神様転生
遅くなりました、今年最後の投稿です。
「やあ、初めましてだね。こうして会うのは無論、僕の声を聴いたのも初めてなのだろう。きっと、突然何を言ったるんだと思っているだろうが、謝らなくてはならないことがある。間違って君を殺してしまったんだ御詫びをしたいんだが、何か望みはあるかな」
突然、真っ白な空間に私はいた。
状況を理解できるわけもなく、上の空。翼が生えた男が話しかけてきたが、右から左に聞き流すのみだ。
それよりも状況の確認が先だ。まずは、体をさわる。両手両足、体、頭、心臓と一通り確認すると、衝撃が私の体を吹き抜けた。
今起こっているものではない。過去に発生したものだ。
道端で遊んでいたこどもを私が身をていして守って、トラックに轢かれた時の。
恐らくは幻肢痛。知識によって知っていた状況のため、考え付いたらすぐに落ち着けた。
もうどこにも傷がないはずなのに、心が痛みを覚えている。そういった感じかな。
一端、混乱の極致に達してしまったためか、この不自然な状況の中でも冷静さを取り戻せた。
単なるメッキかもしれないが。
「うぅっ……。まさか、そんな痛みを身に秘めているなんて、何でも言ってごらん、どんな願いであろうともかなえてあげるから」
「え~と、あなた誰、です……ございましょうか」
相手がどんな人物かわからないからとりあえず敬語でいよう。
「僕、僕は神だよ」
「そうですか、神様ですか」
どうしよう、この人変な人だ。状況から推測するに、私はトラックに轢かれた。だが、思ったよりも軽症であった為にそのままベットに、精神病棟も兼ねていて変な人に絡まれているのだろう。
正直、自分でもわかるほどに穴だらけの推理である。
「君、今、失礼なことを考えたでしょ」
やばい、ばれている。
「まぁ、根掘り葉掘り、尋ねる気はないよ。調べればわかるがまぁ、面倒だし。そうだね、証拠を見せよう。この僕が神であることの」
そういって、指を鳴らすと世界が豹変した。
先ほどまでの真っ白な空間から、緑豊かな庭へと、私も、この庭におかれたテーブルセットに腰を下ろしている。
こんなこと、私の知りうる既存の技術ではできない。
まだ、夢を見ているのかもしれないが、それでも、目の前の存在を神と信じる気持ちにはなれた。
「それで、その、神……神様が私にどのような御用なのでしょうか」
やばい、今一瞬神様に対して、呼び捨てにしそうになった。偉い人そうなので、敬語は続行しよう。
「そうだね、さっき君のことを間違えて殺したと僕は言ったが、正確には運命の外に出たといったほうが近いかな。君には認識で気はしないだろうが、この世界は運命という巨大な歯車の上で成り立っている。運命の外に出たというのは、裏を返せば新しいルートを生み出せる存在であると他ならない。どうだい、僕に協力してはくれないかな」
「私は何をすればいいのでしょうか」
「そうだね、世界を幻からリアルに引き上げてほしいんだ。特別な事情は何も求めない。君は好き勝手生きてくれればいい。何なら、君自身が望む世界を作ってあげてもいいよ。俗にいう、神様転生さ」
神様が投げかけてきた問いかけに、私は迷わず飛びついた。
この世界に存在するありとあらゆる理不尽から逃れられる。
圧倒的な力を持ち、自身の欲望をかなえられる。
夢そのものが現実となった世界。
そうしたものの多くが人間にとって、非常に魅力的なものだ。
事実として、私はこんなにもときめいているのだから。
こうして私は、転生することを決意した。
慎重に吟味したところ、まず、危険度が低い世界。それでいてある程度のファンタジー要素がある世界、その結果選ばれたのが、自陣営には蘇生魔法が存在し、相手側には存在しないためか、一切の死人が出ないある乙女ゲーの世界だった。
「う~ん、このままじゃ少し運命が不安あるし、今日、死ぬ子を一人サポートに回すか」
この決断を彼が苦悩するのはだいぶ先の話である。
理屈なんて、無しにしようとしたのに、どうしても理屈をこねてしまう。