転生
「お兄ちゃん!早く起きて!」
寝ぼけ眼を擦りベットから起きる。あぁ良い天気だ。よし、二度寝しよう。
ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえる。ふむ、BGMには少しうるさいかな、音量を下げるよう要求する。
瞬間、ドアが大きな音を立て開けられる。
そのまま布団が持っていかれる。あぁ、神は死んだ。
「起きてって言ってるでしょ!このまま寝てたら自警団遅刻するよ!」
そう言ってきたのは妹のココだ。栗色の髪の毛に同じ栗色の目をしている。妹といっても血は繋がっていない。俺の母が俺を産んだ直後に亡くなってしまった上に父は既に魔物に殺されていたらしい。
そうしてできた赤子にして孤児の俺を引き取ったのが昔に父に恩があったココの父さんだという。
「あぁ妹よ、さてはこんな気持ちの良い日には二度寝が気持ちいいことを知らないな?さぁ一緒に寝てやるから惰眠を貪ろう。さぁ、カモンヌ」
「いっ、一緒!?」
そうして顔を真っ赤にする。ココは毎回反応がいいからついからかってしまう。でも流石に起きないと母さんに怒られるかな、ベットから起きてココの肩を押して一階に向かう。触った瞬間ココがビクリと震える。少しふざけすぎたかな?後で何かプレゼントしておいた方が良さそうだ。
「流石に母さんが怖いからな、朝ご飯食べるか」
「えっ、あっ、うん……」
一階に降りると母さんが洗い物をしていた。母さんは黒い髪に黒い目と日本人に見えなくも無い容姿をしている。着物が似合いそうな体型でもあるので是非着せてみたい、今度王都に行ったら探してみるのも良さそうかな。ココの髪と目は父さんのユリウス譲りだ。
父さんは農民で朝から夕方までキッチリと仕事をするできる男、それでもって家族思いのいい父である。
「あら、アレン起きたの。もうちょっと起きてこないと思ったわ〜」
どうやら俺は相当な怠け者に思われていたらしい、幾ら自警団の仕事がない日は昼まで起きないとは言ってもそこまでじゃないさ、まぁ、サボったりしたら上司のエレインさんが怖いからな……
「流石に仕事の日にはちゃんと起きるよ母さん、ほら、ココも早く食べよう」
「うんっ!……って誰のせいで遅くなったと思ってるの!」
流石我が妹、遂にノリツッコミまで……と感心していると母さんからお声がかかる。
「そういえば、遅刻するとエレインさんが特訓の量二倍に増やすって言ってたわよ〜」
……え?
不味い不味い不味い!これ以上特訓の量増やされたら死ぬ!
「ごめん母さんご飯残す!」
そうして急いで服を着替え家を飛び出す。母さんは相変わらず落ち着いた雰囲気であらあら〜と笑顔で俺を見送っていた。
そうして村の自警団の詰所へと辿り着く、そうすると俺以外の十人のメンバーは既に揃っていた。一瞬間に合わなかったか!と焦ったがまだ朝の三回目の鐘(大体朝の十時、七時辺りから教会が一時間に一度鳴らす)がなっていないので間に合ったようだ。
そうすると俺の直属の上司のエレインさんが近づいてくる。エレインさんは赤髪に眼帯の元冒険者。どうにもダンジョンに潜っている時にモンスターに左目をやられて引退、生家のあるこのソル村へと帰ってきて自分にもできる事を、と自警団に所属した波乱万丈な人生を送ってきた方だ。
因みにその時に旦那も持って帰ってきた。今は自警団のトップを担っている茶髪のケインさんだ。まぁリーダーとは余り話はしないからよく知らないがかなり強いらしい。
「おい、ギリギリだぞ」
「遅刻してないので……追加の特訓は、無しですよね?」
「特訓?なんの事だ?いつもの特訓に追加なんかしたら体を壊すだろ?」
嵌められた……!いや遅れてたら叱責を貰うのは俺なので感謝はしているけども!そしてエレインさんは俺の限界を俺よりよく知っているらしく体が壊れるギリギリ、だけど翌日や有事の際にはすぐに動ける程に特訓をする。
そうして詰所の裏の広場へと向かう。さぁ、地獄の特訓の始まりだ。特訓の内容は戦闘のカンを鍛える為に延々とエレインさんに打ち込むだけといった簡単な方法だ。今まで二ヶ月程自警団に在籍しているが一度もエレインさんに打ち込めたことは無いけど……
「アレン、剣を出せ」
「真剣、木剣どっちですか〜」
「ほう、それなら趣向を変えて真剣にでもしてみようか」
「やめてください死んじゃう!」
「はぁ、なら巫山戯た態度をやめて早く始めるぞ」
「了解」
そうして俺は木刀を出す。
俺にはチート……とは言えないが珍しい能力がある。
それは武器を創造することの出来る能力だ。とは言ってもそれだけなんだけどな……そしてこの能力にはデメリットもある。
まず出せる武器が自分が構造を理解している武器だけ、つまり銃とか出してチートはできないのだ。更に手を離れると武器は一分ほどしたら粒子となって無くなってしまう上に武器が離れた時脳内がフリーズする。
エレインさん曰く、脳内のイメージで武器を作るのだからその武器が手を離れるとそのイメージが崩れる。すると無意識に脳内で描いている術式が崩壊して脳に負担がかかるのでそのせいだと言う。そして魔術師の冒険者が死ぬ理由の大半がその時の隙を付かれた時らしい。
メリットとしては弓を創った時矢の残弾を気にする必要が無いのと、ロマン武器、日本刀が使えるくらいだのなんとも実用性に欠ける魔術だ。
そうこうしているうちに何度もエレインに木剣で吹き飛ばされながら朝から五度目の鐘が鳴り休憩の時間となる。一度家に帰り朝食えなかった分沢山食べる。
「母さんエレインさん特訓倍にしないって……」
「ん〜、なんのこと?」
相変わらずの笑み!母は強し、と言うが異世界でも同じだったようだ。因みにココは裁縫の仕事の手伝いをしている為家にはいない。
そして昼食を食べ終わりまた午後の訓練のために外へ出る。
「ごちそうさまでした。それじゃ行ってくるよ」
「えぇ、出来る子なんだから頑張ってね〜」
うっ!脳にノイズが走る。一瞬前の記憶が過ぎったか……咄嗟に頭を押える。
「どうしたの?」
母さんの心配そうな声がかかる。大丈夫と手を挙げ合図する。うん、大丈夫。
「大丈夫、ちょっと頭が傷んだだけ」
「今日はもう休んだら?」
この世界は医療機関が発展していないためこういった時にすぐに休むように言われる。休んで体力を温存しないとただの風邪でさえ人が死ぬ時代だからだ。
まぁ、原因がわかってるから休んでも暇するだけなんで行きますけどね。
「大丈夫だよ母さん、別に病気にかかった訳じゃないから、それじゃ!」
その時、申し訳なくて母さんの顔は見ることができなかった。
そうして午後も巡回を終えたらエレインさんの特訓を受け夕方、昼から五度目鐘で家路に着く。
「だだいま〜」
「おかえり、お兄ちゃん」
「アレン、おかえり〜」
「うん、おかえり、アレン」
家族揃って迎えられる。いつもの日常だ。だけどこういった日常が一番大切だよな。
そうして母さんの晩御飯を食べココを少しイジり父さんに近況の報告をして今日も眠りにつく。大丈夫、明日も生きたいと思えてる。
俺は異世界で本当に、ちゃんと諦めずに生きている。