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ヨキと戦斧の異邦人  作者: クロメンボウ
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第1話

この物語の主人公である男の名前は【ヨキ】。

森に囲まれた小さな村に生まれ、都市に出向いては木材を売って

生計を立てている。

争いもなく平凡な日常を送っていた彼が…


ある日突然、森の中で衝撃的な出会いをすることからこの物語は始まる―。


***


「なにこれ」


ぼそりと、ひねりのない呟きが出てしまった。

それもそうだ。いつも通り木材調達に出かけたら、目の前に大岩が降ってくるなんて誰が想像できる?


「た、助けて! あいや、ヘルプミー!」


それにただの大岩じゃない。重々しいその大岩からは、

岩肌に呑み込まれるような形で少女が顔と腕だけを突き出して、

ジタバタと暴れながら俺に助けを求めている。

俺が腕利きの冒険者なら、魔物と勘違いして今すぐ剣を突き立てているところだ。


「こ、言葉が通じないのかな…。あの…助け、たすっ…」


だがどうにも、魔物とは思えないくらいマヌケな絵面だ。

さすがに面食らったが、俺よりも慌てた様子の少女をみて冷静さを取り戻せた気がする。


「じっとして動くなよ。当たっても責任は…とれんからな」


そう言って俺は木材伐採用の石斧を大きく振りかぶる。

こんなもんで大岩が砕けるとは思えんが、命には代えられない。

試すだけ試そう。


「むん!!」

「んぎゃ!!」


潰れるような断末魔の叫びが森に響いたが、もちろん少女には当たっていない。

結果として石斧は刃先が大きく欠け落ち、見るも無残な姿になっている。


「あっ…あの!!」


仕事道具との突然の別れに目頭を熱くさせていると、

再び少女が申し訳なさそうに声をかけてきた。


「手を…手を引っ張ってくれませんか?」


「…手を?」


ふと視線を落とすと、少女は俺の手をなんとか掴もうと

必死にもがいているようだ。

得体のしれない存在ではあるから、できれば触れたくはなかったのだが…。


「よっ…ッウゴ!!」


二度目の奇声。少女のか細い腕を掴んで引っ張ったところ、

なんの突っかかりもなく少女の身体が大岩からすっぽ抜けたではないか!


そのまま少女の投げ出された体が俺を押し倒した。いや正確には押し潰した。


「たすかったー! ってああっ! ごめんなさい!!」


この女、大岩に埋もれて気付かなかったが、身の丈を超えるほどの巨大な斧を背中に担いでいたのだ。

当然、そんな状態の女が飛びかかってきて重量的に嬉しいわけがない。


***


「…それで? さっきはどうしてあんな状態になってたんだ」


その後、驚くほど身軽に俺の上から飛び退いた少女は、

申し訳なさそうに斧の持ち手をさすっている。

ひとまずそれから手を離してほしい。


「私にもよく分からなくて…

いつも通り異世界サーフィンをしていたらこんな状況に」


イセカイサーフィン?


「たぶん、ファストトラベルした時にバグか何かで、座標がずれて…」


ファストトラベル?バグ?座標?


「さっきの大岩の中に落ちちゃったんだと思います。

コリジョンに引っかかって自力では出れないみたいで…」


「…待て」

「あはいスミマセン」


思わず手をかざして制止する。

聞きなれない単語だらけで言っていることがまったく理解できない。

こういう時は順番に話を聞くとしよう。


「まず、イセカイサーフィンっていうのは何なんだ…」


「異世界サーフィンっていうのはですね。

えっと…ネットサーフィンはご存じです?

パソコンで色んなサイトとかを見ていくことなんですけど、

異世界サーフィンはその亜種みたいなもので

色々な異世界を行き来して遊べる

バーチャル・リアリティ型ゲームのことなんです!」


これは参った。ぜんぜん意味が分からない。

目を輝かせて語り出す少女には悪いが、これ以上は話を聞くだけ無駄だ。


「込み入った話はもういい。ひとまず自己紹介しよう」


互いに簡単な自己紹介を済ます。

彼女の名前は【ミズサワユウキ】。

少女だと思っていたが年齢は23歳で、小柄で華奢なだけだったようだ。

この辺りでは見かけない黒髪に黒い瞳で、背中の斧以外は地味な服装だ。


大岩から抜け出してからはやけに興奮した様子で、

木を触ってみたり頬をつねったり、「イセカイテンセイダコレ!」とか

わけのわからない言葉を叫んだりしている。

くるくる回りながら自分の世界に入っている彼女を眺めているのも飽きたし、

そろそろ村に帰ろうと踵を返したその時。


「ゴォオオオオオ!!」


聞いたこともないような咆哮で、地面が揺れた気がした。

勢いよく振り返ると、ミズサワユウキの前に大きな影が見える。

全身を覆う赤茶色の体毛に、手足にはびっしりと鱗が生えた化け物。

木々よりも大きな図体は巨大な熊を思わせる。


どうして森に、こんな化け物が?

この辺りには熊すらいないのに…

いや、今はそんな思考を巡らせてる場合じゃない。


「ウォオオオオオ!!」


自分を鼓舞するように俺も咆えた。

使い物にならない石斧を構えて、獣に向かって突撃する。

俺が囮になってる間に、どうか逃げてく―


「ダイジョブです!!! 一人でやれます!!」


獣を目前に立ち尽くしていたミズサワユウキが、

ばっと手を広げて俺の決死の勢いを殺した。


「へ?」


奇声三度目。

予想できない事態の連続に、構えていた石斧がするりと手から離れる。


「ヨキさん。また助けてくれてありがとうございます。」


彼女は背を向けていて表情は窺がえないが、微笑んでいる気がした。

そして背中に担いでいた大斧に手をかけると、どこにそんな膂力があるのか、

片手で一気に引き抜いた。


「いきます!」


たまげた。

あんな大斧を構えているだけでも凄まじいのに、

構えたまま化け物の頭上まで跳躍したではないか!

そのまま大きく振りかぶり、脳天を…


「ごぉ!!」


誤解のないようにお伝えするが、

今のは化け物の咆哮ではなくミズサワユウキの声である。

勢いよく飛びあがったはいいものの化け物は既に動き出しており、

彼女は虫を潰すように勢いよく地面にはたき落とされた。


「うええ…」


だが、土煙の中から出てきた彼女はピンピンしていた。

それどころかかすり傷一つ負わず、土が口に入ったのか苦い顔をしている。


「あなた、なかなかやりますねえ…

ならば、こうだ!! とーう!!」


そう言って再び飛び上がった彼女を、化け物は容赦なく掌で押し潰した。

が、それもものともせず彼女は立ち上がり、飛び上がってはまた叩き潰される。


そんな光景がしばらく続いて、俺もようやく理解が追いついてきた。


ミズサワユウキはとんでもない筋力と耐久力を持ち合わせているが、

戦いのセンスがまるで無い!!


しきりに脳天に斧を振り下ろすことに執着しているようで、

バッタのように飛び上がっては潰され、化け物すらもはや行動を理解しているように思える。


幸いなことに、化け物は俺のことは眼中にないらしい。

その隙に石斧を拾い上げ、化け物の頭部にある目玉と思われる部位、

光の無い黒点に狙いを定めた。あとはタイミング次第だ。


「こんのぉーーーッ!」


泥まみれのミズサワユウキが、再び勢いよく飛び上がろうと構える。

やるなら今しかない!!


「当たれ!!」


石斧を力の限りぶん投げて、それは見事に化け物の顔面を捉えた。

眼球に当たれば上出来だったが、そこまでじゃなくてもいい。

石斧のおかげで化け物は一瞬、俺に対して意識を向けたのだ。


「もらったぁーーーーー!!!」


ミズサワユウキの大斧が、ついに化け物の脳天に直撃する。

切り裂くというよりも、叩き潰すというほうが正しいか。

轟音と共に化け物の頭部はひしゃげ、胴体が地面に陥没するまで勢いよく沈んだ。



森中に舞い上がっていた土煙がようやく晴れた頃、

俺の視界に広がっていたのは化け物の亡骸と、大斧を肩に乗せ

こちらに指を二本立てた拳を突き出すミズサワユウキの姿だった。


「ナイス支援です。ヨキさんっ!!」


とびきりの笑顔に化け物の返り血が付いてなければ、

ときめいていたのかもしれないな。



to be continued...


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