5話
レグリズは唱える。
「我の仲間の命を癒す清き水。我の敵を消滅させる清き水よ。善を助け、邪を払え。我の仲間を守り、敵を一掃せよ。我は許す。我の命を仲間に与えることを……。我の命を敵を駆逐するために使うことを……。我は清き水を操るもの。清き水よ、我の命に答えて現れたまえ。仲間を治し、敵を倒せ。」
彼の呪文から出てきた水。
聖水。
どこから出てきたなんて言うのは愚問。
彼の命を削り作られたもの。
また、二つの要素がある呪文のためにぶっ倒れてもおかしくはない。
二つの効果をいれるなんて、複雑な呪文だ。
言葉は簡単だが、力の方向性が違うもの。
メルフィトの時は私たちに雷が当たらないようにしただけなのでそんな複雑ではない。
複雑ではないけれど、一つの要素を使うよりは疲れる。
しかし、片方が攻撃で片方が治癒。
全く逆の方向性のものを使うのには多大に疲弊する。
レグリズはそれを承知で二つの要素をいれた。
一人でも欠けたらいけない。
帰るために……。
オーリアは後から使ってもらい、傷を治してもらおうとしていた。
実際は、彼が魔物の排除とともに仲間の治癒も行っている。
彼ら四人と魔物たち全体に水がかかった。
四人のうち傷を負ったもの全員の傷がみるみるなくなっていく。
この治癒能力はレグリズ自身には使用できないので難点だ。
彼は、命を分け与えるものだから。
逆に、魔物たちは聖水を浴びて大きな鳴き声をあげながら消えていく。
跡形もなく。
「ぁ……と……ひとつ…………です…………べて…………が…………ぉゎ…………る。」
消える際大型の魔物はそういった。
『あとひとつですべてがおわる。』
これはどんな意味を持つのか。
だが、魔物が言葉を口にしたことで知性があると分かった。
彼らは魔物を倒して、原因を潰して都市に帰ることはできるのだろうか。
それとも魔物を倒すことは叶わないのか。
こらからの戦いは辛いものになるであろう。
まずは、真っ青な顔をしている彼をどうにかしなければ……。
私たちは、知らなかった。
メルフィトが浸食されていたなんて……。
知らなかったんだ。
彼には、ご飯と水を突っ込んだ。
苦しそうにうめいていたが、問答無用。
私たちをしんぱいさせた罰。
少し休憩をはさんでまた動くことになるだろう。
ここから先は辛いことになるかもしれない。
魔物は知性を持っていた。
知性を活かして攻撃手段や強い魔物同市が協力してしまったら……。
でも、どっちにしろ倒すだけ。
私たちは負けられない。
こんなことをよく考えられていたと自分でも思う。
あの人が相手なんて知らなかった。
あの人が相手なら私は手を下せない。
そして、共にここまで行動してきた仲間と……。
静かなブークダッラの森の中。
さっきまで魔物に襲われていたことが嘘みたいだ。
慎重に歩きながら進んだ。
そこにいたのは……。
『ミスト。』
少女がこの森に入って魔物発生の原因を突き止めて死んだといっていた人。
マレイナ都市で一番人々を魔物から救っていた年長者で力を持っていた者。
なぜ、ここにいるのか。
全く傷も何もない姿で……。
「ご苦労様です。レルー。」
レルーとは誰のことだ。
その疑問はすぐに解消された。
少女のレリスの声が響く。
「はい、マスター。ご苦労様です。いい子いい子してください。レルーはマスターの約束を守りました。」
マスターと呼ばれたミストは少女を撫でる。
レルーという名が本名なのだろう。
「どういうこと?ミストは死んだって……。」
ミストは事も無げに言う。
「そんなの嘘に決まっているでしょう。オーリア。君の素直さは案外嫌いじゃないですよ。いいえ、むしろ好きと言っていいでしょう。オーリア、あなたがいなければ私はこんなことしませんでしたから。」
オーリアは驚愕した。
自分がいるからミストがこのような行動に出ることになったと聞いて……。
「ミスト。それはどういうこと?」
声は震える。
なぜこんなことになっているのか理解できない。
ミストがここで生きていたなら、水晶の話はどうなる?
魔物の発生が起こっていた元凶の話は……。
「オーリア。いえ、リーア。あなたの考えていることはわかります。手に取るようにね。どうせ、魔物の発生の元凶、水晶のことを考えていたのでしょうね。そんなのは、嘘です。デマです。」
ミストは笑っている。
魔物のことなどどうでもいいというように……。
「リーア。いい知らせですよ。マレイナ都市の人々は全てこの世から消えました。都市も壊滅したといってもいいでしょう。ここにマレイナ都市の出身は私をいれて四人。オーリア、レグリズ、メルフィトそして私。おや、そんなに怯えてどうしたのですかリーア。」
ミストの言うようにオーリアは震えていた。
そして、助けを求めるように二人に駆け寄る。
「ミストが都市を滅ぼしてしたって……。私たちの故郷を滅ぼしたって言っているのに何で二人とも何も言わないの?」
オーリアは後悔した。
彼らの目を見て……。
「リーア。彼らは私が作った人形です。人間ではありません。彼らにあることをすると私の命令しか聞けなくなるんです。それに、その間のことは何も覚えてません。」
薄くてほの暗い目。
淀みきっている瞳。
何が起こっているのか頭が追い付かない。
二人が人形?
そんなわけない。
さっきまで、動いていた。
意志もあって話していた。
彼らが作られた人形なわけがない。
そんなわけがない。
「レグリズいえ、レリス。メルフィトはテドル。私の命に従いなさい。リーア、オーリア・フロスを捕まえなさい。」
少女がレルーが使っていたレリスという名はレグリズの本名?
メルフィトはテドルと言う名前だった?
分からない。
私は、ボーっとした思考を繰り返した。
そして、捕まった。
彼らに……。
共に過ごした仲間に強い力でつかまれた。
両手首を逃げることのないように……。
やめて。
痛いよ。
それが心の声。
手首の痛さを表していたのか。
彼らとこんなことになってしまったからか。
理由はどっちもなのだろう。
でも、心が痛むのは、あなたたちが操り人形になってしまったから。
そっちの方が心の大半を占めているよ。