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一途な青年の帰省事情

作者: 霧葉山 栗花落

 俺は君が大好きだ。よく笑う優しい君が。それは今も変わらない。


 君は今何処にいるのだろう。もう、会えないのだろうか……。


 彼のように俺のそばからいなくなるのだろうか。


 そんなことはさせない。



 君との約束は絶対に守るよ――――












 なぁ、友人。こんなになってから頼むのも恥ずかしんだがよぉ。

 「助けてくれ……助けテ……クレ……」


 俺の後始末、手伝ってくれないか?

 「タスケテ……タス……ケ」


 そろそろ限界なんだ。

 「オレノ……カラダヲ……」



 俺をお前の手で、

 「ゴロ……ジデ……グ……………」 



♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆


  僕は小さな村にいた。俺は少女サラと一緒に遊んでた。森を冒険したり、川で風邪を引くまで遊んだり……。

最終的には遊び疲れて草原で仲良く寝そべっていた。


 サラは僕より背が高く、いつも見上げて話していた。

背の話をすると、サラはクスクスと笑って僕を見た。


「どうして、私より高くなりたいの?」


 そんなの決まっている、……サラが……好きだから、優しくかっこいい君には負けたくないんだ。僕は胸を張って守れる存在でありたい。でも資格はない、君を守れるほどの力がない。だから、こう言うしかできないんだ。


「見下ろした方がいいじゃん。お前には絶対勝ってやるんだ!」


 ただの虚勢でしかない、穴だらけの耐久力が無い岩と同じくらいの言葉だ。

 でも、君を守れるようになったらちゃんと言うから、絶対待っていて。


「そっか。……うん、待ってる」


 君はまるで僕の心の声をきいたかのようにそんなことを言う。


彼女は泣きそうな顔をしながら笑ったんだ。


『約束だよ、絶対だよ……待ってるからね』




その時の彼女の顔を俺は一度たりとも忘れたことがない――――――











「起きなさい、もう朝の時間はとうに過ぎていますよ!」


野太いおばさんの声で目が覚めた。さっきまで俺は寝ていたらしい、見慣れた風景がそこにあった。

起き上がって横を向くと四十歳くらいの女の人が立っていた。顔が鬼になっていて怖い……。


「おばさん、せっかくの綺麗な顔が台無しですよ」

「アンタのせいだよ!!」


おばさんの顔はリンゴのように真っ赤だ。

その後、おばさんの一発で俺の意識は一瞬あの世に行きそうになる。


「――――で、殴られたと」

「殴られたんじゃない、思いっ切り蹴られたんだよ。……窓、突き破って川に落とされるくらいにね」

「まじかよ、おばさん容赦ねぇーな」


ゲラゲラと隣で笑われた。しかも、大声で……。

 おばさんの目覚めの一発を食らった後、食堂にいったら同じ宿屋に泊まっていた古い付き合いの男に捕まってしまった。仲がとてもいいわけではないがコイツの性格なのだろう、よく話しかけてくる。


 こいつはもうそろそろ四十代だったはず。年なのにモテる、姿が女達によって見えなくなるくらい……。男まさりのこの濃い顔の何処がいいのか、俺には理解できないがな。


「お前、今何を考えた」

「イイエ、ナニモ」


 疑うような目で見てくるが知らん顔をしておいた。


 周りでは朝にも関わらず、おしゃべり大好きおばさんがあの鬼おばに話をしに来ていた。

 おしゃべりおばさんは最新ニュースを収集するのがものすごく速い。事件があった翌日には情報が鬼おばに行っているくらいだ。どこで情報収集しているんのかものすごく気にはなるが知ったらいけないような気がする。野生の勘ってやつだ。


 おしゃべりおばさんは興奮しているらしく、鼻息が荒い。意識をそちらに向けるだけで話の内容が聞こえてきた。興奮していたせいか同じことを繰り返し言って話が長かったので要略すると、どうやら、フードを深くかぶった男が近くの村や集落の人々を全員惨殺したそうだ。しかも、その犯人は数年前から都市では有名な殺人鬼として指名手配になっているらしい。


 「この村にも来てるかもしれないわ! どうしましょう、用心棒を雇ったほうがいいかしら」

 「奥さん、落ち着いて。そう来やしませんよ、大丈夫」


 鬼おばがおしゃべりおばさんを一生懸命になだめている。面倒くさいだろうにお疲れ様です。


「それにしても、お前がこんな時間まで寝るなんて珍しいな」

「ん? あー懐かしい夢を見たんだ」


 おばさんたちの会話に集中して完全に存在を忘れていたせいか反応が遅れた。

 夢の内容は俺がまだ、生まれ育った村に住んでいた頃の記憶だ。サラとは仲が良く遊びまわっていた。


「俺はさぁ、その子が好きだったんだよ。――告白するくらいには」

「え! 告白の返事は?」

「……ない」


隣りの男――ガルはキョトンとしたあほ面をした。


まぁ、そりゃあ驚くわ。返事がなかったなんて告白した本人が逃げた場合以外あまり無い事だ。


「俺らの村は成人の儀式をやるんだ。他のとこじゃあ、お祝いで済ませるだけらしいがな」

「それが何か関係があるのか?」

「まぁ、聞けよ」


成人の儀式の前夜、俺はサラに告白したんだ。

俺は比較的成長が遅いほうだったからその頃は背は彼女と同じくらいだった。俺は想いを伝えた。


 『好きだ』 ってね。


 でも、俺は逃げたんだ。想いを聴く前に……。その空気に耐えることが出来なかった。

あのときの俺を憎むよ、なんで逃げたんだ、臆病者ってな。でも、過去には何をしたって戻ることはできないんだ。何をしたってね……。





 成人の儀式をする翌日――――告白したんだ次の日




 サラは村から消えた。






「で、彼女を探すために村を出たと…………泣けるね〜」


 シクシク……シクシク…………。

 涙を流す仕草をハンカチまで用意して芝居をしているゲルにイラってした。


「お前なぁ、確かにサラの事もあるが俺は村を出るしかなかったんだよ」

「は? なんだ、その言い様は。お前、なんかやらかしたのか?」


何だよ、そのニヤニヤした顔は。


 「ゲル、どうせお前ろくな事考えてないだろう」

 「あ、ばれちまった?」

 「顔に出すぎだ。……俺の村はな、死んだんだよ」


 そう、死んだんだ。彼女が消えた後、まるで水面に落ちた滴がさざ波をたてるように事件は起こり始めた。村人が消えだしたのだ。それも何の前触れのなく。ただ、全員が消えたわけではなかった。

 でも、残った者にも恐怖の魔の手がすぐ伸びた。原因不明の病気が流行りだしたんだ。二日間高熱にうなされて三日目には脳内出血で死ぬものだ。俺たち残った数人は、この村にもういてはいけない。そう思い、まだ動く元気がある者だけで村を、まだ生きている家族たちを見殺しにして村を出た。


 「で、今お前がここに居るってことはうまいこといったんだな」

 「まぁ、そういうことになるな」


 ゲルも流石にここまで暗い話だとは思わなかったのだろう。最初の頃の顔に比べるとわかりやすいくらい暗くなった。

 だが、同情されるためにこんな暗い話をしたわけではない。


 「どうせ、俺にこんな話をしたんだ。何を俺にして欲しんだ?」


 流石に長く俺より二十年生きてきただけある。もうだいたい察している顔だ。


 「あぁ、あまりいい気はしないだろうが一緒に村へ行ってくれないか?」

 「お前な、一人で怖くていけないなんていわないよな?」


 こいつのニマニマした顔いらつくな。


 「あぁ、そうだよ」

 「やっぱり、そうか。……っておい! 認めんのかよ!」


 ゲル、そこまで引くのはどうかと思うぞ。なんか、悲しくなってきた。


 「……嘘だよ、本気にすんな」


 その顔はなんだ、その顔は。今の俺の発言は嘘に聞こえるのかよ。ていうか、信じるのかよ。俺が本気で怖がるわけないのに。そんな理由で誘うわけないだろう。一応帰省もかねているがな。


 「お前の顔は変化が無さ過ぎて、本気に聞こえんだよ。もう少しわかりやすくしてくれ」

 「無理だな、慣れろ」


 隣で、最近の若者は……。って声が聞こえたが無視をしよう。


 「お前って俺より十も年下なのに扱いがひどくないか?」

 「あぁ、お前を連れていく理由はいたって簡単な話だ。戦力になりそうだと判断したからだ」


 ゲルの目に赤い光が一瞬入った。こいつは戦闘では有名だ。人同士の殺し合いでな。


 「お前、その村に人がいると思ってんのかよ。流石にいないんじゃないか?」

 「この後、用事は?」

 「お前なぁ、質問には答えようぜ――って絶対聞く気ないよな。あぁ、空いてるよ」

 「なら、行くぞ」


 宿屋の鬼おばさんに会計をしてもらって外に出た。もちろん、ゲルをおいて。

あいつ、ポカーンって顔してたけど、脳は動いてんのだろうか。――――あ、来た来た。なら、行こう。






 ――――――――もちろん、ダッシュで。







 「くそ! 待てよーー!」



 叫び声が空に悲しく響きわたっていた――――。



◆♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆


 村についくと、そこは廃墟となっていた。


 「思っていた以上に近いんだな」

 「だから、生きれたんだがな。じゃあ探そうか」


 準備運動代わりに軽くとんでおく。これから何かあっても動けるように。


 「何を探すんだよ」


 ゲルは屈伸をした。こいつ、最初に追いかけっこしたのに、息切れしていないなんて元気な四十代だ。


 「あぁ、言ってなかったな。死体だよ、それも最近のな」


 屈伸をしていた体がピタリと止まった。だが、すぐにゆっくりと屈伸を再開した。


 「なんだ、そういうことだったのか。で、見つけたら殺っていいのか?」

 「何言ってんだ? 俺は死体っていたんだよ、生きたものにきくことはない。」


 ゲルはブルブル震えるような仕草をわざとらしくした。


 「あぁ、怖い怖い。わかりましたよ、若い隊長さん」


 そろそろ動くか。さてと、どこから行こうか。


 「俺は東から行く、ゲルは西から行け」

 「了解」


 そう言った瞬間からゲルの取り巻く雰囲気が和やかなものから殺気立ったものへと変化した。

百人を一瞬で殺してきただけはある。今近づいたら俺でも殺される。

 そんな事を考えながら探していくと懐かしいものがいくつもいる。昔の記憶が自然と蘇ってきた――――


♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆♢◆


 「ねぇ、ここはいつまで人がいるのかな」


 彼女は雨が降り続いている中、雨除けなどせずに涙を流しながら俺の隣で泣いていた。

涙が流れている瞳の視線の先は最近まで一緒に遊んでいた同い年の十歳の男の子の家だった。

窓から見える家の中は、大人達が泣いている姿があった。時々大人の隙間から見える白いベットにいる

子の横顔は白く血色が無いように感じた。

 男の子の名前は『オグル』俺らは二人ではなく三人でよくあそんでいたんだ。あいつが死ぬまでは。


 「分からない、でも僕はオグルみたいにいなくならないよ」


 彼女が言うように、ここにいつまで人はいるのだろう。もう、村人はそんなに多いとはお世辞でも言えない。オグルのように急に死んでしまうことがあるかもしれない。彼女も僕も将来どうなるかなんてわからない、明日僕は彼女の隣にいないかもしれない。でも、だからだろうか。


 「僕は君を一人にしない。助けを呼んだら絶対答えるから」

 「……うん」


 自然といつもは言わない言葉がすんなりと出てきた。



♢◆♢◆♢◆♢◆


 オグルは僕の親友であり、あいつは活発な俺らのリーダーで俺とは正反対の性格だった。

そんなあいつと一緒に笑いあった日々を忘れたことはない。


 「お前は今、どこにいるんだろうな。まだ、一緒にしたいことが沢山あったんだけどな」


 あの頃は本当に楽しかった。でも……過去を考えても何にも変わりはしない。


 「なぁ、そうだろう? オグル」


 家のそばにあった太い木から背の高い男がゆっくりと現れた。思ってたより成長を遂げていたオグルが俺の目の前に立った。

 宿屋でおしゃべりおばさんの話を聞いた時から可能性は考えていた。実は数年前に村に行ったことがある。その時はほかの任務があって長くは居れなかったが墓に挨拶に行くには十分だった。

 墓にいって俺は唖然としたよ。オグルの墓には亡骸がなく、掘りおこされた跡しか残されていなかった。

 俺が村を訪れる一年前くらいから事件の噂があった。事件が起こりだして間もなく女性の行方が分からなくなっていたらしい。その女性はある小国のお姫様だったそうだ。


 「お前、背が伸びたな。死んだ頃より」


 あいつの顔はローブのフードによって隠れていて、表情がよくわからなかった。

だが、確かに感じ取れるのは殺気だけだ。和やかな雰囲気なんて微塵も感じなかった。


 「久しぶりなんだからなんか言ったらどうだ?」

 「…………」


 フードは風に吹かれて隠れていた主の顔を微かに見せた。

見たとたん、水が一気に蛇口から噴き出したように怒りが湧いてきた。


 「……オグル、禁忌を犯したのか」


 持ってきていた剣で刃先を向ける。あいつもローブの中に隠し持っていた剣を俺に向けた。


 昔から俺とオグルの勝負は目が合ったら試合開始だ。ゆっくりとオグルがフードを取った。

昔の頃と変わることのない短い髪と、今となっては色を失った青い瞳が現れた。


 瞳はまばたきを繰り返し、ゆっくりと俺の目と合わさった。


 開始の合図だ――――――


♢◆♢◆♢◆♢



 私は誰だろう? 暗い場所、何も見えない。

光が欲しい、どこかに明かりがつくような物はないの?


 手探りに床を触っていたら、冷たいものに触れた。


 「きゃっ!」


 反射的に手を戻したが、何だったのか気になる。

怖いが、今の何も見えない状況が続く状況のほうが嫌だった。


 恐る恐る手を伸ばすとまだソレはあった。

気味が悪くて鳥肌が立つ中ソレがなんなのか確かめてみる。


 「死んだ人だ……」


 立って壁伝いに歩きながらドアを探す。死んでいる人がいるのならきっと入口が存在するはず。

さっきまで触れていたのが石だったのに、冷たい鉄の感触がした。開くか試みたがビクともしない。


 「せめて、明かりがあれば……」


 声に応えるように急に明かりがついた。まぶしさに耐えきれず、目を強くつぶる。

何度か瞬きをすると周りが見えるようになってきた。目の前の光景に大きく目を見開いた。








 「え……なんで、死んでいる人が私なの?」




♢◆♢◆♢◆


 村は静かに静まり返っていた。


 先ほどまで刃の重なり合う音が響き渡っていたのが嘘のようだ。目の前には、血を流しながら倒れているオグルがいる。冷たい風がオグルと俺の間を通り抜けていった。


 「何かあったか?」


 遠くからガルの声が聞こえた。あいつのことをしっかりと忘れていた。あの元気な声に応えるほどの力は今の俺には残っていなかった。


 ガルは俺を見つけることが出来たのかすぐに走ってきた。静かに気遣うようにガルは聞いてきた。


 「お前、そいつは?」

 「俺の親友だよ」

 「……そうか。――――沈んでるとこ悪いんだが、情報が手に入った」


 その瞬間、さっきまで悲しみで伏せていた眼が大きく見開いた。


 「サラのか!?」

 「ああ、そうだ。ここから、東に教会があるだろう?あそこの地下だ」


 最後の言葉を聞くか聞かないかで俺は一直線に走り出した。

さっきまでの戦いもオグルの死体の事も忘れて一目散に教会に入った。


 「サラはどこだ、ガル!」

 「地下だ、人の話は最後まで聞け」


 ガルは教会の門のそばから大声で叫んだ。

俺は地下を探し出し、階段を駆け下りると鉄の堅いドアが待ち受けていた。急いで開けようとするもさっきの戦いで思うように力が入らない。


 「くそっ」

 「どけ! 俺に任せろ」


 ガルはどこからか持ち出した斧を力一杯振り回し、ドアをこじ開けた。


 「サラ!」


 ほのかな光の中に倒れている女性がいた。

抱き上げ、顔を確認するとずっと探し求めていたサラに間違いなかった。


 だが――――――彼女の体は冷たく、氷のようだった。


 「なぁ、サラ。なんでそんなに冷たいんだよ。返事してくれよ」


 どんなに呼んでもサラは返事を返さない。


 『約束だよ、絶対だよ……待ってるからね』


 昔の記憶がよぎる


 あぁ、おまえとの約束さえ守れないのか


 目の前が暗くなってきた。だんだんと周りの光景がモノクロに染まっていく。


 「なんで、いつも俺は遅いんだろうな。サラ、オグル」


 「ホントだよ。でもな、お前がいて本当に良かったと思うよ」


 「何言ってんだよ、ガル」


 ガルは俺の言葉を無視してサラに向かって手をかざした。

ガルの手がだんだんとほのかな光を帯び始める。


 「何してんだよ」

 「黙ってみてろ」


 いつもは感じたことがない威圧的な声で言われ、手を止めた。


 「気づかないのかよ、これだけで気づいたら怖いけどな。俺は……ガルはオグルなんだよ」

 「は? でも、さっき俺が殺したんだぞ。あれは誰なんだよ」

 「オグルだよ、自我のないな」

 「どういうことだよ」

 「俺は探してたんだよ、お前をな」


 俺……オグルが死んだ時、死を自覚した。でも、自分が誰かわからなかった。

誰かに話しかけみても、俺を無視して通り過ぎていく。触れようとしても空を掴むだけだった。

そんなある日、気づいたんだ。自分の体をもう一度使おうと……。自分のことはわからないのに墓の中にある体の場所は分かっていた。当然、自分の名前があって全部記憶を思い出すことが出来た。

 何度か体を使おうと挑戦したら案外簡単にうまくいった。でも、そんなの続く訳がなかったのだ。

数日たったら、自分の体が言うことを聞かなくなってきた。最終的には追い出されたよ、自分の体からな。

体は暴走を始めた。俺は止めるために魂が憑りつきやすい人を探したよ。で、こいつにうまいこと乗っ取れたんだ。仮の体だけでは俺の体は止められない。その時、サラと偶然出会って助けを求めちまったんだ。その結果がこれだ。最後の望みをかけてお前を見つけたんだよ。


 「でも、オグル」

 「なんだよ」

 「魂が入ってないのにどうやって動いていたんだ? 動力源がないと無理だろう」

 「最初は俺のを、消えてからはサラのを使っていたんだろうな。サラのは俺のと違って新鮮なものだったからな」


 だんだんと状況が理解できてきた。だが、何故オグルは魂となってもこの世にいるんだ?


 「お前達に会いたかったのだよ」

 「え?」


 オグルはこちらの考えを読んだわけではなかったようだ。心の声が漏れたのかと焦った。


 「でも、こんなことになっちまった。ホントごめんな」

 「……お前は俺の親友だ、そのことは忘れんな」

 「なんだよそれ。話、かみ合って、ない、じゃん、か」


 オグルは片腕で顔を覆いながら雫を落とす。


 「泣いている場合かよ」

 「わかってるよ!」


 恥ずかしくなったのか、顔をすぐに拭った。


 「で、いま何してるかちゃんと教えろよ」

 「生き返らしてんだよ」

 「やっぱりな。で、代償は?」

 「俺の魂だよ、俺が元凶なんだから責任は俺がとる」


 オグルは我を通す強い瞳をしていた。でも、オグルはもう死んでいる。死んでいるのに代償にするということは存在を全て消すということと同じことだ。


 「お前は、それでいいのか?」

 「お前らが一生覚えていてくれるんだろう?」

 「当たり前だ」


 そう言うとオグルは、嬉しそうに微笑み、周りが白く輝きだした。

あっという間に光の中に包まれる。オグルを見ると元のあの頃の幼い姿で笑っていた――――――







 『頑張れよ、オレの心友』






♢◆♢◆♢◆♢◆



 目を覚ますとそこはあの教会の地下ではなく、村の近くの原っぱだった。

隣を見るとサラがいる。慌てて生きてるか確認すると、氷のように硬かった体は温かくなっていた。

安堵の息をつき、サラの温かくなった顔に触れる。


 『約束だよ、絶対だよ……待ってるからね』


 「長い間、待たせたよな。お前は分かっていて待っていてくれたんだな。背の問題ではなかった事」

 

 「うん、だってわかりやすいんだもの」


 眠っているはずの彼女の唇から言葉が出てきた。

驚いて固まっているとサラは昔の頃から変わらない笑い声をあげながらゆっくり起き上がった。


 「ねぇ、あの時の告白もう一度やって?」


 彼女は臆病者の俺にチャンスをくれた。きっとこれが最後のチャンスだろう。


 『頑張れよ、オレの心友』


 わかってるよ、もうごまかさない、逃げない。


 「サラ、好きだ」



 君との約束を果たそう―――――































 甘い雰囲気が漂う原っぱを見つめる影。


 「あーあ、せっかく機会を与えてやったのになぁ。まぁ、代償は沢山手に入ったからいいけどね~」


 幸せムードの場には似合わないほどの冷たい視線が二つの姿を見る。

 影の姿が少しずつハッキリとし、人の姿になった。


 「おしゃべりおばさんって案外難しいんだぁ~。やりにくいし、今度から違うので監視しよう~」


 影の正体が不気味に微笑む。


 「――――さぁ、次は誰の魂をいただこうかなぁ~」 

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