第九話 有翼人との戦い その二
「ふぉいや!」
問答無用で魔力弾を撃ち出す。
フレイアはそれをあっさりと飛んで回避。
「ならば、拡散のファイヤー!」
ロッドから打ち出される無数の弾道。
フレイアは高速で飛び去り、全弾の軌道から逃れる。
攻撃は当たりはしなかったが、一時追いやることは出来た。
「ユーカリアさん、みんなの容態はどう?」
「痛みはひどいけど、大丈夫よ……」
「キャロルさん……よかった」
クリムさんも目を開けている。二人は大丈夫そうだ。
ミュウちゃんは、まだぐったりとしているけど。
上空を見上げる。
フレイアはそこで旋回していて、攻めるタイミングを計っているようだ。
「ユーカリアさん、みんなを病院に連れて行って」
上空から視線を戻さずに、指示を出す。
「リン様も退いた方がよろしいかと」
「みんなで逃げたら、あいつに追撃されちゃうわよ」
あいつ――フレイアを指さす。
「リンちゃん、あいつに勝つのは、まだちょっと厳しいかもだよ」
「勝つまでいかなくても、あっと言わせてやりたいんです」
「そう……」
「それに、まだ奥の手が二つばかりありますから」
「奥の手? あー、一つは効果ありそうだけど、もう一つは不確定要素が大き過ぎるわよ」
奥の手というだけでキャロルさんは理解してくれたようだ。
「リン様、ではこれを」
ユーカリアさんが例の箱、というかレッドちゃんを渡してくれる。
ユーカリアさんも察してくれたようだ。
「リンちゃん、わたしを信じてくれているのね」
レッドちゃん、白々しいな。
「信じれるかというと微妙だよねえ」
「ひっどい! わたし、リンちゃんのこと、こんなにも愛してるのに!」
「面白がってるだけでしょうが!」
まったくこの子は。しかし、ほんとにこれ信じられるのかな?
「ユーカリア、リンちゃんの邪魔になっちゃ悪いし、連れて行ってくれない?」
「かしこまりました、キャロル様」
ユーカリアさんは、ミュウちゃんを抱きつつ、キャロルさんとクリムさんに肩を貸して、歩き出した。
「みんなお大事に~」
「リンちゃんも、無茶はほどほどにね~」
キャロルさんのあいさつを背に、フレイアへと向き直る。
なんというか、律義に待ってくれていた。ありがたい。優しさというより、舐めているだけなんだろうけど。
「さーてと、いくわよレッドちゃん!」
「がんばれリンちゃん~」
レッドちゃんの言葉は真意がまるで分からないので、どーにも困る。
そう思いながら、一気に上昇する。
ちょっと無理してみるかな?
精神を集中し、自身を鼓舞する。【狂戦士】の力だ。
「いっくわよー! 拡散の、ファイヤ!」
複数の光弾が高速で飛んでいく、それも、先ほどより速く!
速度差に意表を突かれたか、高速回避するフレイアに二発の光弾が着弾した!
「やった!」
こちらを睨みつけるフレイア。
かざした手のひらから、光の矢が撃ち出される!
攻撃に全力投球してたため、回避行動はとれない。光の矢がわたしの体に突き刺さる。
上方から撃ち込まれた衝撃が激しく、一瞬意識を失いそうになるも、歯を食いしばり、耐える。
「ファイヤ!」
今度は、全力の一発魔力弾だ!
フレイアはそれを難なく横に飛び、かわしてしまう。
そのまま進行方向をこちらへと変え、わたしの方へと突撃してくる。やばっ! 速いって!
避けるのは諦め、箱を前に突き出して受けの姿勢をとる。
「ちょっと~!?」
レッドちゃんの抗議は無視。
突き出される巨大な槍の一撃が、箱ごとわたしの腹を強く打ち、激痛が走った。
耐えきれず、そのまま地上へと落下する。
粉塵を巻き上げ、背中へと強い衝撃が走った。
何かが口から噴き出す。呼気か、胃液か、それとも血だったのか。良くは分からなかった。
なんとか目を開けてみると、箱はまだ健在のようだ。さすがは神器を使った魔道具めっちゃ硬いね。
空を見上げると、槍持つフレイアと、そのフレイアとの激闘が気になったか、複数の有翼人が集まってきていた。
フレイアは、槍の穂先をこちらへと向け、最後の攻撃を放とうとしている。
来るか?
思った瞬間、フレイアの姿が一気に迫ってくる!
やれるか!?
わたしは、箱ではなくロッドを槍に向けて突き出した。
槍が当たった瞬間、腕が折れるのではないかという衝撃が走ったが、必死に両腕で支えて耐える。
亀裂が入る音が、聞こえた。
一つ、二つと、ロッドにヒビが入る。ロッドに付けられた神器のカケラにも。
そして、神器のカケラが乾いた音とともに、砕け散った。
そこを起点として、一気に白い光が膨らみ、わたしの視界は真っ白になった。
両腕は支えきれなくなり思わず手を離してしまう。ロッドはどこかへ吹き飛んでしまった。
何も無くなった両腕で、思わず目を覆う。
ほんの数秒ではあったが、ものすごく長く感じられた。
光が消えたと感じ、両腕を外した空は、真っ暗だった。
そう、視界内に有翼種はいなくなっていた。
「やった、かな?」
「まだみたいよ~リンちゃん」
レッドちゃんの警告。
大地を踏みしめる音、それもかなり近い場所で聞こえた。
「きさま、何をした?」
防具がボロボロになり、体中から血を流してるも、いまだ健在のフレイアさん。頑丈だなこの人。
「わたしと、リンちゃんの愛の奇跡が起きたのよ~」
「レッドちゃんは空気読んで!」
レッドちゃんは、どんな状況でもレッドちゃんだ。
フレイアはレッドちゃんはガン無視だ、よかったー。
「奥の手その一、神器のカケラの本来の使い方らしいけど、ぶっ壊すと、溜まっていた精霊力をいっきに噴き出すみたいなの」
言いながらも、周囲の状況を確認する。
上に向けてぶっぱなしたから地上に影響はない。
残っている有翼人は数人と言ったところか。あれに耐えるのがまだこんなにいたんだな。
フレイアはわたしを一瞬睨みつけたが、すぐに笑顔に変わる。
ロッドが砕け散り、わたしの変身も解けている。
大損害ではあるが、少なくとも勝てると思ったのだろうか?
だが、まだ奥の手第二段が残っている。一番使いたくなかった不確定要素満載な手だけれども、仕方ない。
手に持った箱をフレイアに向ける。
フレイアは何かと首をかしげている。
「レッドちゃん、悪いことしないでね! 信じてるから!」
レッドちゃんからの返事を待たず、箱を開けた。
勢いよく、黒い塵が噴き出す。ナノマシン群だ!
「やったーっ! 数日ぶりの外だー!」
周囲にレッドちゃんが吹き荒れる。
フレイアが光の矢を放つ。ナノマシン群の一部が吹き飛ぶが、すぐに再生されてしまう。
「無駄だよ有翼人、そんな攻撃じゃあ殺されてやれないよ~」
巨大な顔となったレッドちゃんが現れ、フレイアをバカにする。
フレイアでも、レッドちゃんをどうこう出来ないのか。
「ではでは、リンちゃん。本当はわたしを封印した奴ら皆殺しにしたいところだけど、リンちゃんの可愛さに免じて、勘弁してやろう。それでは、また会う日まで! さようなら~」
巨大な顔が細かく分かれ、すべての粒がどこへともなく消えてしまった。
運良く、何も悪させずに消えてくれたようだ。
さて。空になった箱をフレイアに向ける。
「封印の檻よ!」
わたしの言葉に応え、宝石が輝き、フレイアを飲み込んだ。
フレイアは、何の言葉も発せず、クリムさんの魔道具へと吸い込まれていった。
「なんとかなった……奥の手第二段」
上空にいる残りの有翼人。まだ地上にはうちの国の軍が残っている。
満身創痍の状態で多勢に無勢では不利と悟ったか、そのまま消えてしまった。
「終わったー」
体中痛いし疲れたしでもう限界~。
そのまま地面に倒れこみ、そのまま意識が薄れていった……
「お疲れ様、リン。大金星よ」
キャロルさんはパンをひと切れ口に入れ、それを紅茶で流し込んだ。
「すみません、ステッキを壊しちゃったし、レッドちゃんも逃がしちゃって」
まだ寝起きで頭がぼーっとしてるが、目の前にあるハムステーキがおいしそうだったので、ソースを絡めて口へと運んだ。
意識が戻ったのはついさっき、どうやら次の日の昼まで寝っぱなしだったようだ。そう、ユーカリアさんが教えてくれた。
リビングに来てみたら、寝起き早々、今から戦勝パーティーをしようとかで、そのまま食事が開始されたわけだ。
お腹も空いてたし、丁度よかった。
「リンさん、あんまり無茶はしないで下さいね」
「ごめんごめん、今度からなるべく無茶しないようにするから」
ミュウちゃんに怒られてしまった。
「ステッキはまた作ればいいし、星界人もまあ、なんかあったときに考えればいいし」
「そうそう、箱もあんたのとこに置いといてあげるから」
リビングに、例の箱は飾られていた。レッドちゃんみたくしゃべることは無いけど。
「そう言ってもらえるとありがたいです」
言って、鳥の揚げ物にかぶりつく。骨付き肉ってジューシーでおいしい。
食べてると、意識がハッキリしてくる。温かい食べ物が胃に流れ込むと、力が付いてくる感じだ。
「キャロルさん、また同じの作るんですか?」
「そうよ。一週間もあれば出来ると思うけど」
「衣装は、もーちょい地味でいいですから」
「任せといて!」
任せていいのかな?
それから一週間、さらに魔法技師としての修行に励んだ。
一週間後、予定通りにステッキは仕上がっていた。
さっそく変身してみる。
「えっと、これは……」
「ちょっと大人びた感じにしたわ!」
「ほぼ、変わらないじゃないですか!」
結局、ピンクのフリフリのままであった。ちょっとフォルムがシャープになったかな?
デザインを具体的に指示するべきであった。
「似合ってるからいいじゃない」
「この年で、やっぱ恥ずかしいですって」
キャロルさんもやっぱりキャロルさんなんだな。
わたしは、キャロルさんとユーカリアさんに考えを打ち明ける。
第一目標がフレイア討伐であったこと。それが以外にも、こんなに早く叶ってしまったということ。
そしてやはり……自国が気になるということ。
最後の日、キャロルさんやユーカリアさん、クリムさんにミュウちゃんまでみんな港まで来てくれていた。
みんなで港に来るのは巨人退治以来だな。
「リンさん、また遊びに来てくださいね」
寂しそうなミュウちゃんの頭をなでてやる。
「また来るから」
「キャロルさん、ユーカリアさん、今までお世話になりました! それと、フレイアの面倒よろしくお願いします」
最初は連れて行こうかなとも思ったが、しゃべることのない箱を持っててもしょうがないし、それに……
「奥の手無しに勝てるまで強くなったら、また来ますんで!」
妖精国へまた戻ってくる口実にもなるし。
みなに見送られ、船は出発した。
さて、気持ちを切り替えよう。
結構長いことこちらにいたな、チャルやペティオはどうしてるかな?
うーん、あの変身見られたらからかわれそうだなー。
いろいろな思いを胸に、故郷へと向かうのであった。
これでこのお話は終わります。
見て下さった方、ありがとうございます。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。