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収穫  作者: 時帰呼
5/17

教師

学園へ来てから、初めての授業。

先生は どんな人なんだろう?


エリスは 悪戯っぽく笑って、教えてはくれなかった。


食事は 滞りなく終わった。

もっとも、繚子は それほど食べることは出来なかったのだけれど。


それにしても、たかが学園の寮の朝食だというのに あの豪華な料理の数々は なんだったのだろうか。


手の込んだサラダに始まり メインの肉料理と 山盛りに盛られた様々なパン、大皿に盛られたパスタにフルーツ。そして、デザートと香り高い紅茶。


以前住んでいた街の 並みのレストランでは とうてい取り揃えられない新鮮で珍しい食材の数々に 繚子は 驚かずにはいられなかった。


「あー、お腹いっぱい♪」


繚子は 先程からの疑問を投げ掛けようかと思ったけれど、 お腹を なで満足そうにしている どう見ても普通の少女としか感じられないエリスに そんな質問をするのは 馬鹿げたことのように思えて 開きかけた口をつぐんだ。


「あまり食べなかったね」


エリスが 地下ホールから上階への階段を昇りながら 少し心配そうに言った。


「うん、なんだか びっくりしちゃって…」


「朝から ちょっと豪華だったでしょう? でも、気にしないで 食べればいいのよ。 どうせ、食費はタダだし、この学園の教育の第一目標は 健全な食育。 なにしろ、学園の校訓は『健全な精神は 健全な肉体に宿る』なんだから」


「なに、それ?」


「ね、時代錯誤もよいとこでしょ? 笑っちゃうわ」


エリスは クスクスと笑いながら、先立って 繚子を案内してゆく。 間も無く 古めかしい扉の前にたどり着いた。


「ここが、貴女の教室。 さ、入って」


そう言って、エリスは 扉の前から身を避けた。


「同じクラスじゃないの?」


エリスは 笑顔のまま言う。


「アイリーン先生も言っていたでしょ? この学園の生徒は、それぞれの個人プログラムに沿って生活するの。 それに私は一学年上だから 貴女と私とは 別の教室 」


…と言うことは、個人教授が基本だと言うのだろうか。 それとも、ずっと一人きり?


「大丈夫。 すぐ慣れるから。さぁ、どうぞ」


仕方なく 繚子は 扉の前に立ち、おそるおそるノックした。


「入りたまえ」


抑揚は無いが毅然とした男性の声がした。

繚子は ドアノブを捻り 足を踏み入れる。


古色蒼然とした たぶんアンティークの落ち着いた薄い緑色の小花模様をあしらった壁紙と黒光りするほど磨きあげられた木の床。


その古色蒼然とした教室の真ん中にポツリと置かれた こじんまりとしているけれど 使い勝手の良さそうな これまたアンティークと思われる机と椅子。


その向こう まだ早朝の光をふんだんに採り入れている窓の近くに 逆光を背にして、ぴしりとスーツを着こなした男性が立っていた。


「セイだ…」


男性は、感情を込めずに そう自己紹介をした。


(セイ?)


男性は 続けて言った。


「先生のセイでもなければ、学生のセイでもない。 今日から お前を教育する担任のセイだ」


混乱。 混乱。 混乱。


混乱という単語しか 頭に浮かばない。


「セイ…ですか?」


「教師を 呼び捨てにするとは感心せんな。 慣れない学園生活で 緊張しているのは分かるが…。 まあいい、とにかく座りたまえ」


セイ…、セイ…、


昨夜、私の部屋の窓辺へ訪れた少年。

そして、今 目の前に立っている どう見ても30歳は越えていると思われる男性。


(偶然の一致…?)


けれど、その顔には あの不思議な少年の面影があるようにも思える。


繚子が まじまじと セイと名乗る教師の顔見つめていると、不意に 彼は眼を反らし、手にしていた教鞭で 彼女の机を カツカツと叩いた。


「私は、座りたまえ……と、言ったはずだがな?」


「す、すみません!」


ガタゴトと盛大な音をさせて 急いで席に座る。


「物覚えが悪いようだが、一度しか言わんから心するように。

私の授業は 教科書もノートも無いから、そのつもりで。 全部 頭に叩き込んでもらう」


(そんな、御無体なッ!?)


繚子の混乱は 更に拍車がかけられた。







「…で、どうだった?」


初めての授業が終わって、教室の一歩外に出ると エリスが 悪戯っ子のような笑みを浮かべて 待ち構えていた。


「どうって、もう うんざり…」


「初めは そんなもんよ」


エリスは セイ先生の教え方を知っているだろうに、さも 事も無げに そう言う。


「え~、でも 二時間も ぶっ続けで授業なんて 信じられない!!

それに……」


そこまで言いかけると、エリスは 私の手をつかみ 小走りに走り出した。


「とりあえず トイレね。 それから あとは 学校の案内をしてあげる」


繚子は 頬が赤くなるのを感じたが、今は それが 最重要課題だと察してくれたエリスに感謝した。





「学校の案内って、授業は?」


用を足して 個室から帰還した繚子の質問に エリスは答えた。


「今日のところは、これでお仕舞い。

そんなに 物足りなかった? セイ先生の授業は」


繚子は、首を振って否定した。

確かに 丁寧で 分かりやすい授業ではあったが、質問も 受け付けられずに 二時間も ただ座ったままなんて拷問に等しいとしか言えない。



「そんなことより、繚子には、先ず 学校の構造を 頭に叩き込んでもらわないとね。 なにしろ だだっ広いから 迷子になったら大変でしょ?」


エリスが またもや 悪戯っ子の笑みを浮かべ 繚子の手をとり ぐんぐんと歩きだした。



セイ…、セイ…、


あの少年は 誰だったのだろうか?


また 会えるのだろうか?


それとも、あれは 夢だったのだろうか?




繚子の始まったばかりの学園生活は 奇妙な出来事に満ち溢れていた。



To be cotinued……


変わった学園だとは思っていたけれど、ここまで 変なんて思わなかった。


唯一の慰めは エリスと…


あの謎の少年。

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