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いつも一緒だったのに。  作者: くろねこどらごん
第一部 一学期
11/62

オサナナジミ

ようやく書けました

後半は渚視点です

僕は軽くノックをしてから、ドアノブを回した。

自分の部屋とはいえ、今この中にいるのは女の子だ。こういうマナーは大事である。ドアを押している最中に入ってますよー、なんて声が聞こえてくる。


ベタだなぁと思いながら、部屋に足を踏み入れる。エアコンは起動してるらしく、廊下よりも中は暖かかった。


「入ってるって言ったのにー」


不満そうに言いながらも視線は開いている単行本のページに釘付けで、こちらなど見ていないのが丸わかりだ。僕のベッドの上で仰向けになりながら、渚は漫画を読み続けていた。

堂々と足まで組んでいる。いつものことながら、リラックスしすぎじゃないだろうか。



上着のジッパーも下ろしており、下に着ていた白いロゴ入りのシャツが見えていた。

薄いシャツは彼女の体に張り付くようにぴったりとくっついており、豊かな双丘が呼吸と連動するようにゆっくり上下するのが分かってしまう。

僕は思わず目をそらした。


「ちゃんとノックはしたから」


「まぁ湊だから許すよ、感謝してね」


はいはい、と生返事をしながら、僕はベッド横に配置しているテーブルの上にトレイを置いた。

カシャン、と食器が擦れる音を聴いて、渚はようやくこちらを向いた。


「じゃあ、感謝の印にこれをあげるよ。ココアここに置いておくから」


そう言いながら、僕はベッドに近いほうのテーブルの隅にコップを置いた。渚が体を起こし、コップに手を伸ばした。


「ありがと。やっぱり湊って気が利くよね。気配りができる男はモテるって聞くよ。ってもうモテてたかー」


彼女いるもんねー、と笑いながらコップに口を付けた。渚は猫舌のため、飲むペースは比較的ゆっくりだ。

少し飲んだところでコップから口を離し、ほぅ、と息を吐いた。

その仕草が何故か、妙に色っぽく感じてしまう。渚、なのに。


「美味しー!湊はあたしの好み分かってるよね。ちょうどいいよ、この甘さ」


「それはどうも」


僕は答えながら、着ていたブレザーをハンガーにかけていた。そのままネクタイも外し、Yシャツも脱いでいく。下はそのままだ。


…ちなみに僕は露出狂ってわけではない。幼馴染二人には幼い頃から散々着せ替え人形にされてきたため、今さら彼女達の前で服を脱ぐことに抵抗がないだけである。人並の羞恥心はちゃんとあるし、下にはTシャツも着ていた。何も問題はない。

タンスからカーディガンを取り出し羽織っていると、気付いたら渚がすぐ近くにいた。

音もたてずに近づいてくるとは、忍者の素質でもありそうだ。


「どうしたの?」


「んー、湊も大きくなったなと思ってさ。」


そう言いながら、自分の頭に手をあて、僕との身長差を比べ始めた。

僕の身長は170に少し届かないくらいだが、渚も身長も女子としては高く、僕と目線はほとんど変わらない。それでも、いつの間にか渚の身長を抜いていたという事実が、妙に嬉しかった。


「そうかな、確かに少し伸びたとは思うけど」


「うん、大きくなったよ。中学の頃はみんな変わらないくらいだったのにね」


やっぱり男の子なんだね、と呟く渚の瞳は、どこか寂しそうに見えた。


…辞めてほしい。渚にはそんな顔は、似合わない。

何故か妙な苛立ちを覚えた僕は、反射的に口を開いていた。そんなつもりは、なかったのに。


「…高校生になったんだから、そりゃ変わるよ。環境だって変わったんだし、違いだってでてくるって」


「そうだね、湊にも彼女できちゃうくらいだもんね」


あはは、と渚は笑った。

…やっぱり渚は笑っているほうがいい。そう思った。


「で、実際どうなの?上手くいきそう?」


「あ、多分。佐々木さんはいい子だし、なんとかやっていけると、思う」


…さっきの顔は気のせいだったのだろうか。隙をみせたらグイグイと迫ってくるいつも通りの渚の姿だ。


根掘り葉掘り聞いてこようとする幼馴染をいなしながら、ラーメン伸びてないといいなぁ、などと、諦め半分で考えていた。






「ほんとに送ってかなくていいの?大丈夫?」


「大丈夫だって。5分もかからないんだし。湊は彼女さんとちゃんと連絡取らないと駄目だよー」


心配して送っていこうとする湊のエスコートを丁重にお断りしながら、あたしはスニーカーの紐を締めていた。立ち上がり、トントンと靴のつま先で床を叩く。


右手には湊に質問攻めしてしまったことで最後まで読むことのできなかったラブコメ本と、数冊の漫画を詰めた手さげ袋を持っている。


頼み込んで貸してもらったのだ。さすがに嫌そうな顔をしていたが、頼み込めば最終的に折れることをあたしは長年の経験から知っていた。なんだかんだ、湊はチョロいと思う。



玄関を開けお邪魔しました、と挨拶して門を出るが、玄関先から覗いている湊の顔はまだ不安げだった。

…心配性だなぁ。そういう優しいところが、いいとこなんだけど


あたしが笑顔を向けてじゃあねー、と手を振ると、ようやく納得したのか、また明日、と呟いて湊は玄関を締めた。カチャリ、と施錠する音が静かに響く。


「湊くんはいい子だにゃー」


そう言いながら私は家のほうへと足を向けた。自然と鼻歌まで歌ってしまうくらいには、今のあたしは上機嫌である。湊の家まで足を運んだ甲斐はあった。


視線を上に向けると、綺麗なお月様がまん丸に輝いている。うん、今日はいい夜だ。

そのまま目線を下げ、綾乃の家を見る。二階にある彼女の部屋には、まだ電気がついていた。

あたしが湊の家を出た時には23時を過ぎていた。いつも22時には寝床につく彼女にしては、随分な夜更かしだ。まだ眠れないでいるのだろう。


昨日もチャットを介して綾乃の話に、日付が変わるまで付き合っていた。




きっと、不安なのだ

私達三人の関係が、崩れていくことが


「心配なんてしなくていいのにね」


思わず顔に笑みが浮かんだ。ちょうどさっきまで読んでいたラブコメでは、いろんな女の子の間でフラフラする主人公に対して、幼馴染のヤンデレヒロインがあなたを殺して私も死ぬと、刀を振り回しながら迫っているシーンがあった。


あたしにはとてもそんな度胸はない。好きな相手に刃物を向けるなんて絶対無理だし、あの女の匂いがする、なんて言えるほど鼻も良くない。むしろ先日まで花粉症で大変だったくらいだ。



そもそもあんなことをするのは自分に自信がないことと、相手を信じきれていないことが大きな理由だ。

好きな相手を振り向かせる自信がないから過激な行動で相手の気を強引に引こうとする、一種の逃避行動である。あたしはそんなことはしない。


収穫はあった。湊は大きなビニール袋を持って、普通に買い物をして帰ってきたのだ。

初めてのデート帰りの行動としては随分と冷静だ。

顔も付き合い始めた男子が見せるような喜びの表情ではなく、どこか疲れているように感じた。



湊は昔から取り繕うのが上手い。いじめられていた時も、決してあたし達に悟られないように巧妙に本心を隠していた。私達が気付けたのも、いじめていた相手がヘマをしたからだ。


探るなら相手が無防備の時に限る。あたしが待っていたことに気付けなかった湊は、隠しきることができなかった。連絡を入れてから向かっていたら、上手く対応されていたことだろう。




湊は好きという感情があったわけでもないのに、佐々木さんと付き合うことを選んだのだ。

それを今日、ハッキリ確認した。大きな収穫だった。

そもそも告白されてすぐに付き合うなど、湊の性格からしたら絶対にない。付き合う相手は選ぶ子だ。

唯一警戒していた一目惚れという線も、あの表情を見た瞬間に消えていた。



なら、何故彼女を作ることを選んだのか。その答えは、もう分かっている。




湊は、あたし達から離れたかったのだ




そういう感情を抱いていることを、あたしは薄々気付いていた。

きっと綾乃は気付いていなかっただろうけど。あの子はまっすぐな性格だから、疑うこともしなかっただろう。

私達三人が、ずっと一緒にいられることを。




でも、あたしは知っている。人は、間違うのだ。




どんなにいい人でも、どんなに相手を好きでいようとも、

人間である以上、必ず間違いを犯す。完璧に理解しあえるなんてことは、ありえない


間違いを積み重ねて、人は大人になる。その積み重ねの中で、お互いの距離感を探り合い、妥協し合って、誰かと一緒にいることを選ぶのだ


あの二人も、必ず間違う。初めての恋愛、そして片方が本当は相手のことを好きでないのなら、なおさらだ。


だから、あたしが選ぶ道は一つだ。




ただ、待てばいい




関係にひびが入る時を、ただ待てばいいのだ。自分から焦って動く必要なんてどこにもない。湊は普段はチョロいけど、本当に譲れないことに関しては頑固なところがある。ちょっかいを出したら、かえって意固地になるだけだろう。



ファーストキスも佐々木さんとすればいい

なんならセックスだって歓迎だ



経験を重ねた湊なら、今よりもっといい男になるだろう。まぁ、湊から手を出すことは、天地がひっくり返ってもないだろうけど。

佐々木さんに迫られて、動揺する湊を思い浮かべ、思わず笑ってしまう。


でも佐々木さんから動くこともなさそうかなぁ。幸子に会いにいく名目で、昼休みに見に行ったけど、湊に負けず劣らず初心そうな子だったし。あ、おっぱいは結構大きかった。綾乃よりも。

だけど、ああいう子は開き直ると分からない。一応覚悟だけはしておこう。




そんなことを考えていると、あっという間に家に着いた。

玄関の鍵を開け、寝室を横切りながら、寝ているお母さんを起こさないよう、あたしは静かに階段を昇っていく。

尊敬する漫画のキャラクターも言っていた。

誰を愛そうが、どんなに汚れようが、最後に自分の隣にいればそれでいいと。



そうだ。過程なんて、どうでもいいんだ。

湊が誰と付き合おうが、構わない。



「最後にあたし達が湊の隣にいれば、それでいいんだ」



そう呟いて、あたしは自分の部屋のドアを開けた。

そうなれば、あたし達はずっと一緒にいられるのだから。

1000Ptいきました、ありがとうございます

ブクマもありがとうございます

ヤンデレタグつけなかった理由がこれです。渚さんは冷静な子

自分はヤンデレ好きです


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[良い点] 渚ちゃん強い…
[良い点] ラオウの名言や……
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