6話
ミストは私に近づいてきた。
「泣かないで、リーア。君には真実を教えてあげる。私を倒そうなどど考えないことだよ。私が死ねば、私が作った人形たちも死ぬ。君は一人になる。」
一人になることは除き私の心が折れているのに貴方を倒せることができるはずがない。
もう、どうにでもなればいい。
深い闇に囚われる。
「オーリア。」
抱きしめてきたのは、ミスト。
レリスとデドルは私の手首を強くつかんだまま。
二人が慰めてはくれないの。
手首の色は紫に変色してきている。
そんなことどうでもいいか。
何もかも放棄した。
ミストは私を抱きしめ、それを解いてから、私が向けていた視線の先を見た。
「あぁ、ごめんね。痛かったね。リーアを掴む手を離していいよ。レリス、デドル。」
彼らの手が離れてから、ミストに癒される。
手首の紫色は何事もなかったかのようになくなった。
「リーア。ここに座って話そうか。真実を……。」
ミストは大きな木に寄りかかる。
その腕に私を抱きしめながら……。
始まりは一人の人間の恨みや憎しみからだった。
大切にしていた娘が奪われてからだった。
娘には恋人がいた。
娘はその人を心底愛したんだ。
彼を愛したんだ。
その幸せが続くと彼は信じていた。
結婚することを約束していた。
その未来が確定していることとして、二人は幸せに満ち溢れていた。
しかし、その幸せは壊された。
一人の男によって……。
彼は娘に一目惚れした。
娘の視線の先にいる男に嫉妬した。
その目線の先が自分のものであって欲しいと思ったのだろう。
娘を精神的に陥れた。
娘の心が一人で立っていられないくらいにボロボロにしたんだ。
今のリーア以上にね。
娘が心を壊した理由は親が騙されて借金を作り、暴力をふるったことだったり、売春されられたことだった。
好きなものがいたのに愛の伴わない行為を強要された彼女の心は疲弊した。
悲鳴をあげて、一人で立つことはできなかった。
娘は壊れた。
人形のようになった。
そうして、一年が経ったころ、娘のもとに現れた娘に焦がれた男。
借金を肩代わりするといわれて親はすぐさま結婚を許した。
親のすることではない。
愛するものがいた娘に最低な行為を強要して利用し、またお金という甘言に誘われ娘を売った。
娘の心は壊れていたから抵抗はしなかった。
できなかった。
娘は親にこう言われていた。
愛する彼に会いたいのなら私の言うことを聞くようにしろとね。
娘は壊れながらも信じていたんだ。
でも、信じていた心は打ち砕かれた。
一切、本当に愛している者に娘を会わせないと半月が経った頃宣言されて、壊れていた心がよりボロボロになって砕け散った。
彼も娘に会わせてくれと娘の家まで行って頼んだよ。
でも、彼らは何かと理由を付けて断った。
彼は娘に会おうと彼らに気づかれないように娘の下に足を運んだ。
会いに行ったんだ。
娘に……。
その時、彼は見てしまった。
娘と他の男の醜悪な行為を……。
それから、彼は裏切られたと娘のもとに赴かなくなった。
本当は違かったのにね。
彼は後悔したんだ。
娘に起こった真実を知ったときに……。
娘に一目ぼれした男が言ったんだ。
たまたま彼はそこにいた。
そして、男は友人とでも話していたのだろう。
そこは酒場だった。
街はずれにある大きくも小さくもない酒場。
お酒を飲んでアルコールが回ったのかペラペラと男は喋った。
自分が娘の親を騙して借金を作らせたことも娘に関係を迫ったことも――。
娘にそれを断られたから親にお金のことをもちだして彼女に最低な行為を強要したことも――。
彼は娘を信じなかったことを悔やんだ。
そこから彼は望んだ。
力が欲しいと。
何を代償にしても欲しいと。
そうしたら、声が聞こえてきた。
澄んだ綺麗な声。
まさに、人を惑わす声といえたよ。
「力が欲しいならくれてやろう。代償はそなたの命。お主は力を手に入れて不老不死になる。その力がお前を生かす。死のうとしてもしねないだろう。」
確かに聞こえた声。
甘い甘い甘言に彼は誘われた。
望んでいたものがすぐに手に入るのだから。
そして、彼は人の身には過ぎた力を掌中に収めていた。
彼はまず、その力を娘のためにつかった。
力の使い方は力を手にしたときに頭の中に流れ込んできたから、初めてでも失敗せずに使えた。
彼が娘に使った力は娘を楽にさせてあげることだった。
娘は眠るように息を引き取った。
そして、彼は娘にもう一つ力を使った。
今度生まれるときは幸せであるようにと。
また、彼自身に会ってくれるように願い、力を使った。
そうしたら、娘の体も魂もサラサラと光を発して消えていった。
娘の魂は穢れがなく、純白だった。
とても綺麗だと思えたよ。
そして、彼は復讐に走った。
憎くて憎くてたまらない者たちに……。
まずは、娘の親が標的になった。
彼は力を使い、娘の親を陥れた。
借金なんてマシだと思わせるようなことを願った。
娘の親は罪を暴かれて一生強制労働になったよ。
泥水にまみれてお金も碌に得られなくなっていたよ。
あれはいい気味って思えた。
なぜなら、娘と彼を引き離して、娘を最低なことに利用しながら、娘の親は金の亡者になって甘い汁を吸って生きていたから。
それ相応の罰だと思えた。
そうして、僕は次の復讐に移った。
娘の心をボロボロにした張本人に会った。
あいつは娘にしたことを謝って娘はどこかに消えてしまった、死んでしまったのだろうと言った。
謝られても意味なんてないのにな。
彼も傷ついたが娘もより傷ついた。
心に深い傷を負ったのは娘の方だ。
謝り続けていた。
彼に嫉妬したのだと本心を打ち明けながら……。
でも、謝るならやらなければよかったことだ。
彼は、娘のことを計略にかけた男を許すことはなかった。
愚かな男自身ではなく、その男の治める都市に被害を与えた。
「子々孫々、お前たちはこの都市で暮らすのだ。都市の人々が都市が魔物によって滅びるまで、魔物は居続ける。人々の負の感情を糧としながら……。」
彼は呪った。
愚かな男を憎み願った。
彼の言葉から魔物は生まれた。
そして、すぐに終わってしまっては、楽になってしまってはつまらないという理由で彼は人々に希望を与えた。
魔物を倒す力を持つ者の誕生を願い、人々に希望を持たせた。
力を持った者が現れたところで魔物が滅ぶわけがないのにね。
愚かな男が犯した罪から出現した魔物。
それを知った都市の人々は男を殺そうとした。
でもね、魔物は許さなかった。
男が殺されることを……。
魔物は男に人々が殺されるところを見せていたよ。
彼が寿命で死ぬまでずーっとね。
魔物は僕の願いを叶えてくれたんだ。
僕の願いから生まれた魔物たちは僕の欲望を……。
男を楽になんてさせない。
苦しみ、もがきながらあの世に逝けばいいという僕の気持ちを叶えた。