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第六話 魔法少女兵装だ! 超恥ずかしい!

 波の音、潮の香りが懐かしさを抱かせる。

 学校があったのは港町だったのだ。チャルやペティオは元気にしているだろうか……

「リンさん、どうしたの?」

「あ、ミュウちゃん。ちょっと故郷のことを思い出しててねぇ」

 他の同行者、キャロルさんとクリムさんは、船の調達に行っている。ユーカリアさんはお留守番だ。

 わたしたちは今、巨人国キアルゴラへと巨人退治に向かうため、港へと来ているのだった。

 アホな勝負のためなのであるが、わたしにとっては、頂いた神器付きの魔道具アーティファクトの練習の場でもある。

 巨人が練習相手というのも無茶に思えるのだが、キャロルさん曰く、雑兵レベルの巨人なら余裕とのこと。ほんとかな?

 巨人は、その名の通り巨大な人型の怪物だ。人の数倍の身長があり、強靭きょうじん体躯たいくから繰り出される攻撃は強烈であり、異常に頑強である。さらには魔法まで使いやがる……

 ホントに大丈夫なのだろうか? 自国だと銃兵一ダースで一体倒せるかどうかくらいなんだが。

「わたしも戦う」

 唐突にミュウちゃんが、そうこぼす。

「ミュウちゃんも?」

「これがわたしの武器」

 ミュウちゃんが取り出したのは、巨大な銃であった。ただ先端に穴が無く、五つの懐中電灯を束ねたような変わった形をしている。

「銃? ミュウちゃんが作ったの?」

「わたしと師匠の共同作品。能力は、本番で見てのお楽しみ」

 不敵な笑みを浮かべるミュウちゃん。

 初めて見る笑顔なんだけど、それがこれとは……

「師匠も当然神器を使うし、キャロルさんも武装してた。一人で戦うわけじゃないから、安心するべし」

 指を立てるキャロルちゃんに、なんか気持ちが救われた気がした。

 何だかんだで緊張していたみたいだ。それをミュウちゃんに気付かれて、気を使わせてしまったようだ。

「ありがとう、ミュウちゃん」

 わたしも親指を立ててミュウちゃんに返す。

 キャロルさんとクリムさんが戻ってくる姿が見えた。船がチャーター出来たのだろう。

 いよいよ出発だ。


 妖精国の海を渡るのは今回で二回目だが、何度見ても幻想的な雰囲気だった。

 淡い色の海が一面に広がり、潮の匂いと甘い匂いがまじりあった不思議な芳香が、鼻をくすぐる。

 船と並走している生き物の姿も見える。今回はクジラではなく、イルカの群れであった。

 今乗っている船は妖精国産の船で、帆船のような形状をしているが、帆は無く、魔道具アーティファクトの力で動いている。

 漏れ出る精霊力の明かりが、幻想感をさらに引き立てている。

「リンちゃ~ん、どしたの~? こわい~? お姉さんが癒してあげようか~」

「いえ、景色に見とれてただけですから」

「乙女なリンちゃんも可愛いわ~」

 何言っても無駄かなーと思い、わたしに抱き付いてきたキャロルさんの、好きにさせておく。

「リンさん、キャロルさんと仲いいんですね」

 なんか、ミュウちゃんに微妙な距離を取られてる気が……

「いやいや一方的に抱き付かれてるだけだから。気にしないでね、ミュウちゃん」

「大丈夫よミュウ。あなたにはわたしという師匠がいるんだから!」

「残念です」

「なにがよー」

 クリムさん、ミュウちゃんに遊ばれてるな~。

 ふいに、キャロルさんが真顔になる。

「クリム、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「あなたって、ミュウちゃんと……抱き合ったこと無いの?」

「ぶっ!?」

 キャロルさんの質問に、わたしが吹いてしまった。

 その聞き方だと、わたしが誤解されるわ!

「ミュウちゃん違うから! キャロルさんが、勝手に抱き付いてきてるだけだから!」

「大丈夫ですよ、わかってますよ」

 なんか、ミュウちゃんがイヤラシイものでも見るかのような半眼で、こっちを見てるし。しかも、相対距離がさらに遠くなってるし。

「そ、そうよ! わたしだってミュウと毎日抱き合ってるし、一緒に寝てるわ!」

「師匠、嘘付いてまで、変なことに闘争心燃やさないで下さい」

 ミュウちゃんの所は、まだ普通なのか。

「ふっ、勝ったわよリンちゃん」

「わたしも! 変な勝負に巻き込まないで下さい!」

 思わず全力で振り解き脱出する。

「お疲れ様です、リンさん」

「ありがとう、ミュウちゃん」

 ミュウちゃん、距離が離れていても優しいな。

「ああ、リンちゃんがミュウちゃんに盗られる~」

「哀れね、キャロル」

「あなただってミュウちゃんとキスとか出来てないでしょ」

「え!? あんた、まさかそんな師弟で……」

 クリムさん、視線が痛いです。

「わたしは、キャロルさんとキスとかしてないですから!」

「わたしとなら、いいの?」

「え!? ミュウちゃん?」

 いきなりミュウちゃんが参戦してきた!?

「ええっと、ミュウちゃん……は、可愛い……けど……」

「けど?」

「いいわ! ミュウ。わたしとキスしてキャロルたちに見せ付けてやりましょう!」

「師匠、それはまた今度」

「ミュウゥゥゥゥ~」

 クリムさん、手玉に取られとる。

 というか、ミュウちゃんの視線がずっとこっち見てる~。逃げられない。

「ああもう、いいわよ! ミュウちゃんならオッケーで!」

「よし」

 ガッツポーズのミュウちゃん。

 何なんだ、この展開は……

「リンちゃんんん~」

「ミュウゥゥ~」

 キャロルさんとクラムさんの悲痛な鳴き声が、船上に響き渡るのであった。


 妖精国イシュフィーン巨人国キアルゴラの国境線を通過した。

 国境線の色や規模自体は、自国ファルプス・ゲイルのものと変わりは無い。

 そこを通過すると、海の色はわたしの国のものと同じような色となり、匂いも、潮のものしか感じられなくなった。

 今までが賑やかで綺麗な世界であったためか、それとも、巨人という怪物がいるという恐怖からか、辺りはとても静かで、薄暗い印象を受ける。


 しばらく進むと、陸が見えてきた。

 ここまで来ると、会話は減り、みなの緊張感も増してくる。

 船は静かに接舷した。

「さて、みんな準備はいい? ここはもう巨人国キアルゴラの領土内よ」

 クリムさんは箱だけ持っている。他の武装は無さそうだ。

 ミュウちゃんは例の巨大な銃モドキを構え、無言で周囲の様子を伺っている。

「リンちゃん、ステッキの準備していてね。今日の主役はあなたなんだから」

「なんか、緊張してきますね」

 おもちゃのようなステッキに視線を落とす。これの使い方は聞いている。コマンドワードを唱えれば力が発揮されるとか。

 キャロルさんは、わたしの国でも持ってた銃を片手に持ち、もう片方に持った手鏡のような魔道具アーティファクトをのぞき込んでいた。索敵能力がある道具だ。

「さっそく、船の接舷に気付いたらしい個体が二体、近付いてきているわね」

 もう来たのか!

「早いわね。こっちも準備しておきますか」

 クリムさんが何やらつぶやくと、両肩のアクセサリーが外れ、宙に浮いた。

 それらは、クリムさんを守るように、その周囲を回っている。

「うん? リンちゃん、この魔道具アーティファクト気になる? これはわたしの自信作、自動迎撃システム、ファランクスよ」

 自動ということは、一種の魔法人形ゴーレムなのだろう。神器付きの魔道具アーティファクト以外にも武装を使うのか。

「キャロルさん、敵の距離は?」

「かなり近いわ。……もう、すぐ……右の岩陰から……来た!」

 キャロルさんの声と同時、右の岩陰にかけられた手が見えた。それも、人間よりも遥かに高い位置で。

 そして岩陰から現れる体――大きい……。

 初めて見る巨人、それは体調五メートルを超える大きさに、たくましい体躯。その手にはこん棒が握られていた。あれで殴られたら、人間なんてひとたまりもないだろう。

 天翼種ルーファレティウスに会ったときは、人間大だったこともあり、姿形への恐怖は抱かなかったが……これは……。

「リン! 急いでステッキを発動させて! さらにもう一体来るわよ!」

 キャロルさんが銃を構え、最初の一体へと発砲した。

 エネルギー弾は巨大なその体をのけぞらせる。

 戦闘開始だ!

 間髪入れず現れた二体目の巨人は、わたしたちを明確な敵と認識したのか、まっすぐこちらに走ってくる。

 今度はミュウちゃんの武器が輝き、そこから五つのエネルギー弾が撃ち出された! それらが巨人に襲い掛かる。

「ファランクス! 一号! 二号!」

 クリムさんのファランクスたちからもエネルギー弾が撃ち出され、一体目の方にに突き刺さった。そこにキャロルさんの銃弾が追い打ちをかける!

 わたしも見ているだけじゃない!

「メイガス! ヘブンゲート開放!」

 わたしのコマンドワードに呼応するように、神器のかけらが光り輝く!

 ステッキのハートからあふれ出たピンクのリボンが、わたしを包み込む。それは衣装へと変化する。

 その間も、キャロルさんたちの集中砲火は続いていた。

 変身が終わる。

 ピンクの衣装に白いフリルのスカート。赤いリボンに背中から生えた羽。

 ステッキは伸び、ロッドになっていた。

「やった! 完成よ! マジカル少女リンちゃん!」

「なんですか!? その恥ずかしいネーミングは! ていうかスカート短っ! これめちゃくちゃ恥ずかしいですよ!」

 なんだこれ!? なんだこれ!?

 わたしもう十四歳だぞ! こんな小さな女の子のごっこ遊びみたいな衣装!?

「ええい! 巨人が邪魔しなければ、もっと嘗め回すように堪能できたのに!」

「キャロル! あんた神器でなんてもの作ってるのよ! 完全に趣味じゃない!」

 クリムさんの言う通り、百パーセント趣味だろう……キャロルさんの。

「リンさんは可愛いから大丈夫」

「ミュウちゃんありがとう、けどその励ましが痛いよ」

 ああ、もうこれどーするんだ?

「さあ! リンちゃん! 恥ずかしがるだけじゃなく、やっちゃいなさい!」

 キャロルさんが、巨人たちに向けて指をさす。

「やるって……どうすれば?」

「えいって言って、巨人に向かってロッドを振ってみて」

 えっとぉ……

「えいっ」

 振り出したロッドから、ハートマークのエネルギー弾が高速で飛び出した。

 それに当たった巨人が後方に大きく吹っ飛ぶ!?

「すっごい威力……」

「ふふふふっ、神器に蓄えられている高圧縮の精霊力を、そのまま撃ち出せるようになってるのよ」

「そのまま? めっちゃハートマークに加工されていましたが!」

 威力は凄いと、認めるけど、これは……

「リンちゃん、見た目は大事よぉぉ~」

「やっぱ、趣味丸出しじゃないですか!」

 凄いのかダメなのか、うちの師匠は分かり難いわ!

「ほら! そこ! 漫才はそこまでよ!」

 クリムさんがたしなめつつも、ファランクスを撃ちまくって、巨人たちをけん制している。ミュウちゃんも、多段型エネルギー砲を撃ちまくっていた。

「ええいもう! やってやるわ!」

 この際、服装とか忘れて全力でやってやろう!

 ロッドを何度も振りまくり、ハート弾をいくつも撃ち出す! やっぱり見た目が無駄にかわいくて、場違い感が凄いわ~。

 わたしたち四人の集中砲火に、巨人たちは何も出来ず、次第に動きが鈍っていく。

「とどめ!」

 最後に、わたしのハート弾を受け、巨人たちは落ちた。

「おわったー」

「お疲れ! 初陣は完ぺきだったわね!」

「はい、巨人たちが思ったよりもあっさり倒されてくれて、良かったです」

 ほんと、怖がりまくっていたのがバカみたいだ。

「巨人たちが弱かったんじゃないわ。その魔法少女兵装が凄いのよ」

「なんですかその、冗談みたいなネーミングは」

「魔法少女兵装は、言ってみればエネルギー弾発射機能付き、超強化服なのよ」

「はあ……」

「装着者の魔法技師アーティファクターレベルを大幅に上げて、身体能力等々、底上げしているのよ」

「めっちゃ強いブースターなんですね」

 たしかにこの姿だと、スピードも精度も、普段からは考えられない程のレベルまで引き上がっていた。

「お疲れ様ね、キャロル、リンちゃん」

 クリムさんがこちらに寄って来た。

「あんた、結局神器使わずに終わったわね」

「ファランクスでどうにかなっちゃったからね。これは強敵用だから、もっと高レベルの巨人が出てきたときに見せてあげるわ」

 結局、あの箱型魔道具アーティファクトの性能は見れなかった。

「師匠、それはフラグ」

 ミュウちゃんの淡々とした指摘にハッとなる。

「そうですよ、クリムさん。そんなこと言ってると、何か凄いのが来ちゃいますよ」

「それこそ願ってもないことよ! さあ、くるなら来い!」

 めちゃくちゃやる気のクリムさん。

 キャロルさんは、また手鏡型の索敵用魔道具アーティファクトを覗いた。

「ちょっ! ヤバいのが来たわよ! 空間転移テレポート確認!」

 空間転移テレポート!? 上級の魔法じゃないか!

 わたしたちの倒した巨人の横に、ひときわ大きな体躯が現れる。

 今度は、七、八メートル程あろうか。斧を持った巨人だ。空間転移テレポートを使えるのだ、高位の魔法使いでもあるのだろう。

「さあ、やることは同じよ! やっちゃいましょう!」

 クリムさんのファランクスがエネルギー弾を撃ち出す!

 キャロルさんも、ミュウちゃんも、それに続く。

 わたしも撃ち出そうと身構えた瞬間、消えた! 空間転移テレポートか!

「リン! 避けて!」

 キャロルさんの叫びに気付き、後ろを振り向く。

 そこに、斧を振り上げる巨人の姿が――

 避け切れない! わたしが思わず頭上で交差させた腕に目掛け、巨人の斧が振り下ろされる!

 切断される! そう覚悟した瞬間、腕に衝撃が走った。

 死んだ。

 そう思い、目を開けると……わたしの腕は、斧の攻撃を受け止めていた。

 物凄い痛いのだが、腕は切断されてない。あんな巨体が振り下ろしたのに?

「思った以上! その衣装には強力な防御力、それこそ魔力の込められたオリハルコンの鎧以上の強度があるのよ!」

 こんなピンクのひらひらが、そんな強度とは……

「キャロルさん! これ、最高の衣装です!」

 言うと同時に、反撃! わたしはロッドを思いっきり振りかぶって、巨人をどつき倒した!

 わたしの数倍ある巨体が、後ずさった。

「腕力も凄くないですか!? これ!」

「そうよ、全能力底上げ性能よ!」

 見た目はあれだけど、さすが世界最高の魔法技師アーティファクター! さすがである。

「このまま一気に、押し倒す!」

「封印の檻よ!」

 わたしがロッドを振り上げた瞬間、クリムさんの声が響き渡った。

 巨人が光に包まれ、クリムさんの持つ箱に付いている神器のかけらに、その光が吸い込まれていく。

 光が消えると、巨人は消えていなくなっていた……

「えっと……」

 キャロルさんが、口を金魚のように開け閉めさせながら、クリムさんの箱を指さした。

「封印箱。強力な存在でも何でも、封じてしまう究極の魔道具アーティファクトよ」

 誇らしく胸をふんぞり返らせるクリムさん。

「師匠グッジョブ。わたしたちの勝ち」

 へ?

「えっと、ミュウちゃん、なんで……」

「最強の敵倒したのは、師匠の魔道具アーティファクト

「ええええっ、わたしだって善戦してたし!」

「けど、とどめ刺したの師匠」

「それは……」

「師匠、グッジョブ」

 ミュウちゃんが親指を立てているのを見ながら、あれ、わたしたち負けたのかー。

「キャロルさん……」

「うーん、そーなる、よねぇ……うーん、美少女ハーレムが……」

 ハーレム……そいえば、そんな賭けだったな。

「というわけで、これからよろしくね。リンさん」

 クリムさんの明るい笑顔に、思わず絶望する。

 負けたあああぁぁぁ! わたし、クリムさんの好きなようにされるのかあああぁぁぁ!

 絶望するわたしとキャロルさんの前で、クリムさんとミュウちゃんが踊りまくるのだった……

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