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決裂

この作品、ホラーにしたほうがいいかなと最近思う。

「うぅ、・・・・・・痛い、痛いよぉ~」

 傷ついた彼女は、大きな声を出し痛みを訴えることも。暴れまわることもなかった。

 ただ弱々しく痛みをうったえるだけ。

 手足が一本ずつ消え去っていた。そのせいでバランスをとることも、立ち上がることもできずに、みっともなく地を転がることしか出来ていない。

 止血をしなければ死んでしまう。この時私を突き動かしていた感情は罪悪感だと思う。

 冷静になって考えてみたら、相手は極悪人、見捨ててもいいはずだ。

 

 それでも悪だからと、殺していい理由にはならない。


「大丈夫、今助けを……」


 懐にはハンカチが入れていたはず、これでなんとか処置ができるはず。


「な~ンチャッて、嘘だよ嘘。これぐらいの傷すぐに治るから心配することはないさ」


 必死な思いは、おどけた様子の彼女に裏切られた。

事実、時をまき戻したかのように、元の姿を取り戻していった。

 感覚を確かめるように、手を開閉していくと指を立てる。そこから、黒い顔のようなものが浮かび上がる。

 別に、ゲームにおいて、こうした系統のモンスターは珍しくはない。

 印象に残った点はむしろ、刻一刻と変化していく表情の方だ。画面上では見られない変化のために、注意が惹かれた。


「レイス、俗に言う低級霊さ」


 すぐに消え去ったが、雑な説明だ。

確か幻術系の攻撃をしてきたはずだが、今見た光景が幻だったのか、攻撃を防ぐのに活用したのか、回復能力に関係があるのかは判別できない。

 無論、教えたところで最も利益がないのは彼女だろう。


腕を組み、自信満々な顔でこちらを見てくるのだから、恐ろしい力を秘めているのは分かる。

案外、自慢したがっているのかもしれない。

聞いてみようかとも思ったが、このポーズはゲームで彼女がよくとっていたものなので、懐かしさがこみ上げ、しばし沈黙してしまった。


「さっき両親を殺したというけど、その時に契約したんだ。この世界観では、種族的な制約がゆるいからね。魔王は魔物たちの王という設定だけど、魔物の中には悪魔とか、霊とかいるし、設定がめんどくさくなって放り投げたのか、ファンタジー的なものとなっているのか、分からないな」

「それが、この件とどう、関係があるの」


 迷っていると勝手に話を進められた。


「ようするに、家族をぶち殺したのを利用して、悪魔と契約したんだよ」 なにせ、ただ殺すだけならもったいないかんらね。


 そこには理解などしたくもない現実があった。

 もしかしたら、多くの上流階級の子供がそうであったように、彼女も乳母に育てられたのだろうか。

 それならば、まだ納得できる。

 ともにすごした時間というのは、思いのほか重要だ。

 これはよく言われていることなのだが、すごした時間が長くなれば長くなるほど人間は、共に過ごした人間に対して好意を持つ。

 こんなに一緒にいたのだから、好きなはずだという一種の逆説も含んでいるのだろうが、それでも共にすごした人間に特別な感情を持つのは当然のことだ。

 そんな人間を殺害するならまだしも、その死を冒涜できるものだろうか。

 そこまで考えて、私は急に怖くなった。

 走りだしたら止まらない。

 むしろ、どうして今まで、逃げ出さなかったのかが不思議なくらいだった。


 それでも、足に何かを引っ張るような感触を受け、転んでしまった。

「何、一体」

 そして、見えたのは、地面から伸びる黒い腕。

 そして上質なドレスを揺らしながら近づいてくる一人の存在。

「まったく、話は終わっていないぞ、とはいえ、これ以上長引かせるのも、かったるいな。結論を聞かせてもらえないかな。勧誘に乗るかどうか」

 目の前の何かは、言葉を発している。けれど、私には何を言っているのか分からない。


「こないで」


 絞り出すように、口から出たのはそこまで、後は言葉にすらなっていない。

 無茶苦茶に叫びながら、あたりに破壊をふりまいていく。


「ちょっ、落ち着いて、マジだから、これけっこうガチだから、話し合おう、話し合おうじゃないか」


 その呼びかけを私は聞いていない。すべてが怖くて、耳と目をふさいでいたから。

 何も聞かず、見ず、嵐が過ぎ去るのを待つ。


 恐怖に身を犯された私にできた唯一の抵抗がそれだった。


 それを止めたのは意外にも外部からの接触だった。


「大丈夫。ここにはもうあなたを傷つけるものなんて何もないんだから」


 ぞっとするほど冷たい腕と、暖かな心臓の根が私を包み込んだ。


 それでも、私は止まらずに、何度も何度も魔力を放出したのだが、抱きしめられるという明確な外部からの信号を私は無視しきることができなかった。

 むろん、抱きしめてきた正体が


「まったく、バーサーカーなんて、あまりにありふれているから新鮮味にかけるね。でもまぁ、これから修行パー」


 すべての元凶じゃなければの話だが。

 目の前で偉そうにに高説垂れている悪の権化に突っ込みには過剰なのは分かっているが、それでも最上級に魔力弾を叩き込んでやる。

 うん、きっとギャグパートだから死なないわよね、こいつ。

 実際問題おなかに大きな穴が開いたけど、黒い液体が染みだしてきてすぐに修復された。


「まったく、ひどいことするね君は。それで、さっきの勧誘に戻るんだけど」

「断るわ。そして二度と私の前に現れないで」

「フムフム、いいねいいね、見事な敵対発言だ。これだよこれ、この発言を待っていたんだ。それから君に一つ、残念なお話があるんだ。君のその要望叶わないな。私たちには縁がある、それは私より君のほうが理解していることだろう。運命の赤い糸といえばきこえがいいが、破滅につながっている糸だ。お互いのうちどちらかが、いや、両方共が合わないように細心の注意を払おうとも会う運命にあるだろうね」


 その答えは私が望むものではなかった。


「フッ、あ~、怖い怖い、さきほどまで恐怖で震えていたのが嘘みたいだ。一周まわって冷静になったのか、もともと素質があったのか、それとも何らかの補正が働いたのか、身を守るための防衛本能なのか……どうでもいいな」

 それではまた。


 最後にそう言い放つと、彼女は闇に消えた。


 消えたのを確認すると私はその場で崩れ落ちてしまった。

 なんてことはない、あの場で私が踏みとどまることができたのは、単純に足が動かなかったからだ。

 だから、自分の身を守るために虚勢を張れた。

 その緊張の糸もかの……じょが、きえたことで…………


最後のは寝落ちです

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