僕の料理
突飛なことに神様と同居することになった僕『石神純』は、台所に立っていた。
「おーう、晩飯はなにかな?」
と、声が後ろからかかる。おそらく、まだ寝そべって新聞でも読んでいるのだろう。よくもまあ飽きないものだ。
「クリームコロッケです。前にテレビでつくり方やってたんでチャレンジしてみたくて」
「へー、坊主はチャレンジできるほどに料理が上手いのか?」
「まあ、一人暮らし長いですから」
僕が一人暮らしを初めて3年。家事もそれなりにこなせるし楽しさも見つけているのだ。それに学生生活と両立できているというのが自分にすごいと言い聞かせている。
「んじゃ、期待してもいいかな?」
「え?おじさんも食べるんですか?」
「あたぼうよ。なんのために地上に降りてきたと思ってんだ」
「神様なのに?」
「そりゃあ、おじさんは神様だから食わなくてもいいんだがな、神にとっては食事ってのは娯楽の一つだから食べてみたいのよ、料理」
「はあ」
おじさんが若干声に力を入れて話した。神は食事をご所望のようだ。
「作るのは構いませんが……、食材が足りませんよ?」
「大丈夫だ。おじさん甲斐性なしじゃないから、自分の分は自分で出せるから」
「どうやって?」
「今まで働き詰めだったからな、それなりに持ってんのよ」
「神様なのに?」
「神様だからな」
なんて背中ごしに話しているうちに下ごしらえが終わった。あとは揚げるだけ。
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「できました〜」
「お、待ってました」
皿に盛ってちゃぶ台に持ってく。コトリ、皿を置く乾いた音とともにおじさんの顔色が悪くなる。
「なにこれ?炭?」
「クリームコロッケですよ……?」
「自信無く言うなよ。なに?お前一人暮らし長いのに料理できないの?」
「できてるじゃないですか」
「これは『できてる』って言わねーよ。よく揚げ物をこんな状態に持っていけたな」
おじさんはあきれ顔だ。
「しょうがないじゃないですか。僕、料理だけは上手くなれないんですよ」
台所と往復して他の食べ物も持っていく。
「これはもはや呪いの域だな」
「そこまで酷いですか?」
「はあー、おじさんやっぱり飯はいいや」
「そうですか」
いただきます、と手を合わせご飯を食べる。うん、このクリームコロッケは苦味を凝縮した感じだ。絶望的にまずい。
「お前……、よくそれ食えるな」
「フグは自分の毒で死なない、とは違いますが……これはもう『我慢』ですね。それに勿体無いじゃないですか」
「おう。勿体無いって言うならもっと上手く料理してやろうな」
ほとほと呆れたような顔でおじさんは新聞に顔を戻す。クリームはパサパサ、衣の一つ一つが砂のように固い。さすがに失敗していない米とお茶でそれらを流し込む。
「っ、はぁー……」
「本当に不味いんだな」
それからもばりぼりと乾いた音が続いた。
ある意味飯テロ
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