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君が散るならば、俺は  作者: 隼加うみ
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第8話:思い

 俺の人生ってほんとクソだったな。

 信じて疑わなかった自分の世界を偽物だと突きつけられて、何もかもぶち壊して、大切な人をさんざん傷つけて、謝れないまま終わって。

 ここまでくると逆に笑えてくる。

 いっそ力尽きるまで盛大に笑って、そのまま死んでやろうか。笑い死にした男なんて歴史に名が残るかもしれない。クソだった人生への最後の抵抗だ。

 あっ、そういえば、あの栗野郎にイタリアン突っ込むの忘れてた。あいつが言いたかったのって絶対にパリだろ。芸術の都だろ。フランスの首都のことだろ。しかたねーな。落ちたら自分の血でも使って、ダイニングメッセージ風に書いとくか。じゃあ、笑い死にはできないな。ざんねんだ。

 自分の体が風を切り裂いている。耳元でうなる、初めて聞く自然の音。

 それに負けないぐらいの爆発音。止むことのない破壊音。

 しかし、それに対する悲鳴はまったく聞こえてこなかった。

 それが敵に見つからないための人間が有する学習能力によるものなのか、それとも単純に悲鳴を発する存在がいなくなったのかは定かではない。

 だけど、確かなことがひとつある。

 最期の時は確実に、加速度的に近づいている。

 それが、地面と重力の合わせ技によるものか、それとも、雷撃によるものかはわからない。

 でも、そんなのどうでもよかった。

 胸をきれいに貫かれたって、地面に激突して見るも無惨な姿になったって、死体が残らないぐらいにバラされたって、そんなの俺にとっては真底どうでいいことだった。

 だって、どうせ死ぬことには変わりないのだから。

 ユアを守れなかったことには変わりないのだから。

 あの手のかかるバカを、俺にとっての最高の妹を残して逝くことには変わりないのだから。

 ごめんな、ユア。

 俺はお前との約束を何一つ守れなかった。

 お前と約束したことも、俺が自分自身に誓ったことでさえ何一つ、何一つ守れなかったんだ。

 ほんと、かっこわりぃーよな。自分で自分が情けなくなってくる。

 でもな、俺、最後に下した決断には後悔がないんだよ。

 何でだろうな。俺の人生、後悔しかないのに。あれを見た時から、俺はクソ野郎に成り下がってでも、お前には幸せになって欲しいと思っていたのに。お前を守るための行為にさえ、後悔で何度も枕を涙で濡らしたのに。…………………本当に、何でだろうな。

 栗ってさ、本当にバカな奴なんだよ。お前と同じぐらいのバカなんて初めて見たわ。

 あいつさ、自分を殺そうとした人間に何も言ってこないんだぜ。責めてこないんだぜ。ほんと、意味わかんねぇよな。

 俺、あいつに恨んで欲しかったんだ。恨んで、憎しんで、罵倒して、責めて。一生、いや、死んでも許さないで欲しかったんだ。

 なのにさ、あいつ、笑うんだぜ。謝るんだぜ。自分で指を外したんだぜ。意味わかんないこと言いまくって、「もう死んでもいいんだ」って、そう言うんだぜ。本当に、本当に、………………バカな奴だよ。

 ああ、神様お願いです。今まで神なんて信じてなかったし、供物とかも何もないし、調子のいいこと言ってるっていうのもわかってる。でも、お願いです。一生に一度のお願いです。

 天国でもう一度。いや、俺は天国には行けんか。だったら………………、そう、来世で。人間に生まれ変われる保証なんてないし、長い長い時間がかかるかもしれない。そもそも今の記憶はもちろんなくなっているわけで。でも、それでも構わない。どんな関係でも構わない。どんな状況でも構わない。

 だから、彼女たちとの再会を。彼女たちとの解雇を。もう一度、彼女たちとやり直すチャンスを。どうか。どうか。どうか。

 俺にとってユアは大切な存在だ。かけがえのないもので、俺にとってのすべてだ。

 でも、俺は最後の最後であのバカを選べなかった。もう一人のバカを切り捨てる道を選ぶことができなかった。

 なぜか。

 たった二時間そこらの付き合いだった。たった二時間前に会った、変な女だった。

 でも、俺の心に入り込んできた。俺の中に居場所を作ってしまった。凍りついていた、俺の中の何かを溶かしてしまった。今まで一つしかなかったものが、二つになってしまった。

 だったら、しょうがないじゃないか。俺は自分の決断を悔やむことなんてできない。きっと、ユアも許してくれるだろう。それどころか、褒めてくれるかもしれない。

 ユアのことは栗に任せた。だったら大丈夫だろう。

 やり残したことは次に託した。だったら、思い残すことなんて何もない。頼んだぜ、神様。

 きっと、あのバカ二人と再会できるのはずっと後のことになるだろうけど、俺は大丈夫。というか、速効で来やがったら俺が許さん。蹴り飛ばしてでも、こっちの方に送り返してやる。それが嫌だったら、100年、いや、200年は生きて見せろ。大丈夫だ。昔から、バカは長生きするようにできてる。そんぐらい、気合いで何とかしろ。たった200年ぼっちじゃ、俺の休暇にもなりやしないがな。

 だから、お前らは人生をゆっくりと楽しめ。運命の人を見つけて、その人と家庭をもって、孫もできて、ひ孫もできて、最期はその人たちに囲まれてこっちに来い。

 そしたら、3人で話をしよう。まずは、いろいろ謝んないとな。それから、謝った以上のありがとうを伝えて、お前たちの話をたくさん聞かせてくれ。つらかったことも、楽しかったことも、笑ったことも、うれしかったことも、しあわせだったことも、ぜんぶ、ぜんぶ。

 3人で悪口言い合って、バカなことを言い合って、突っ込みして、顔を真っ赤にさせて、笑って、楽しく、そんな風に過ごしたい。

 だから、今はお別れだ。何も寂しくなんてない。だって、俺たちはぁぁぁぁあああああああああああああ!? パッリーン! ゴロゴロゴロゴロ、ガッシャーーン!

「痛ててててて。何だよ急に」

「お、お兄ぃ?」

「へ?」

 

 













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