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殺し

  「おいアレン!起きろ!」


  俺の部屋のドアが乱暴に開かれる。なんだよ、モールス兄さんかよ。そこに居たのは近所に住んでて茶髪の俺と同じ自警団の同僚のモールス兄さんだ。いわゆる兄貴分という奴で誰からも慕われてて皆から兄さんと呼ばれている頼りになる人だ。


  おいおい、今日は非番だぞ?そんな日は惰眠を貪るのが定石ってのになんなんだよ急に起こしやがって、これはいくら兄さんと言えど一言いってやらねば気がすまないな……


  「コルゾーさんが死んだ……」


  急いで着替えて詰所へと向かう。この村で殺人なんて滅多に起こらない、魔物は自警団が月に一度間引いてるためよっぽどの事がなければ村まで来ないし百人もいない村のため皆が皆知り合い、友人の関係なので恨みといった殺しなんて起こった試しがない。


  詰所へ着くと皆が沈痛な面持ちで会議をしていた。皆がコルゾーさんには一度は世話になっているのもあるからだろう。


  コルゾーさんはこの村で商人を営んでる人で金持ちだがこの村を愛していて、よく高いだろうに子供は美味しいもの食べないとねと言ってお菓子をくれた優しい人だった。


  「エレインさん!なんでコルゾーさんは」


  近くに座っていたエレインさんに尋ねる。あぁ、アレンかと俺を認識したエレインさんはコルゾーさんの遺体が発見された時の事情を話してくれた。


  まずコルゾーさんは行商の帰りに村の近くの山道で死んでいるのを村人が発見、すぐに自警団が駆けつけコルゾーさんの遺体を保護、現場では荒らされた跡があり持ち物含め金品が全く無い事から野盗、盗賊が近くにいる可能性が高く事態は急を要する。との事だった。


  盗賊、王都といった大都市なら冒険者や数百人単位の警備隊、更に万を超える軍人もいる為大した驚異でもないが、こういった小規模の村では盗賊に簡単に滅ぼされる。


  男性は皆殺しにされ女性は犯される。そんな地獄絵図が簡単に再現される。もし村の自警団では戦力が足りなかったら?もし討伐に行っている間に村に回り込まれて村をめちゃくちゃにされたら?このように手を間違えればこんな村一瞬で滅ぼされるのだ。盗賊というのは徒党を組んで狩りをする生粋のハンター、必ず一人では行動しない、何故なら彼等は自らの弱さを知っているから。


  そういった手合いと戦うのは慎重にならなければならない、それにこの村に盗賊なんて来たのは初めてだ。自警団にはピリピリとした緊張感が走っている。


  「まず人員を村の警護、盗賊の討伐の二つに割く」


  そんな中自警団のリーダーであるケインさんが慎重に考えながらゆっくりと指示を出していく。そりゃそうだ。ひとつの指示で村の人間百人が死ぬんだ。慎重にもなるよな、とまだコルゾーさんの遺体も見ていなからか実感がわかずにぼんやりと考えていると


  「エレイン、アレンと共に盗賊の討伐に向かえ、お前らはここの中でも最高戦力に等しいからな」


  ……マジですか?







  所変わって山の中、常に周囲に警戒しながらエレインさんと草木の茂った獣道を進んでいく。


先月の報告で魔物の縄張りはマッピングされているのでそこを縫って進む。盗賊がどこに潜んでいるか分からないので手探りだが徐々に穴を埋めていき魔物はちゃんとそこに生息していることを確認する。そこで戦闘をした痕跡がないならばその魔物の縄張りにはいない事が分かるのでチェック完了。そして魔物のいない所は直に息を潜めながら回っていく。


  そうやって山の中腹までこなしてきた時、エレインさんにハンドサインで敵ありとの指示を受ける。木の裏に隠れその方向を覗くと、どうやら吸血コウモリのいたであろう洞窟の横合いにでたようだ。そこには見張りらしき人間が二人、明らかに盗賊だろう。


  「アレン、弓で仕留めろ」


  おぅ……唐突に殺しを指示しやがるこの人妻。


  この世界では人の生き死にに対してかなりシビアだ。まぁ、人なんて年に何人も若者も老人も一切の容赦なく死んだりする世の中だからっていうのもあるからこのように当たり前のように殺しの指示が出る。


  「今まで俺魔物を弓で狩るぐらいしかしてないんですけど……」

  「人間も魔物も仲間に害をなす時点で害獣と変わらん、今更何を言ってるんだ」


  俺の怯えを感じ取ったのだろう。少々怒気を孕んだ言い方で怒られてしまった。


  いやぁ、分かってるけどそんなはいそうですかって殺せる程覚悟なんてないんですけどね。

  どうしよ、震えてきた。魔物は殺したことあるからって油断してた。今までヘラヘラしてたツケが回ってきたのかね、いざって時のことを俺はいつも先送りするんだから……


  そうしてうだうだとしていると急に首元にヒヤリとした感覚、なんだと思い下を見てみるとナイフが突き付けられていた。


  エレインさんあんた……!そう、痺れを切らしてエレインさんがナイフで脅すという実力行使に出たのだ。堪らずエレインさんの方を見ると()()()()()()()()()()()()()()()と目が物語っていた。


あぁ!クソっ!殺ってやるよ!魔力を通して弓を()()()()。あぁ、魔物と同じだ。アレだってコルゾーさんを殺したんだ。害獣だ。そうだ、殺せる。俺なら……殺れる。


「ふぅ……」


  荒ぶっていた呼吸を整えて構えて……放つ、一筋の銀の閃光が元々そこに当たることが必然であったように頭に吸い寄せられていく。


彼は自分が何故、何によって死んだのか理解出来なかったであろう。何故ならその事に二人目が気付いた時にはもう既にピンク色の脳漿を四方にぶちまけ二人目の顔を汚し、洞窟の壁を紅く染色し鼻から千切れた脳と共に鼻血を吹き出して倒れ込んでいたからだ。


  まだあと一人!極力殺した一人目を見ないようにノータイムで新たに想造した矢を放つ、大丈夫、見なくても位置は覚えている。なら見なくても放てるよな?


  見てしまうと殺した一人目のせいで矢が鈍る。そう思い二発目をノータイムで放つ。


  一発目と僅か三秒と経たず放たれた二発目は急な出来事によって条件反射で二人目が身をすくませたことにより脳ではなく頬をぶち抜く。くぐもった叫び声、いや口が矢のせいで開けないため声ではなく喉から漏れでる空気が舌と矢によって声のようなものを出しているだけ。その頬からは血が吹きでる。自ら血で真っ赤に染った口から仲間の脳漿を一身に浴びた気持ち悪さ、自らの頬を射貫かれた痛みによって深紅の吐瀉物が地面を赤く染め上げる。


「いっ!」


不味い、見てしまった。その盗賊の姿に自分がやった事ながら体の震えが止まらない。


すかさずエレインさんが飛び出し持っていたナイフで蹲っていた二人目の心臓を背中からナイフで突き刺す。吹き出した血がエレインさんの服を紅く染色する。


  「エレインさん……俺……!」


  呼吸が否応なしに荒くなる。殺した瞬間一面に広がった鉄っぽく酸っぱい臭いのせいで急激な吐き気に襲われる。


駄目だ。吐くな、ここで吐いたら失礼だ。俺が殺したのに吐くのは失礼だ。脳内で反芻して無理矢理喉元までせり挙がってきていた吐き気を抑え込む。


  「よくやった。初めてにしては上出来だ。」


  ポンとエレインさんに頭を撫でられる。吐瀉物ではなく涙が溢れてきた。何に泣いているのか分からない、怖かったのかもしれないし、気が緩んで安心したからかもしれない。だけど涙が止まらなかった。


  「後は任せておけ。お前はちゃんと仕事を果たした。ここから先は私の仕事だからな」


  そこから先は一方的だった。洞窟の中から血の匂いを嗅ぎ付けて武器を構えて出てきた盗賊を一人一人持っていた剣の一太刀で確実に首を跳ねていった。元々狭い洞窟から出てくる為一度に二人程しか出れないのもあって洞窟にいた残り殺し尽くすまで三分とかからなかった。そうして洞窟の中に入っていったエレインさんは五分後、コルゾーさんの遺物を持って洞窟を出てきた。


  帰り道、赤く染ったエレインさんと少し距離を開けて歩く。彼女から漂う血の匂いがどうしても自分のしでかした事を思い出させてしまうからだ。エレインさんも分かっているのか俺に話しかけようとはしなかった。


  そうして村へと帰る。見た所村には被害は出ていなさそうだ。少し安心していると胸にボスッと何かが突っ込んできた。


  「お兄ちゃん!無事でよかった……!」


  あぁ、ココか、緊張の糸がプツンと切れる。


  あっ……意識はそこで途絶えた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に緊迫感が出てきました。 人を殺す緊張感が、読者にも伝わって来ました。 [気になる点] ここ一番、と言う描写は、改行して、より「溜め」を作った方が、折角の緊張感が伝わりやすいと思います…
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