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廃都へ

 そうして俺は村々で泊まり、時には野宿をしながらも一週間かけてクシュー廃都の目の前にある都市、カノン市までやってきた。


 「流石に大きいな……」


 カノン市は、外周四キロ程あり、クシュー廃都を一目見ようと集まる富裕層向けに発展した宿場町である。レンガの壁が周りをぐるりと囲み、入るための門には常に人で溢れかなり活気のある町となっているのが分かる。


 今、俺は馬車に乗りながらカノンに入るための列に並んでいた。門では犯罪歴や職業を調べられもし問題があればその場で追い返される。


 そして俺は勇者などという職業では珍しさ等からパニックが起こりかねないため名目上は騎士団員として活動し、俺の功績は一般人には勇者とは伝えられないが、各国の上層部で勇者の活躍と伝えられる事となる。これはココと俺との性別の違いをカバーする為の作戦という意味も持っている。


 「次!」


 おっ、遂に俺の番になったか。列に並び始めてから約一時間程過ぎてようやく入れるようだ。職業を聞かれたのでユーリにもらった騎士団のエンブレムを見せる。


 「騎士団の方でしたか、よくお越しくださいました。後程警備隊の詰所の方にお越しくださいませ、王都の方から早馬で貴方への伝令を受け取っております」


 そう門番に言われてカノンへと入るのが許可された。伝令って多分ユーリだよな、一体何なのだろうかと胸に一抹の不安を抱えながらも華やかな通りに足を踏み入れる。


 「えっと、宿はどこかなーっと」


 大通りにいてもスシ詰め状態で宿を探すどころか人に聞くのもままならなかったので横道に逸れてブラブラと宿を探していると……おっ、あった。


 丁度いい所に宿屋を発見、どうも冒険者用の安宿らしく酒場も併設されているその宿はお世辞にも綺麗とは言えないが、荒くれ者ならではの活気に満ち溢れていた。


 「部屋はどうしますか?」


 チェックインしようと思ったら目線よりかなり下から声がかかる。そこにはまだ十二歳のほどの少女が俺を見上げていた。従業員……なのか?


 「この子らはな、裏の教会のシスターが持っとる孤児院の子供でここで従業員として働いてんのさ」


 俺が困惑していると後ろから声がかかる。振り向くとはち切れんばかりの筋肉が目に入る。一瞬騎士団の悪夢を思い出し目眩がしたが、余りにも失礼だと思い直し表情には出さずに乗り切る。


 「つまりここは子供が働いていると?」


 「あんたは初めてだから困惑するだろうがここは()()()()働いてないのさ、無論問題がないかシスターや司祭が見に来る事はあるがな、言い忘れてたな、俺はダムス。冒険者をやってるもんだ」


 よろしくと出された手を取り敢えず握り返す。なるほど、ここは孤児の働き口となっているのか、珍しいシステムだが効率的ではあるが……


 「だが安全面は大丈夫なのか?」


 「それは俺ら冒険者が見てるからな、よっぽどの事が無い限りは大丈夫さ、それにもし何かあったら俺らがしばかれるからな」


 おっかねぇぞあのシスター、そう続けてダムスは酒場へと去っていった。


 「あの、お部屋……」


 「あぁ、ごめんね、一人用の部屋を一週間頼むよ」


 少女が若干困った表情をして聞いてくる。悪気は無かったが無視する形になってしまった。


 一晩で銅貨三枚か、因みにこの国の貨幣制度は銅貨、銀貨、金貨に別れており銅貨百枚が銀貨一枚、銀貨十枚が金貨一枚と非常にシンプルになっている。


 俺は謝りながらローブから財布を出し宿代の銅貨二十一枚にチップとして三枚渡す。


 「ありがとう!」


 枚数を数えた途端に少女の顔に笑顔が咲きパタパタと裏へ入り鍵を渡してくれた。周りを見ると酒場にいたおっさんらも微笑ましい物を見る目で見ていた。


 そうして荷物を部屋で整理した後警備隊の詰所へと向かう。


 「アレンさん、で間違いないですかな?」


 「えぇ、あなたは?」


 「失礼、私はジーンと申す者でここの隊長をしております」


 詰所に着くと初老の男性、ジーンが出迎えてくれた。彼によるとクシュー廃都への立ち入りは特別な許可が必要でその為の札を渡すと共にユーリからの手紙を渡すために呼んだという。


 「これが札でございます。そして手紙の方なのですが……大変でございますなぁ」


 ……まさか


 その手紙を受け取ると次は東のマウナ市に新しく出来たダンジョンの攻略をしろ。とだけ書いていた。あんにゃろう……


 まぁ、いつまでカノンで燻っていてもしょうがないので魔石のストックの確認だけして廃都へと向かった。




 「はい、札を確認しました。では、お気を付けて……」


 そう廃都の崩れかけの城壁で駐屯していた兵に可哀想なものを見る目で送り出され廃都へと入る。もう既に夜になっているが満月が出ているため視界には困らない。


 「ここが帰らずの都かぁ」


 廃屋だらけの通りを一人歩く、そこには魔物一匹すらおらずただ低木や苔が所々で息をしているだけの本当の死んだ街。そこには何も無いからこその不気味さに溢れており、映画の中にいるような不思議な感覚でありながら極度の緊張感から何もいないと分かっていても物陰に警戒心を隠せない。


 クシュー廃都は実の所、中心にそびえ立つクシュー城以外は危険性が無い事は判明している。だが、城の中に入った途端、誰一人として帰ってくることはなかった。あの二百年前にあった前王朝の名残であるクシュー城に何かある事は確かで、非業の死を遂げた王の呪いだのと様々な噂が囁かれている。


 「さて、それじゃあ逝ってくるとしますかね」


 そう一人軽口を叩き崩れ落ちた城門から中へ入る。ふと後ろを振り向くと、先程まで明るかったのに今はまるでナニカに飲み込まれたように漆黒が辺りを包んでいる。


 今、満月は雲に隠れた。


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