を閉め手洗い部屋を出て行ってしまいました。自分が何をしたのか認識しないまま。
廊下に出てもう一度日の光に焼かれる事で私の意識は完全に覚醒しました。
「あれっ、私何をしていたんでしたっけ?・・あぁ、そうだ顔を洗ったんでした。・・・うん?あれ・・私いつから自分のことを『私』と言うようになったんでしょうか?」
この時私は魔法を使った事よりもとんちんかんなことを考え、完全に水を生成した魔法のことを忘れてしまったのでした。
「うぅ〜ん・・これは、精神が肉体に引っ張られているんでしょうね。まあ、仕方ないことです。男としての嘆きは昨日のうちにしておきましたし、女の子として切り替えて行きましょう!」
私はそんな能天気な事を言いながら次に何をするのか考えます。
「顔も洗った事ですし、先ずは1日の祈りからやって行きますか。」
私は、昨日入ってきた裏口から裏庭へ出ると、真っ直ぐに昨日目覚めた教会へ向けて、足を進めて行きます。
「これほど庭が荒れていると悲しくなりますね。早くどうにかしないといけませんね。」
庭は昨日も思いましたが、かなり荒れているので、自分の物になったからには、綺麗な庭にしたいと思い、早い段階で綺麗にする事を決めた。
(絶対に綺麗にして見せます!)
そんなふうに意気込んでいると、早くも教会の前に着きました。昨日と同じ扉を開けて中に進んで、アストルティア様の像の前に跪き祈りの姿勢で今日1日起こることに対して祈りを捧げました。
「よし、朝の祈りはこれでいいでしょう。次にやる事は・・・お風呂に入る事ですね!」
昨日入れなかった事を思い、早くも入れるようにしようと気合をいれて屋敷に向かって行きます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「昨日は沸騰石に魔力を流したので、今日は先ず清掃からですね。」
昨日最初に入ったお風呂部屋に着くと、私は早速掃除に取り掛かります。
「先ずは簡単に水でホコリなどを流しちゃいますか。」
そう言うと今度は魔法使うイメージを始めます。何気にこの世界には転生してから魔法を使うのはこれが初めてですね。
ーグレイシアが転生して初めての魔法は、つい先ほど顔を洗うために生成したの水の魔法なのだが、彼女は気付いていないので、これが初めての魔法の行使となるー
ここで少し魔法について説明する。基本的に魔法とは術者自身のイメージで発動させることができる。そこに魔法名や決まった詠唱などは存在せず、また必要がない。魔法は全て術者のイメージと消費魔力量によって威力・範囲などが決まる。スキルはこの威力・範囲の強化や消費魔力の削減をしてくれる補助技能である。そのため、スキルレベルによる魔法の発動制限などは存在しないが、強大な魔法の行使にはとてつもない集中力と魔力、想像力が必要であるため、常人ではスキルレベルを上げスキルの補助に頼ることが一般である。
しかし、グレイシアはそのことを感覚で理解していたが、彼女にはそんなものは関係無かった。何故なら彼女は体を魔力で形成する《吸血種》であり、さらにその中でも最上位の〈始祖〉である魔力は十分であった。そして彼女は異世界からの転生者であるため、集中力と想像力は何も問題なかった。
グレイシアは知らないことだが、この世界の住人は地球の住人に比べて想像力が弱く、実際にその現象を見なければイメージすることができないのである。そのため、この世界の住民はイメージを補助するために詠唱を使用するのである。詠唱は言葉によって魔力を自動で操作し、決められたある一定の効果を発現させることができる。これらは全て『知識と魔法の神フェルノガース』が創り管理しているシステムである。
私は先ず浴槽を綺麗にするために地球に存在した掃除の便利な機械、高圧洗浄機を想像しました。
高圧洗浄機は名前の通り空気を高圧に圧縮し、その圧縮した空気の勢いを利用して水を噴射しています。そのため、この高圧洗浄機の再現には風の力が必要であるようですが・・・
(ここは異世界、魔法で水そのものを圧縮して吹き出させれば、同じことができるはずです。)
「よし!イメージはできました。早速発動しましょう!これが私の転生後初めての魔法!」
私は魔力を操作して指先を浴槽に向け、そこから圧縮したもの水が勢い良く噴射されるのをイメージします。
すると、次の瞬間この世界の事象として魔法が発動しました。
「わぁああっ!すごい!本当に魔法が使えていますっ!」
私は初めての魔法に興奮して、指先を浴槽の至る所に向けました。
指先を向けた浴槽の壁面はホコリなどはもちろんのこと、長年放置されたことで着いた汚れもきれいに落ちていきます。
「では、このままこの部屋全体を、綺麗にしちゃいますか。」
〜数分後〜
「ふぅ〜綺麗になりましたね。これでお風呂に入れます。」
その後、私は魔法を使って掃除し続け、ついに床・壁・天井全てを綺麗に掃除し終わりました。
「それにしても、やはり大きな屋敷なだけはあります。掃除をしたら、こんなに綺麗な床や壁、天井をしているんですね。掃除してよかったです。」
流石は元貴族と思はれるやしなだけはあります。部屋の床・壁・天井に使われている石材は綺麗な研磨石を使用しており、清潔感が蘇ったようです。
「そういえば、お水はどうしていたんでしょう?先ほど、備え付けられていた蛇口を捻ってみましたが、お水は出てきませんでしたし。掃除した際に出た汚水は排水口に流れて行きましたが、処理などはどうしているんでしょうか?」
(先日も思いましたが、ここは異世界。それも森の中にあります。こんなところに下水道があるとも思えません。一度調べてみなければいけませんね。)
しばらく物思いにふけっていましたが、今はいち早くお風呂に入りたかったので、先ずは水の問題をどうにかします。
「と言っても、私の魔法でどうにかなるので、取り敢えずお水は張っておきましょう。お水を張っておけば沸騰石がお湯に変えてくれますから。その間にどうにかして調査してみましょう。」
そう言うと次はただの水を大量に放出するだけの魔法をイメージします。ですが、大量の水を想像するだけなのでそれほど時間は掛かりません。準備ができたので、魔力を魔法に変換させます。
「これは・・意外と魔力を消費しますね。それも当たり前ですか、これだけ大きな浴槽ですからね。相応のお水が必要になりますよね。」
本来であればこれほどの大きな浴槽に水を張るには通常の魔法使いが最低でも二人は必要であるが、グレイシアの魔力量であれば余裕であった。
「もう、浴槽がお水でいっぱいになりましたね。これぐらいでいいでしょう。後はこのままお湯になるのを待つだけです。さっ、この間に排水口などを調べてみますか。」
そう言ったものの、具体的に何をすればいいのか分かりません。取り敢えず排水口に近づいて見てみます。
「うぅ〜ん・・特に何も分かりませんね。何か便利な魔法か何かありませんかね。」
私は何かいい方法はないかとステータスボードを呼び寄せました。
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Name:グレイシア・アル・ネヴィカーレ
Race:《吸血種》〈始祖〉
Age:1 Sex:女
Level:1 Exp:127/10000
Blood:0/1100
Skill:
・武器系〈体術I〉
・魔法系〈闇魔法I〉〈水氷魔法II〉〈生活魔法I〉〈魔力感知I〉〈魔力操作II〉
・補助系〈暗視I〉〈鑑定I〉〈言語理解I〉〈掃除I〉
・種族系〈吸血I〉〈血液操作I〉〈眷族化I〉〈再生I〉〈霧化I〉〈血の契約I〉〈ブラッドアームズI〉〈ブラッドボックスI〉〈魔眼I〉
Ability:
・強化系〈魔力強化I〉〈生命力強化I〉〈五感強化I〉
・補助系〈魔力効率I〉〈生命力回復I〉〈魔力回復IV〉
・耐性系〈魔法耐性I〉〈光・神聖属性耐性−II〉〈日照耐性-II〉〈苦痛耐性I〉〈精神異常耐性I〉
・特殊系〈魔法の才〉〈武術の才〉
・種族系〈吸血効率I〉〈血液強化I〉〈血液保有量増加I〉
Gift:(〔不死の回復〕)〔冰血〕
Title:〔異世界の転生者〕〔五人目の始祖〕
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「これは一部のスキルのレベルが上がってますね。原因は・・まあ分かりますね。十中八九今の掃除による魔法の行使ですね。しかも新たに掃除のスキルまで手に入れてますし。」
水氷魔法、掃除のスキルは今の掃除で、魔力回復は掃除ではそれほど消費していないので恐らく昨日の蘇りの指輪とジーヴルに魔力を注いだ時でしょう。どちらも膨大な魔力を注ぎましたからね。
(それでもこの魔力回復、一気に3レベルも上がっています。何故こんなにもレベルが上がっているんでしょう?)
グレイシアは気付いていなかったが、実は、昨日の蘇りの指輪とジーヴィルに魔力を注いだ事であるが、たとえ彼女が〈始祖〉に転生したからと言って生まれた直後からあれほどの魔力を注ぎ込むなんて事はできるはずが無いのある。
では、どうして彼女があれほどの魔力を注ぎ込めたかと言うと、それは・・
〔不死の回復〕のお陰であった。
〔不死の回復〕はグレイシアがどれほど傷ついても即座に回復し、継続的なダメージであっても傷ついたそばから回復される。そして、この特性は病気や呪いであっても体に『悪』でなければ回復されない。・・が、逆に『善』でなければ健康な状態に即座に回復される。
魔力の消費は身体的に軽症であっても『悪』である。
つまり、グレイシアは〔不死の回復〕によって魔力を消費した直後から健康な状態=魔力の回復を行なっていたのである。そのため、いくら蘇りの指輪やジーヴィルに魔力を注いだとしても、なんら問題がないのである。そして魔力を消費したそばから魔力を回復していたのでスキルが驚異的に上がったのである。
(まあ、今はいいです。それよりも何かいいスキルは・・・)
私はしばらくステータスボードと睨めっこしていると、あるスキルが目に映りました。
(この種族スキルの〈霧化〉。このスキルは恐らく自分の体を霧状にするスキルですよね。これなら霧状になって排水口の先に行けますね!)
私は名案とばかりに頷きます。
「一様鑑定をかけてみましょうか。」
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〈霧化〉•••《吸血種》の固有のスキルで自分の体を霧状にしどんな小さな隙間でも通ることができる。しかし、霧の状態は魔力の霧であるため、自分以外の魔力が充満している空間ではうまく状態を維持できない。
Skill: ActiveSkill〔アクティブスキル〕
Class: Race〔種族系〕
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(やっぱり思った通りですね。これで排水口の奥を調べることができます。)
そこでふと私は思いました。『排水口なんだから細菌や病原菌、虫などがいてもおかしくないのでは』と。そう考えた途端すごく行きたくなくなってしまいました。
「うっ・・これは全く考えていませんでしたね。どうしましょうか。いっそのこと表面を全て凍らせてしまいましょうか。」
水氷魔法で排水口の筒の壁面を氷で覆ってしまえば、まだましなように思えたのですぐに実行してみました。
(壁が全て氷で覆われているイメージして・・・実行!)
すると排水口の入り口から中が見た限り全て凍らされているのを確認しました。
「取り敢えず、これでいいでしょう。早く調べてお風呂に入りましょう。」
次に目を瞑ってスキル〈霧化〉を使用して体が霧状になるようイメージします。
知るとだんだんと体の感覚が気薄になり
目を開けると体は本当に霧になっていました。
(感覚は中に浮いて漂っている感じですね。自分の意思で体を動かすことも移動することもできますね。あっ、もしかしてこの霧化、体の一部だけでもできるんじゃないでしょうか?)
そう考えたら早速試してみます。最初のイメージは人の形をした霧でしたが、次は右腕だけを霧にして胴体は人のままをイメージします。すると・・・
「できましたっ!成功です!」
そこにはイメージ通り右腕の肘から先だけが霧でできた状態でした。
「これは便利ですね。これでスキルの応用が聞くことがわかりましたし、後で他のスキルも応用できるか試しましょう。」
そしていよいよ排水口に霧状の腕を通していきます。霧状の部分は感覚が共有できるようで今どこを通っているのかが分かります。
「よし、このまま調査していきましょう。」
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次回もよろしくお願いします。