恋する乙女は最強ですから!
ふんわり雰囲気だけですが楽しんでもらえたら幸いです
好き好き言い続けてきたのは、この想いの一端をすこしでも吐露したかったから。伝えるためでも叶えるためでもなかったんですよ。
私のなかに溜め込んどくのが辛いくらい、あなたへの想いはいっぱいで毎日毎日広がって増えていく。
「私の目を見てください」
「えーお前隙あらばすーぐ俺を言いくるめようとするからなぁ」
生徒たちとの研修任務で失敗したツケを、彼は負っている。
軽やかにだけど力なく笑う目の前の人を心配とそれ以上に伝えねばならない使命感に拳をにぎり、言葉を重ねる。
「いやいや私は心の底から先生のことを心配して!」
「それはありがたいけど、お前に助けてもらわないとなんとかできないなんてそれこそ先生の名折れだし?」
「じゃあなんにも手伝いませんから!」
言葉の応酬はいつものこと。
彼は確かに私の先生だけど、これは義務教育でもないし私は未成年でもない。厳密には私は生徒ではないことだし。
でもそれが良いか悪いか、話を進められない。
「えーじゃあなんのためだよ」
「私、先生と二人っきりになりたいんです!密室で!」
あ、悪手だ、と言ってから気がついた。
よくあることだから違和感は持たれない。でも、よくあることだから、事の緊急性をそれとなく伝える術がない。
焦る私の裏表どちらの願望も表した主張に、先生は深くため息をついた。
「・・・マジ却下」
「いやーー!」
「嫌ってお前、聞く前に答えわかんだろーが」
「あの、そうじゃなくて、そうなんだけど、違うんですー!全っ然、これっぽっちも邪な気持ちとかないんですーー!!」
まさかこの学園内に裏切り者がいるなんて。
だけど私がそれを口にしたとばれた瞬間に向こうも踏み込んでくるだろう。
いまならまだ、裏切り者が敵に私のことを伝える時間はなかっただろうから間に合う。裏切り者も敵に伝えようとはしてるだろうけれど、それを私に見せないように目立つ行為は控えているはずだ。伝わる前に敵の目が私に向く前にそれとなく伝えて対策を練らなくてはならない、というのに。
「そこまで断言されんのもなんだかな・・・」
「先生聞いてますか!?私は、先生に、その、マジですぐ聞いていただきたい相談ごとがあるんです!」
「それはそれでお前、よくある口実すぎるわ」
「えええー!確かに私は先生を好きですが、そうじゃなくて!」
「つか、周りの目がいてえよ俺は」
「っ、それは、お騒がせしてすみませんーーー!」
どうしてこう、焦れば焦るほどいつもの流れになってしまうのか。
うなだれた私の肩を、隣の組の担任が優しく叩いた。
「毎度夫婦漫才おつかれさまー」
「夫婦じゃねえ」
「そこの甲斐性なしはほっといて、まあでも、汐ちゃんの熱意に免じて少しくらいお話できるようにしてあげようか」
きれいに笑うこの人は、先生にそういう意味では欠片も興味がないのは知っている。
でも、私は覚悟を決めて首を振った。
「大丈夫です。先生のことは心配ですが、先生なら私の心配なんかなくてもなんとかできる方だと思ってますから」
「おい、シオ。お前、」
「では失礼します、お騒がせしてすみませんでした。先生、無理しないで頑張ってくださいね」
ぺこりと頭を下げて職員室と名のつく先生たちの溜まり場を後にする。もう頭の中には、どうやって状況を先生に伝えつつ学園の警備体制を調え敵を退けるか、それだけしかなかった。
大切な私の先生と居場所を侵そうとするものを、許すわけがない。全力をもって排除する。
さしあたっては、裏切り者をつかまえるか。脳裏に浮かぶのは、つい先ほど目を合わせるなりびくりと震えた、気弱そうな羊の皮を被った眼鏡の少年。
見覚えのなかったその子は私より下の組にいるはずだ。寝静まった学園の生徒たちの区域へ、頭に見取り図を思い浮かべながら私は笑った。
踏み出した私は、知らなかった。
この先、かつてそばにいた人と私を幼い頃から見守ってくれている人を失いそうになることなんて。
そしてそれでも駆け抜けるほど凍った私の心を揺さぶるのは先生しかいなくて、先生のためならいくらでも強くなれることも、何も私はわかっていなかった。
夢で見たことを忘れないうちにと勢いで書きました。
続き、といえるのか捕捉編もあるにはあるけど書くかどうかは未定です。
タイトル詐欺ですみません。でも、タイトルみたいな勢いのある子なんですこの子…