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いつも一緒だったのに。  作者: くろねこどらごん
第一部 一学期
16/62

相談 そしてハジマリ

僕と佐々木さんがデートした翌日、僕は健人と一緒に駅近くの喫茶店にいた。

健人には佐々木さんの件で世話になったし、なにより高校でできた初めての友人である。

相談があるというのならできるだけのってあげたかった。


―たとえそれがどんなものだとしても


「今日は俺が奢るよ」


案内された席に座ると、健人は僕にメニューを渡してくる。

受け取りつつ彼の顔色を伺うと、どこか緊張しているように見えた。


僕はパフェとクリームソーダを注文することにした。

店内はレトロな雰囲気の漂う昔ながらの喫茶店といった感じで、こういうところでは素直にコーヒーでも頼むべきなのかもしれないが、僕は幼馴染の影響もあり、単純に甘いスイーツが好きなのだ。

奢りというのなら遠慮することもないだろう。

注文が決まったことを伝えると、健人は店員さんに声をかけた。


「カフェオレひとつ」


「僕はチョコレートパフェとクリームソーダで」


かしこまりました、とメモを取った女性の店員さんは笑顔でカウンターへ戻っていった。

僕を見る健人の顔はどこか呆れているようだ。

…これで緊張も多少は取れただろう。


「お前容赦ないな…千円飛んだぞ。小遣い貰ったばっかだからいいけどさ」


「まぁ奢るって言われたしね。それで相談ってなんなのさ」


僕が言うと健人は露骨にキョドり始めた。目が泳ぎまくっている。

…普通の相談ではないんだろうな。内心分かっていたことだったが、僕は改めて覚悟を決めた。


「あ、あのさ…湊にこういう相談するのは駄目だって分かってたんだけど…俺、綾乃ちゃんのこと、好きなんだ」



――やっぱり、そういうことか



僕が付き合い始めてから、健人が綾乃のことを目で追うようになっていたことに、気付いていた。

それでも気のせいだと思うようにしていたのだが、どうやら思っていたより彼は思いつめていたらしい。

あるいは友人二人が既に彼女持ちであるという事実が、健人を焦らせ、想いを加速させたのかもしれない。


「…そうなんだ。いつから?」


「…入学してすぐ。一緒のクラスになってから。正直、滅茶苦茶好みのタイプだった。しかも話してみたらすげーいい子だし、ますますいいなって思った。でもお前がいつも近くにいるから無理だなって思ったんだよ。だけどお前は佐々木と付き合い始めたから…」


「なるほど、他の誰かと付き合わないかと焦ったと」


コクリと健人は頷く。つまりはそういうことなんだろう。

圭吾も以前言っていたが、僕はあの二人の風除けの役割をしていたらしい。別に意識していたわけではなかったが、教室ではともかく登下校では常に一緒だったのだ。


二人は入学してすぐの頃はよく告白されていたが、それらを断っていたのは僕がいるからだと噂になっていたのだそうだ。


そんな僕が全く関わりのない他クラスの女子と付き合い始めた話は既に広まっている。チャンスだと思う男子が増えてもおかしくないだろう。


「お前は部活終わったらさっさと佐々木と一緒に帰ってるから知らないだろうけど、部室じゃ残った先輩とだべってる時、学校のうわさ話とかいろいろ聞いてるんだよ。先輩の中にも綾乃ちゃんのこと気になってるって人いるし、サッカー部のキャプテンやバスケ部のやつも綾乃ちゃんにアタックかけようとしてるって噂あるんだってさ。それで最近彼女と喧嘩したって話聞いたし、それ聞いたら俺、いてもたってもいられなくって…」


「それで僕に相談してきたってわけか」


納得した僕に向かって健人が頭を下げてくる。


「頼む!湊だって付き合い始めたばっかでいろいろ大変なのはわかるんだけど、お前くらいしか綾乃ちゃんと繋がりないんだよ。本当に悪いんだけど、なんとかなんないかな…」


すがるような声で健人は言った。

…なんとか、か。それでどうにかなったら世の草食系男子は絶滅することだろう。


随分な無茶ぶりだ。あの二人が付き合うという展開は正直僕の望んでいることなので個人的に歓迎なのだが、健人は僕の友人である。

離れていくことを願っているというのに、この二人がくっつくとなると、結局綾乃は僕の近くにいたままだ。これでは意味がないのだ。



…だけど、健人には恩がある。彼は佐々木さんとの橋渡しをしてもらったのだ。

性格だって悪くない。彼の頼みを断ることは、できなかった。

僕は思わずため息をつく。人生っていうのは、ままならない。


「わかったよ、とりあえずさり気なく話はしてみる。でも結局は綾乃次第なんだから、期待しないでくれよ」


「おお、ありがとう!本当に助かるよ!」


そう言いながら健人は僕の手を掴み、思い切り握ってきた。

感謝を示しているつもりなのかもしれないが普通に痛い。っていうか握力強いぞこいつ。泣きたいのはこっちなんだが。


嬉し泣きしている友人から強引に手を引き剥がし、手をプラプラさせてると、注文していた料理がやってきた。

どうも話が終わるタイミングを伺っていたらしい。気が利くお店だと思ったが、店員さんの目は明らかに興味津々ですと語っていた。女の人は本当にコイバナが好きなんだなぁ。


「さぁいくらでも食べてくれ。なんならこのあと寿司でもいくか?」


調子いいなこいつ。僕はまだ一口も食べてないぞ。というかさっき期待しないで欲しいと言ったばかりなんだが。


僕は内心うんざりしながら、喋り続ける友人を尻目に今後のことを考えながらチョコレートパフェを口にした。うん、甘くて美味しい。


…さて、どうしようか。







プルルルと電子音がスマホから響く。今回の件は一人ではおそらく無理だと判断した僕は、一人の人物に協力を求めることにした。


僕のもう一人の幼馴染であり綾乃の親友、月島渚にだ。


女の子のことはやはり女の子に聞くに限るし、最悪アドバイスだけでももらえたらありがたいという、打算的な考えからだった。

僕がいる時は少なくとも二人は恋愛話をしたことがなかったはずだし、恥ずかしながら僕は二人の好みのタイプも知らない。

いつも一緒だったのに、聞こうという気もしなかった。



違う、僕が拒絶してたのだ



「はいはい、もしもーし湊ー?」


渚の声が聞こえてきて僕はハッとする。電話が繋がったらしい。僕は慌てて電話に出た。


「あ、ごめん渚。ちょっと話したいことあってさ」


「ん?なになに、湊はもう寂しくなっちゃったの?佐々木さんいるのにいけないんだー」


「佐々木さんとは昨日デートしたばかりだから大丈夫だよ。それより、渚に相談したいことがあってさ」


そう言って僕は渚に今日の健人との話を伝えた。ときおり相槌を打ちながら、彼女は最後まで僕の話を静かに聞いてくれていた。


「なるほど、前原くんがねぇ。意外といえば意外だけどこれが若さってやつか。まぁ悪くないんじゃない。湊の友達なら悪い子じゃないんだろうしね」


「うん、それでどうしたらいいかな。なんでもいいからアドバイスが欲しいんだけど」


僕からの懇願に、渚はうーん、と少しの間唸っていると


「まぁあたしのほうからもそれとなく聞いてみるよ。あとは湊が前原くんのことを綾乃にアピールするのが1番いいんじゃないかな」


「助かるよ。でもそんなんでいいの?もっとこうさ…」


「焦っちゃ駄目だよ。がっつく男の子は嫌われるんだから。特に綾乃って大人しい子なんだし。そこは湊も分かってるでしょ?」


「…わかったよ」


まぁ渚が言うならそうなのだろう。アドバイスをもらえただけでも上出来なのだ。

最悪、親友を売れるかと怒られることまで覚悟していた。


「大丈夫大丈夫。あの子は湊のいうことなら素直に聞くんだから。ま、頑張りなさいな。あ、でも成功してもダブルデートの時は呼ばないでね。あたし泣いちゃうから」


「そこはちゃんと空気読むよ…」


笑って答えた渚にありがとうと伝えて、僕は通話を切った。


アピールねぇ。

それが難しいんだけど。朝の登校でさりげなく話題を振ってみるとか?うーん…


その日、僕は寝るまでこのことで頭を悩ませていた。








通話が終わったスマホの画面を、あたしは少しの間見つめていた。


「心配しなくても上手くいくよ、綾乃は湊の言うことならなんでも聞くんだから。そう、なんでもね」


湊のほうからこういう話を持ってきてくれて正直助かった。

綾乃はまっすぐだけどいろいろ鈍い子だから、こういう荒療治も必要なことだろう。


自分で自覚して始めて分かることもある。


「前原くんにはちょっと悪いことするかもなぁ」


まぁあんな可愛くて素直な子と、わずかな間だけでも付き合えるのだ。

彼みたいな子にとってそれだけでも充分役得というものだろう。


「恨むなら君の生まれが主人公でなかった不幸を恨むがいい…なーんてね」


あたし達三人の世界の中に、彼の居場所はない。


さて、どちらが早いかなと思いながらあたしはお風呂へ入るべく、階段を下りていった。




…最近ちょっとキツいんだよなぁ。新しいブラ、買おうかな

ブクマありがとうございます

10万PVいってました嬉しいけど怖いです

いろいろ構想考えるの楽しいですいろいろ書きたい

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲスい展開大好きです。 綾乃が病んでしまうのか!?
[一言] これは渚も虎視眈々と狙っている...! 続きを楽しみにお待ちしております。
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