1章:妖精族のアルー2
宴は何日も続いた。そして、何日も宴が続けば、演芸の知識に疎いジュリアも流石に振り付けを覚えてくる。4の数だけ波打つリズムに合わせてジュリアは踊った。体を動かし流れに乗る喜びに、不思議と疲れは感じない。
一方、ロイは酒を口に運びながらただそれを見るのみだった。
「ねえ、ロイ」
輪から抜け出し、ジュリアはロイの手を取った。軽く引くが、ロイは動こうとしない。苦笑し、ジュリアを見つめるだけだ。
「ロイも踊りましょう」
「いやあ、オレはいいよ」
「どうして? こんなに楽しい、のに」
はっとしてジュリアは振り返った。そこにはいつものように踊っている妖精族がいる。
「寝たのは、いつかしら」
ジュリアは1番近くにいた妖精族へ駆け寄った。とにかく何かを訊こうと手を伸ばす。
相手はジュリアの手が触れる前に消えてしまった。
「えっ、あっ、なん、で……」
「ジュリアが消したんだよ」
「どういうことなの?」
「奴らは魔力でできてるからなぁ。ジュリアの体質じゃあ本気出せば消えちゃうってわけ」
「魔力でできてるの? なら、これは夢?」
「近いんじゃね?」
ジュリアは周りを見回した。相変わらず楽しそうな宴が繰り広げられており、参加したくてそわそわしてしまう。
だが何かが違う。ジュリアはそう確信した。その途端、視界が歪み、一瞬だけジュリアの足元がおぼつかなくなる。
ジュリアはロイを見た。
「出たい。いえ、出ましょう」
「おう」
ロイが返事をした直後、何かの欠片が落ちた。それが皮切りになったのか、次から次へとその欠片は増えていく。あれよあれよと言う間に、景色が変わり、宴は跡形も無くなってしまった。
視界がはっきりしたのを確認してジュリアは見回し、状況を確認する。今までと違って暗闇だったが不思議と周りは見える。
ジュリアたちは建物の陰に横たわっていた。状況的に捨てられたのが正しいだろう。どのくらいその状況だったかわからないが、かなり体がこわばっている。
「どうしてこんなところに」
起き上がりながらジュリアは言った。
ロイも起き上がり、自身の腰をさする。
「さあね。大方、アルーに会わせたくないから捨てたってとこだろ」
「それならすぐに殺せばいいのに」
現状から察するにジュリアたちは完全な無防備だった。殺す機会なら山ほどあったはずで、邪魔なのならば殺さない理由などない。
ジュリアは立ち上がった。理由は気になるが、今はそれどころではない。
「ジュリア、動くのか?」
「うん。だって死にたくないもの」
何かしらの形でジュリアたちが目覚めたことを、ジュリアたちに術をかけた術者は知ることになるだろう。そうなれば、眠らせるなんて手緩い形で終わるとは思えない。
何よりジュリアは生きたい。みすみす殺されなどするものか。
「ねえ、ロイ」
「アルーの居場所はわかる?」
「おおよそなら」
「連れて行って」
「了解した」
ロイは立ち上がった。ジュリアもそれに合わせて立ち上がる。
土地勘も何もない場所を、ジュリアはロイに先導されるまま隠れて進んだ。