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切り札

 そこから一ヶ月地獄のような訓練が待っていた。


 馬車に乗りレーナ帝国へと向かった俺は騎士団の訓練所にて訓練を行うこととなったのだがユーリに


「死ぬまで戦えそして死ね」


 とだけ言われて訓練所にほっぽり出されたら周囲にはムキムキマッチョの騎士団員達が……


 そこからはもう戦って戦って体を鍛えての繰り返し、しかも度々野郎共に(性的に)襲われかけるというイベント付きで。勿論死守したが、どうやら俺は鍛えても筋肉が盛り上がることは無く比較的華奢な体付きだった為受けとして最適だったようだ。


 そう、騎士団には男色が蔓延っていたのだった!


 夜に起きて厠に向かうと、木の影でムキムキマッチョマンが二人濃密なキスを交わしているのを見て下からではなく上からモノが噴出したのはトラウマだった……


 そうして漸く騎士団での訓練が終わったと思ったら今度は魔術師団へと向かう事となり魔術による身体の強化、そして俺の使う魔術の特訓をした。こっちは平和で良かった。本当に良かった……


 魔術師団では魔術が切れた時に起こるラグを縮める特訓やとある切り札の練習をした。何度か訓練所を爆発させたのはいい思い出だ。その度に修繕費が俺の名義で借金として貯まっているなんて知らなかったが。


 そして一月後俺は莫大な修繕費を払うためにも頑張れ、とユーリに言われて勇者代理として働く事となったのだった。


 因みにココは勇者と言ってしまった手前村には残せないので子爵の階級を偽装し学院へと年齢的にもちょうど良かったため入学させることとなった。面会は出来ないがユーリが言うにはよくやっているらしい。そして入学費諸々もツケで俺の借金だ。


 勇者代理として働く筈なのに借金返済の為に働くって趣旨変わってないか?まぁ、これ以外選択肢がなかったのは事実だからしょうがないけどさ!


「蛮族の討伐に向かうぞ」


 全ての訓練が終わり出立の準備をするように言われ、準備をしていたら唐突にユーリに腕を引かれ馬車に乗せられた。


「蛮族って、急すぎやしないか?」


「西方の遊牧民がこちら側に攻めてきた。王国が救援を要請しているから恩を売るためにも騎士団に出動要請が出た。お前は蛮族討伐に参加した後にクシュー廃都へ向かえ」


 待て待て、クシュー廃都だって?初の勇者としての任務はどうやら土に還れらしい。


 クシュー廃都、王国の南方にある範囲十キロもあるかつて王都だった場所、今は帰らずの都と呼ばれる一流の冒険者でも近づかないこの世の危険地帯の代名詞となっている。その訳としては帰ってこないのだ。調査に行った冒険者、軍の兵士、誰一人としてクシュー廃都へと向かって帰ってきたものはいない、しかも理由は不明と来た。


「いきなり殺す気かよ!?いくら何でもクシュー廃都って……」


「……本当に申し訳ない」


 あのユーリが謝った……だと!どうにも教皇直々の命令らしく断れなかったらしい。そこは断ってくれよ、と思わないでもないが教皇いわく


「勇者代理として認められたいならそれくらいはやらないと何もかも手遅れになりますよ、時間も、大切なものも」


 と言われたらしい。


 実際勇者が誕生してから一ヶ月、何も音沙汰無いことに周辺の国々は若干の不審感を持ち始めているらしい。そして使えないと判断された勇者は王国へと嫁ぎ次代に託す。という結末になるため功績を打ち立て勇者は有用であることを示さなければココは国王に嫁がされる。玉の輿かと思わなくもないが今代の国王は使い物にならないブクブクに超え太った豚らしい。


「豚には価値はなくても豚肉には使い道があります」


 そう教皇が仰った為騎士団も王国の要請は無下には出来ないという、流石信仰心が無いのに教皇まで成り上がった切れ者、言うことが違う……


 そうこうしている内に王国へと着き、王国軍と合流して西方の辺境伯領へと向かった。あまり遠くにある訳でもないのに一日もかかった。流石王国軍、三万もいるため動くのだけでも一苦労だ。そうして接触予定地で待機していると物凄い雄叫びと共に遊牧民達が馬に乗りながら物凄い速さで駆けてきた。


「魔術師、放て!!」


 王国軍の将軍の命令で一斉に様々な色の魔術が放たれる。流れ星みたいで綺麗だなぁと後方待機していたので見ていると着弾、土煙が辺り一体を覆う。これじゃあどうなったのか分からないな


「ほう、やるな」


「ユーリ、急にどうしたんだ?」


「見てみろ、損害は殆ど無いぞ」


 望遠鏡を渡してきたので見てみたところ先程と殆ど変わらない数の遊牧民が駆けている。どういうことだ?確かに魔術は着弾したはず。


「奴ら、防衛魔術の使える者を先頭に置くことで被害を減らしたな、とは言え敵は馬に乗っているとはいえ五千、負けることは無いだろうがな」


 そうして遂に先頭集団と遊牧民が衝突した。悲鳴と怒号、血飛沫が舞う。馬の有利で1部は中央まで侵入したが呆気なく槍で突き殺される。馬から落ちた遊牧民を槍で滅多刺しにしている王国兵を別の遊牧民が剣で首を刎ねる。


「俺達も行かないと」


 流石に見ていられない。別に正義感ではないが戦っている中自分達だけ安全圏にいるのももどかしい


「いいや、行くな余計な死者が増えるだけだぞ」


 ユーリから声が掛かる。駆け出そうとしていた俺の腕を引く。


「お前は並大抵の奴らより強い、少なくともあの程度では傷一つ負わないだろう。だがお前が前に出て活躍すると他の兵士が死ぬことはなく死にかけても彼が助けてくれるという慢心をする。その心の緩みは致命的なミスを生む。だから我々騎士団は後ろにいて兵士に後ろを気にしなくて良いという安心感を与えなければならない。分かったな?まぁ、余程強い敵が来た場合は例外だがな」


「……了解」


 頭が冷えていく。目の前の地獄のような光景を見ているだけなのも辛いが皆だってそうなのだろう。現に後方部隊では沈痛な雰囲気が漂っていた。


「「オオオオオオオォォォォォ!」」


 唐突に脳を揺らすような叫び声が戦場を支配する。何事かとその方を見ると二メートル半はありそうな二人が兵士の槍などものともせずに突っ込んできていた。


 腕の一振で周辺の兵士が吹き飛ぶ。吹き飛ばされた肉片が後衛まで飛んでくる。先程まで拮抗していた戦線が崩れる。戦場は兵士の悲鳴で満たされる。更に勢いづいた遊牧民は勢いを増し前線は崩壊した。


「下がれぇ!」「嫌だ嫌だ!」「殺せぇ!あっ、クペッ」「止めろ!止めてくれ!!」


 ユーリから乾いた舌打ちがした。


「ここぞという時に最高戦力を投入してきたか……おい、アレン!お前は左側を殺れ、私が右を殺る。他の騎士団は後ろからの奇襲に備え待機しろ!」


 ユーリの命令で騎士団が遂に動き出す。逃げ惑う兵士の合間を縫いながらすれ違いざまに遊牧民を刀で斬っていく。中央を先に突撃させて戦力に見切りをつけさせたところで左右から最高戦力を投入する。敵ながら見事な策だ。


 しっかし、兵士ら邪魔でしょうがねぇ!統率の取れなくなった兵士は烏合の衆以下で死体を何度も突き刺しているもの。単純に逃げ惑いながら周りを押しのけようとして更に混乱を呼ぶものなど軍が軍として機能していない。勿論かわせるしちゃんと敵だけを斬ることくらいできますけども!


 そうしてあの巨人の元へとなんとか辿り着く。このまま一気にカタをつける!一瞬で跳び喉元へと斬り掛かる。あの時よりも格段に速くなってんだ。その首、貰った!


 後十センチという所で目が俺を補足していることに気づく。横合いから大樹の様な豪腕が俺に襲いかかる。


「ヤベッ」


 危ねぇ……何とか空中で体を捻りかわす。バックステップで少し間をとる。まさか動きが読まれているなんてな、しかも今ので完全に強敵認定されたようで巨人の警戒度が跳ね上がるのを感じた。


 そこからは俺の刀と奴の腕の打ち合いの連続、右ストレートを刀でいなし、上段からの斬り掛かりを左腕で受けられ、一歩引いたところに右腕での薙ぎ払いが襲いかかり刀で受けて後ろにわざと吹き飛び攻撃をかわす……と篭手をしている腕には大したダメージを与えることは出来ずジリ貧の状態が続いていた。


 あんまり長引かせるのもよくはないな……少し痺れてきた腕を振り腰に付いている袋から切り札(魔石)を取り出す。


「エンチャント、風」


 色は若草色、風の魔石を砕き一時的に俺の魔術属性を無から風に変える。目の虹彩、そして刀の刀身も淡く緑に輝く。


「ウォォォォォ!」


 巨人の右ストレートが襲いかかる。一瞬


「切り札切ったんだからこんぐらいはやんねぇとな」


 血だらけの刀を振るう。その瞬間、巨体は意志無き肉塊となり地に伏した。


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[良い点] まさかの男色蔓延! そして怒涛のバイオレンス! 魔術描写もかっこいいです!
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