特に捻りもない水着回
海は好きだ
自分の名前の由来でもあるというのもあるけど、見ているだけで自然と心が落ち着いていく。
どこまでも続く水平線と青い空に入道雲、まさに夏といった情緒のある素晴らしい風景だと思う。
まぁ人がいなければという前提だけど。
「うわぁ…」
水着に着替え終え、荷物を持って海水浴場についた僕を出迎えたのは、一面に広がる人の波だった。
見渡す限り人、人、人だ。これでは情緒もへったくれもない。
いくら海水浴シーズンとはいえ、これはひどい。人間考えることはみんな同じであるらしい。
僕は早くもげんなりしていた。
「とはいえこうしてもいられないよなぁ」
僕はバッグから取り出したスマホを操作し、パラソルをレンタルで借りにいくことを伝えて海の家へと向かっていく。
こうまで人が多いとやはり目印は必要だ。事前にそのことは伝えており、早く着替えが終わる僕がその役を請け負っていた。男は僕一人だし、こういう気遣いくらいはしないといけないことだろう。
僕は大勢の人の間を縫うように歩き出す。ラッシュガードを羽織っているとはいえ、肌は晒しているし、下は男用の水着だ。さすがにいつぞやのように声をかけてくる男はいなかった…いたら立ち直れそうにないが。
脳裏に浮かんだ妙嫌な考えを振り切って、前をむく。サンダルから伝わる砂の感触がどこか心地よかった。
その後、無事に借り終えたところでスマホが震えた。
三人も着替えが終わったらしく、こちらに向かっているのだそうだ。
うん、それはなんとなく分かってた。だってなんか人が明らかに避けている箇所ができてるもの。
中学の時の夏休みも見たことのある光景ではあった。デジャヴを感じる。
僕が視線を向けた先は、どこかざわついた雰囲気があり、自然と空いたスペースができていた。
その場所をまっすぐ突っ切るように、こちらに歩いてくる三人の少女が見て取れる。
言うまでもなく、僕の待ち人である三人だった。
先頭を歩く渚の金色の髪は、夏の太陽を浴びて一際輝いている。
間違いなく三人の中で一番目立っているのは渚だろう。その抜群のプロポーションを見せつけるように、遠巻きに見つめてくる多くの視線に怯むことなく胸を張って歩いていた。その姿はまるで海外のファッションモデルのようだ。
綾乃に関しては我関せずとばかりに夏葉さんに話しかけているし、夏葉さんはどこかビクビクしながら下を向いて綾乃の話に相槌を打ちつつ、渚の影に隠れるように歩いていた。
さながらモーゼのように人波を割ってこちらにたどり着いた彼女達は、僕の姿を見つけると、笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「先に借りててくれてありがとね湊。で、どうよ?あたしのこの完璧なスタイルは」
ふふんと鼻を鳴らし、ポーズを取る渚は黒のビキニ姿だった。
その上に黄色い水着を重ねてあるタイプで、彼女の髪色とも相まってよく映えている。胸元でつなぎ止めているリボンが、こぼれ落ちそうなほど育っているたわわな胸を支えていた。
腰も見事にくびれており、足もスラリと長い。その白い肌にはシミの一つも見つけることができなかった。
悔しいし認めたくないが確かに文句の付け所のない体だ。意識していないのに、顔が熱くなっていくのを実感してしまう。
「あ、うん。似合ってると思うよ」
「…みーくん、私は!?」
「わ、私も頑張ったんですよ湊くん!」
「ふ、二人の水着もすごく似合ってるよ…」
そういって僕に迫る綾乃と夏葉さん。二人とも、僕と一緒に買いに行った水着を着用している。
綾乃は青のビキニタイプ。近くでみると結構際どいデザインだ。各所を細い紐で繋ぎ留め、二人よりも肌の露出が多い。年相応の健康的な体つきで、このまま雑誌の表紙を飾ってもおかしくはないだろう。
視線がつい谷間へといってしまうしまうほどには、男性を刺激するものを持っていた。
対する夏葉さんは白いフレアタイプで、腰にパレオを巻いた、二人に比べると露出の少ない水着だった。それでもその胸の大きさを隠しきれておらず、水着を押し上げる迫力が充分ある。
肌も白くほっそりとしており、守ってあげたくなるような儚さがある。一人でこの砂浜を歩いていたら、確実に男が群がってくることだろう。
二人のスタイルも決して渚に劣らない。三人とも僕からしてみれば、とても魅力的な美少女だった。
というかこうして見ると、みんなでかい。綾乃は渚を比較対象にしているため、密かに気にしているらしいが充分すぎるほどの大きさを持っている。渚が大きすぎるだけだ。この光景は正直健全な高校生には目に毒だった。
「二人ともってなに!私のことちゃんと褒めてよ!」
「そうですよ湊くん!霧島さんなんかとまとめて褒められても全然嬉しくありません!」
「…なんかってどういう意味かな?」
「そのままの意味ですが。この泥棒猫」
「ご、ごめん。綾乃は綺麗だし、夏葉さんはかわいいよ。だから落ち着いて…」
女心は複雑らしい。まとめて褒めるのは失敗だったようだ。また二人はいがみ合い始める。電車の時の二の舞だ。ただでさえ人目を引くというのに、そこら中から好奇の視線が集中している。
…ただある意味では助かった。あれ以上近寄られたら、いろんな意味で危なかったかもしれない。
なんとか意識しないように努めないと…などと決意をしたものの、それはすぐに崩れ去ることになる。もみ合う二人の間からこっそり渚が割り込んできたのだ。さりげなく僕の前に移動してくる。
「いやー久しぶりに湊の体見たけど…成長したねぇ、渚さんは嬉しい限りだよ」
「うひゃっ!」
そういって渚は僕の胸をつーとなぞった。
僕は上にパーカータイプのラッシュガードを羽織っていたが、無防備な胸元をいきなり触られ変な声がでてしまう。そのせいで今度は視線が僕に集まり、変な注目を浴びてしまった。は、恥ずかしい…!
「渚、なにするんだよ!」
「あはは、ごめんごめん。でも湊って感度いいんだねー、いいこと知ったよ」
「あ、渚ちゃんずるい!私もみーくんのこと触る!」
「わ、わたしも触ります!」
渚が妙なことをしたせいで、今度は二人が妙な対抗心を燃やしてしまう。
またもや迫り来る二人をかわしつつ、僕らは砂浜を移動していくのだった。
…渚が相変わらず愉快そうな顔をしているのには腹が立ったが。
長らく間を開けてしまい、申し訳ありません
再開します
メリークリスマスです