乱闘
2000字程度だと楽だ。
「それって、勝者の言葉だね。まずはじめに言っておくと、僕は別に君を妬んでいる訳じゃないんだ。これを聞いたとしても、君は私の自意識過剰だとしか思わないかもしれないな。事実そうなんだろう、話の流れと関係ないしね。だからこそ思うんだ。他人へと思いやり、慈しみ、そこからくる罪に対する許し。そういうものはさ、余裕があるから、勝者だから言えるものじゃないかな。物語にはお約束というものがあるんだが、まぁ、主人公が善意の象徴として描かれる場合だ。むろん例外はあるんだが、見方陣営が死なないんだよ。これっておかしな話だとは思わないかな。同じ位の戦力レベルで戦っているのにだよ。一対一のバトルにもつれ込み、ピンチになれど何だかんだで勝利して、場合によっては援軍だって到着するんだ。理不尽な話だ」
「それで何が言いたいのよ」
「簡単さ。最終章とか、モブとか、主人公陣営の成長の布石とかの例外を除けば人が死なない世界における、主人公の善性は、仲間を理不尽な理由で殺されても貫けるものなのかな」
い・っ・た・い・こ・い・つ・は・な・に・を・い・っ・て・る・ん・だ。
まだ、この女は先ほど押し倒してきた場所からさほど動いていない。
それでも数メートルの距離はある。
幼い私にとって、よく格闘漫画で出てくる制空権の外といえる。
それ何に、一っ跳びで彼女に組み敷いた。
お互いの容姿からして、傍から見れば戯れ合っているかのようにしか見えないだろう。
だが、違う。そんな可愛らしいものでは断じてない。
「一体何をした、私の家族に、友達にいったい何をした!!」
私がやったのは、彼女の肩をつかみ、顔を寄せて大声で怒鳴りつけるだけ。
そして、彼女は未だに薄っすらとした笑みを途切れさせてはいない。
「おいおい、首を絞めろよ」
呆れたように、発した言葉に、思わず肩をつかむ力を緩めてしまう。
「どうした、私は家族をぶち殺したんだぞ。どうした、殺しに来い、遠慮なんていらない、さぁ、やれ、殺す気でこい。それともお前の家族や友達に対する思いはその程度なのか」
その挑発に、耐え切れず、肩を掴んでいた手すら放してしまう。
「ふぅ~ン。よく転生もので思える疑問なんだけど、君にとって両親とはどういう存在なんだい。どうでもいい他人なのかな。初めから自意識があるんだ。そう思うことに無理はないさ。だがな、親だろう。今世にかけては産んでくれた人たちだ。責任を持て!! 両親を悲しませるんじゃないぞ!! 私は親を殺したといった!! ならばやることは決まっているだろう!! さぁ、やれよ!!」
そういうと、彼女は私の手を首筋へと持ってくる。
息遣いが荒くなる。
とめどなく汗が流れ落ち、服が張り付いてきているので、気持ち悪くもある。
「それとこれ、お見上げさ」
そういって渡されたのは、眼球だった。
「一つ純粋な興味から質問するんだけど、君のところのメイド、世話係兼サポートキャラがいただろう。あれの瞳って何色だったろうか」
もはや自分が、何を言っているのかわからなかった。
無茶苦茶な叫びをあげた。
しっかりと握りしめた、首に大きな力を加えていく。
永遠とも思える瞬間。けど、実際には本当に短い時間なのだろう。
胃からこみあげてくる気持ち悪さから、私は彼女から手を放した。
「まったく情けない、ゲロインなんてもの、ギャグ漫画の中でしか需要がないんだよ。乙女ゲー世界観でやることじゃないね」
「黙れ!! 黙れ、黙れ、黙れッ!!」
「それと、実は君に謝らなければならないことがあるんだ。一つ嘘をついたんだ。正確には嘘ではなく、言ってないだけだけど、人によっては嘘に変わりないしね。本当のことを言うと君が話を聞かないで逃げ出してしまうと思ってさ。私が屋敷から逃亡できた理由さ。何てことはない、皆殺しにしたんだよ、私の家族を。先ほど家族を殺したといったけど、安心してもいいよ。殺したのは私の家族だ、君のじゃない。」
ついでに言うと、この目玉も、ふ~ンと、確か、そうそう、私のお母さんのものだね。生きたまま目を抉り出すと、本当にショック死するんだね、初めて知ったよ。
そう続けられた言葉を私は聞いてなんていなかった。
安堵感よりも先に、家族に対する心配よりも先に、この少女に対する途方もない恐怖感が先だった。
嗚咽。
泣いた。とにかく泣いた。
その悲しみに、私に秘められた莫大な量の魔力が反応する。
一切合財全てが灰燼と化すほどの圧倒的な破壊力。
ストレスを破壊という形で放出した私は、先ほどまで泣いていたのがウソなように、クリアになった頭で当たりの様子を窺うことができた。
「あっ」
最初に思ったのは、彼女の安否だ。
悪人であろうとも、殺すというのはやりすぎだ。少なくとも法の下に決着をつけるべきと、冷静になったために、そう思えた。
そして次に思ったのは、自分が人を殺したのではないかという、恐怖感だった。
前話、修正しました。