1話
魔物が蔓延る都市。
“マレイナ”。
人々には逃げるところがなかった。
必然と人々は魔物の餌食となる。
しかし、マレイナ都市には特別な力を持った者たちがいた。
彼らは、魔物から人々を守れることができる人。
特別な力を駆使して、彼らは人々を助ける。
自分の命を削りながら……。
人々の助けとなる。
彼らに課された義務でもあるのだから。
ある日、魔物に逃げ惑う人々と特別な力を持つ人の前に現れた。
一人の少女。
少女は言った。
「魔物が発生した原因を知っています。」
人々はそれに食いついた。
元凶を絶てば、怯えながら生活することもない。
人々を代表するように一人が少女に質問した。
「何が原因なんだ?」
少女は答える。
「このマレイナの近くにある森。ブークダッラの森にある透明な水晶が真っ黒く染まったことが魔物が発生した原因だそうです。」
また一人が少女に言った。
「君はどうしてそんなことを知っている? 君は力を持っているのかい?」
この力を持つの意味は魔物を倒す力を持っているのかということだ。
少女は首を振った。
「私は力を持っていません。」
少女はすぐさま非難の声をあげようとしていた人の声を遮って、もう一つの疑問に回答する。
「……ですが! 私を拾ってくれたミスト・シルファさんがブークダッラの森へ行き、元凶を突き止めました。帰ってきてすぐに言ったことは、森の最奥部にある水晶のことでした。ミストさんは血だらけでした。きっと、多くの魔物と戦ったのでしょう。私に魔物の発生した原因のことを話してから、そこが限界だったのかミストさんは息を引き取りました。」
少女の話が衝撃的だったのか。
人々は黙り込んでしまいました。
そこには、このマレイナ都市で一番人々を魔物から救っていた年長者で力を持っていた者が死んだという知らせを聞いたからというのもあるだろう。
でも、そんなことをしていたところで話は進まない。
魔物が消え去っていくわけではない。
人々が多く集まっている今を狙われたら、こちら側に多くの被害がでる。
なるべく、話は早く終わらせたい。
そんな心情があったからだろう。
話を進め、終わらせるために魔物を倒す力を持つ者の一人が少女に問いかけた。
「それで、君はどうして欲しいのですか? 私たちに……。」
それは、すべての力を持つ者たちの心を表しているようだ。
また、力を持った者は力のない人々を守る存在。
力を持つ者は人々にも聞きました。
「あなたたちは、私たちにどうして欲しいですか?」
力を持つ者は人々を見渡した。
人々は口を引き結んでいましたが、やがて決心したのか……。
少女はその答えと一緒のようでうなずいていた。
少女と力を持つ者たちはブークダッラの森に歩き出す。
力を持つ者は三人。
一人はオーリア。
一人はレグリズ。
一人はメルフィト。
魔物を倒す力を強く持ったものが森に赴くことになった。
彼らが都市に帰るまでは、何とか魔物に殺されないように、一人でも多くのものを助けることができるようにする。
そうして、お互い生きて会おうと約束した。
力を持っていないのに少女はついてきた。
半分、脅されたといえるだろう。
「私がいないと、水晶を透明に戻す方法がわかりませんよ。ミストさんの仇のようなものをとれるというのに行かないわけがないでしょう? もちろん、連れて行ってくださるわよね?」
何度も水晶を透明に戻す方法を尋ねたが頑固なのか口を割らない。
結局、少女がいないと元凶を絶つ方法がわからないために連れていくことになった。
あの時、都市の人々は言った。
「怖いけど、あなたたちが元凶を絶てば、私たちは怯えながら生活する必要がなくなる。だから、ブークダッラの森に行って、魔物の発生を止めてくれ!」
「お前たちに頼りっぱなしで悪いがこの通り!」
集まっていた人々全員に頭を下げられた。
力のない者だけを置いていくわけにはいかないので、最も力の強い者たちを選出することになった。
ミストが亡くなるほどの大怪我を負ったのなら、強い力を持った者でないと原因である水晶の元まで辿りつけないと話し合った結果だ。
やっと、ブークダッラの森の前に着いた。
「覚悟はできてる? ここから先は魔物の巣窟。」
「死ぬかもしれないな。」
「でも、生きて帰ると誓った。あいつらと……。」
上から、オーリア。
レグリズ。
メルフィトの発言。
「意気込んでるところ悪いですけど、私を忘れないでください。足手まといにはならないように気を付けますが、何があるか分からないのですから。見捨てたりなんかしないでくださいね。」
少女は意気込んでいる三人の醸し出した空気を蒼々とぶち壊す。
三人は溜息を吐いた。
「本当に行くの? 死ぬかもよ?」
「今更だと思います。私はそれを覚悟で行きますけど……、助けられるのに見捨てたら許しませんってことです。」
オーリアの言葉に少女は強かな回答をする。
メルフィトは溜息を吐いて言う。
「君がいないと、水晶を透明にする方法が永遠にわからなくなる。だから、そんなことはしない。」
「そうそう、そんなことしないだろう。後味悪いしな。ところで、お前の名前なんだよ。」
その彼の発言に呆れたような声をこぼす彼女。
「レグリズは緊張感が足りないよ。」
「でも、知っとかないと不便ではあるよ。リア。」
メルフィトは言う。
リアとはオーリアの愛称、あだ名のようなものだ。
「そうかもだけど……。」
ブツブツ呟いている彼女を無視して、少女は言った。
「私のことは、レリスとでも呼んでください。」
「『レリスとでも』って偽名?」
「死地を共にしようとするのに偽名はないだろうよ。」
少女はか細く謝る。
しかし、その名前を改めようとはしなかった。
なんでも、自分の本名はミストだけが知っていればいいとか……。
こんなんで、少女は本当に水晶を透明に戻す方法を教えてくれるのだろうか。
疑心暗鬼になるが、少女を信じることしかできない。